スイスに本社を置く多国籍企業シンジェンタは、農薬の安全性をめぐり米国農家から約380件もの訴訟を起こされている。すでに1億8750万ドル(約214億円)を和解金として準備したが、今後数十億ドルにも膨らむ可能性がある。
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アメリカ中西部アイオワ州グリーンフィールド。人口約2千人のこの田舎町で、ダグ・ホリデイ氏は数千エーカーの農地で何十年もトウモロコシと大豆を育て、牛を飼育し、国民の食糧を生産してきた。
ホリデイ氏には妻と3人の子供がいる。59歳で妻と静かな年金生活に入るつもりだった。しかし静かな老後ではなく、世界最大手の農薬・種子販売企業に戦いを挑むことを選んだ。スイスに本社を置くシンジェンタグループを提訴したのだ。
何年もの間、ホリデイ氏はパラコートを日常的に使っていた。パラコートは世界中で主にグラモキソンという商品名で販売されていて、収穫のじゃまになる雑草を除去するために使用される。また、アメリカでは大豆、綿花、トウモロコシ、果樹園の果物に広く散布されている。この除草剤はパーキンソン病の発症のリスクを高めるという研究がこの10年間に次々と発表された。アメリカの65歳以上の死因の第10位はパーキンソン病で、2019年にはこの年齢層の約3万5千人がパーキンソン病で死亡した。2011年に発表された米国国立環境健康科学研究所(NIEHS)助成の研究では、パラコート使用者は非使用者に比べて2.5倍高い確率で神経変性疾患を発症することが明らかになった。
「そんなことも知らずに1990年代に大農場で私はパラコートを使い、自分で噴霧していたのです」とホリデイ氏はswissinfo.chの電話インタビューで話した。「しかもパラコートに直接触れていました。2.5ガロン缶しか売っていなかったので噴霧器に何度も移し替えなければいけませんでしたから」
パラコートはアメリカでは1960年代から販売されており、買収、合併、スピンオフを経て、今はバーゼルに本社を置くシンジェンタの商品カタログに掲載されている。シンジェンタによれば、現在スイス、中国を始め72カ国で販売が禁止されている一方で、アメリカなど27カ国ではまだ販売されている。ただしアメリカでは使用制限付き農薬に分類されている。農家を含む農薬使用者は訓練を受け、使用許可を取らなければいけない。
「中国ですら販売を禁止しているのです。シンジェンタは今や中国企業に買収されているのに」とホリデイ氏は話す。「私たちはモルモットのようなものです。しかもお金を払って実験台になっているのです」
もう1つの有名な除草剤、ラウンドアップとの類似点を指摘する法律事務所に後押しされ、ホリデイ氏ら農家は自ら行動を起こす決意をした。ラウンドアップは非ホジキンリンパ腫というがんの1種を引き起こすと言われている。
ラウンドアップはアメリカの農化学薬品グループ企業、モンサントが生産していたが、モンサントは2018年にドイツの製薬・ライフサイエンス多国籍企業バイエルに買収された。今年7月時点でバイエルは160億ドルの和解金を用意している。約12万5千件の訴訟のうち9万6千件が和解しており、残る訴訟については米最高裁判所に上訴中である。
農薬訴訟で大手企業が巨額の和解金を支払う実例が示されたのを受け、パーキンソン病を患う農家やパラコートを使用してきた農家にシンジェンタを提訴するよう促す広告が多く流れている。
「テレビはあまり見ないのですが、それでもテレビコマーシャルを見たことがあります。ソーシャルメディアでもよく見ますね」とホリデイ氏は話す。
ホリデイ氏は5月にアイオワ州南部の地方裁判所でシンジェンタに対して100人以上の農家と共に集団訴訟を起こした。シンジェンタがパラコートを使用することで生じる危険や起こり得るリスクを農家に警告するのを怠ったこと、除草剤の十分なテストを行わなかったこと、危険な製品を販売したこと、およびその欠陥を是正することを怠ったことを訴えている。ホリデイ氏は更に農家がパーキンソン病を早期発見し治療を受けられるよう、同社にパーキンソン病の検診、モニタリング費用を支払うことを要求している。
相次ぐ訴訟
ホリデイ氏の訴訟はアメリカでシンジェンタに対して起こされた約380件の主に集団による訴訟のうちの1つだ。シンジェンタはパラコートがパーキンソン病を引き起こす「信頼できる証拠がなく」、このような訴訟は「根拠に乏しく」、あらゆる訴訟で戦う、と繰り返し述べている。同社はswissinfo.chに「現在訴訟中のため、また沈黙期間のためコメントすることはできません」とメールで返答した。シンジェンタは上海証券取引所で上場手続き中だ。法的義務があるわけではないが、通常企業は上場前の最低2週間を沈黙期間と設定し、株式公開前に情報を公開するリスクを避けている。
米広域係属訴訟司法委員会は6月、すべての訴訟をいわゆる大規模不法行為としてまとめてイリノイ州南部地区で審理することを決定した。担当となる連邦裁判所ナンシー・ローゼンシュテンゲル判事は2022年11月15日に陪審員裁判日を設定した。広域係属訴訟司法委員会がまとめたデータによると10月中旬時点で連邦裁判所に約330件、州裁判所に50件の訴訟がある。しかし、実際に何人がこの訴訟に関与しているかは明らかではない。
8月末に公表した上半期決算報告書でシンジェンタは「いくつかのパラコート訴訟原告と基本合意に達し」、1億8750万ドルを和解基金に支払ったことを発表した。シンジェンタはまた、訴訟は全て根拠のないものであり、「訴訟を終わらせるためだけに」和解に応じたとしている。
スイスの懸念
