プロを目指す15歳から18歳のバレエダンサーが、今年も30日から登竜門の一つであるローザンヌ国際バレエコンクールに挑む。これまでも自分の生徒をこのコンクールで受賞させ、その後世界で活躍する一流のダンサーに育て上げたという実績を持つシェリー・パワー氏が、昨年9月からローザンヌで国際バレエコンクールのディレクターに就任した。芸術監督と最高経営責任者を兼任し、今年で45回目となるコンクールを初めて指揮する。パワー氏は、ローザンヌ国際バレエコンクールを今後どのように発展させたいと思っているのだろうか?
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横浜市出身。1999年からスイス在住。ジュネーブの大学院で国際関係論の修士号を取得。2001年から2016年まで、国連欧州本部にある朝日新聞ジュネーブ支局で、国際機関やスイスのニュースを担当。2016年からswissinfo.chの日本語編集部編集長。
プロを目指すダンサーに実践的な支援
パワー氏はこれまで12年間ヒューストン・バレエ・アカデミーのディレクターを務め、近年ローザンヌのコンクールでは、クリスチャン・アムチャステギさん(2010年に1位)やデリン・ワッタースさん(2011年に6位)といった受賞者を生み、世界で活躍する一流ダンサーを育ててきた。
経営責任者の目から見ると、「ローザンヌ国際バレエコンクールは、高い評価基準で、創設者ブランシュバイグ夫妻のビジョンである倫理的で実践的なレッスンを行い、バレエ学校やカンパニーとのパートナーシップを保ち、ダンス界のコンクールをリードする存在」と位置付ける。
近年は、こうしたコンクールを通過しなくても海外のバレエ学校に留学しやすくなり、プロになる前に希望のバレエ団で直接オーディションを受けたり、カンパニーの研修生となったりする人も増えている。ところが世界にはまだ、そういったアクセスがなかったり、金銭的な問題から国際コンクールを受けるチャンスに恵まれない才能ある人がいたりする。そこにパワー氏は目をつけているという。
「事前選考プロセスを拡大し、コンクールを受ける機会のない地域にいるダンサーにもチャンスを与え、より多くの学生ダンサーに繋がることを願っています」
ローザンヌ国際バレエコンクールは、ダンスのスキルやテクニックを評価するだけではなく、ダンサーの資質を特定し、プロの道へのアクセスを広げ、健康維持や学問的な教育を促進するという使命があるが、新ディレクターとなったパワー氏は「それ以上のもの」に取り組みたいと考えているという。そして、「もっとユニークな体験を提供したい」と明かす。
ユニークな体験
その一つは、「世界のスターといわれる審査員や振付家の言葉をたくさん『浴びる』こと」。今年は、英国ロイヤル・バレエ団の芸術監督ケヴィン・オヘア氏が審査員長となり、ハンブルグ・バレエ団の芸術監督ジョン・ノイマイヤー氏によるコンテンポラリー・バリエーションの作品には、ヨハン・シュテーグリッツ氏といった過去のローザンヌの受賞者の指導もコンクール期間中にある。
「ダンサーを教育し、別のプロの世界の側面を公開し、より多くの経験を提供したいと考えています。さらに、健康や教育のような重要なテーマについては、ダンサーと年間を通してコミュニケーションをとれるようにしたいという思いもあります」
加えて、「ローザンヌ国際バレエコンクール受賞者同士のネットワークを広げられるよう支援したい」と述べ、情報や意見交換のためのプラットフォームも必要だとしている。
パワー氏は、「ここでの経験があなたを変えるようなユニークな体験の場としたい」と言う。
プロのダンサーになるとは
パワー氏によると、振付家と観客の好みに合わせたプロのダンサーになるためには、「ダンサーは、例えばトゥシューズから素足へ素早くジャンルを変えて踊れるように体を鍛える必要がある」という。テクニックは、「振付家は今日様々な技術を利用するため、ダンサーには体がそれによる変化に素早く反応することが期待されている」と話す。
また、ダンス界でも健康に対する意識が高まり、ダンサーの健康維持のための実践的な教育を提言するパワー氏は、「ボディコンディショニング、そして、有酸素運動、ヨガ、ジャイロトニックといったオルタナティブトレーニングで体を慎重に管理することは、長いキャリアにとって最重要」とも言う。
生徒はまた、できるだけ多くの異なる学習法に触れる必要がある。「時に、型にはまった学習のせいで、変化する環境に適応できずに苦労するダンサーがいます。即興の演技などです。振付家って、作品を作るときにある程度の即興の動きを取り入れたがったりするものなのです。そして、ダンサーがそこでおどおどすると、その振付作品に選ばれないかもしれませんね」
「自分の経験を広げ、時々今学んでいるスタジオから出て、世界で何が起こっているのかを学ぶ必要があります。『より良い教育は、より良いダンサーを育てる!』ただ、それだけのことです」と語る。
第45回ローザンヌ国際バレエコンクール2017
Prix de Lausanne(プリ・ド・ローザンヌ)という国際バレエコンクールは、スイス西部ローザンヌで1973年から開催されている。15~18歳の若いダンサーを対象にした世界最高の国際コンクールの1つで、若いダンサーの登竜門とも言われる。
今年は、2017年1月30日から2月4日まで開催され、決勝は4日に行われる。予選のビデオ審査を通過した70人が参加する。入賞者は、希望するバレエ学校かバレエ団で1年間研修でき、奨学金が与えられる。
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