スイスでは1989年にパラコートの販売が禁止されたが、政府は農薬が農家に及ぼす健康被害に対する懸念を高めていた。政府はこの問題を報告するように指示し、この報告書をもとに農薬の使用を削減する国別行動計画(NAP)を作成した。この報告書と国別行動計画はどちらも2017年に発表されている。
報告書執筆者による学術論文のメタ分析ではパラコートとパーキンソン病の関連を示す「中程度のエビデンス」が認められるとしている。また、どのような農薬でも農薬を定期的に利用している人で農薬に曝露(ばくろ)した人はパーキンソン病を発症する確率が50%以上高まると報告している。しかし、特定の農薬や有効成分への曝露がどのような影響をもたらすかに関してはさらなるエビデンスが必要であると結論付けている。
しかし現時点ではエビデンスの収集は進んでいない。
「農家の健康と農業化学品の関連はまだスイスでは研究されていません」とスイス西部にあるローザンヌ大学一般医学・公衆衛生センター(Unisantè)の主任研究員であり、2017年の報告書の執筆者の一人であるオーレリー・ベルテ氏は話す。「もう1つの問題は、スイスでは患者の職業を記録しないことです。このため、疫学研究にとって重要な職業に関連する疾患の情報が全くないのです」。
シンジェンタが発行した概況報告書によると、パラコートは現在シンジェンタの総売上額の2%未満、利益の1%未満しか占めていない。しかし、パラコートの悪評が売り上げに与える影響やその財政的なコストを考えると、シンジェンタにとって長期的な負債になる可能性がある。まだ金額に換算することはできないが、シンジェンタが用意した1億8750万ドルは今後数年にわたって支払うことになる総額のほんの一部にしかならないだろう。
モンサントに対してラウンドアップの責任を問う訴訟が初めて起こされたのは2015年だが、バイエルが109億ドルの和解金に合意したのは2020年になってからだ。金額はその後2021年までに160億ドルまで膨れ上がっている。原告が実際に和解金を手にするのは2022年以降と見られる。
パラコートの被害者の中にはそんなに長く待てない人たちもいる。合意に達してお金が支払われるまで生きていられないかもしれないからだ。今のところ健康なホリデイ氏は幸運なのかもしれない。
「最終的には和解金と検査の話になるでしょう」とホリデイ氏は語る。「検査が必要です。検査で早期発見できれば早めにパーキンソン病の進行を遅らせる薬を飲むことができますから」
(英語からの翻訳・谷川絵理花)
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シンジェンタのミシェル・ドマレ会長は英経済紙ファイナンシャル・タイムズに、同社は「中国政府のパートナーとなって中国の農業の現代化の原動力となり、大きな成長が見込まれる」と話した。
シンジェンタは今月5日、同社の株主が430億ドル(約5兆1600億円)での買収を承認したと発表。この買収計画が開始したのは1年以上前で、農家に種子と作物保護製品を供給する国際ビジネスで現在起きている、大規模な合併の波の一部だ。
中国は食品の輸入に大きく頼っており、中国の農業生産高は欧米諸国に比べて3〜4割低かったとドマレ氏は言う。アジア太平洋地域は現在シンジェンタの地域売り上げの約15%を占めるにすぎないが、売り上げ拡大の目標数値は設定されていない。「目標は農業を現代化し、生産高を増やすことだ」
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農薬が自殺手段として使用されることが多い国では、農薬販売を規制して衝動的な自殺を予防するプロジェクトが進んでいる。世界では自殺者の約3割が農薬を使用しており、農薬会社にも自殺予防への取り組みを求める声が上がっている。
スリランカでは2008年、農薬業界に衝撃が走った。同国の農薬に関する技術勧告委員会が、パラコート、フェンチオン、ジメトエートなど一部の農薬を市場から回収するよう命令したからだ。回収の理由は、これまでのように人や環境に与える危険性を回避するためではなく、農薬を使った自殺が同国で多発しているためだった。
世界保健機関(WHO)は、今年9月に発表した自殺防止に関する初の報告書で、農薬による自殺の多さを問題に取り上げている。その数は世界の自殺者の約3割に上ると推測されており、12年だけでも24万人が農薬を服用して自殺したとみられている。特に、農村人口の多くが小規模農業に従事する途上国や新興国で、農薬による自殺が拡大している。
企業責任
農薬が自殺の手段となっていることに対して、スイスの農薬大手シンジェンタなどのメーカーに責任を求める声が上がっている。しかし、「薬物や薬を使った自殺があるからといって製薬会社が責任を持つべきか、と尋ねるのと同じだ」と、国際自殺防止協会(IASP)のヴァンダ・スコットさんは話す。
農薬メーカーは農家を対象に、製品の安全な取り扱いに関する講習会を企画しているが、一方で農薬が本来の用途以外で使用されることについてはあまり関心がないようにもみえる。
シンジェンタの広報担当者は「農薬の事故と自殺目的での服用を分けて考える必要がある。使用説明書に沿って本来の用途に使用される限り、農薬は安全で効果的な製品だ」と話す。
自殺予防団体や研究者たちは、農薬メーカーの置かれている微妙な立場を認識している。
インドの自殺予防団体「スネハ(Sneha)」を設立したラクシミ・ヴィジャヤクマールさんは「死と結び付けられる製品を好む人などいない。農薬メーカーは問題に取り組む道を模索してはいるが、同時に、製品を売らなければならない」と言う。
農薬メーカーは、農薬の不正使用に対する直接的な責任は認めてはいないが、農薬へのアクセス制限が自殺予防につながるとの考えを示している。
スイスの農薬メーカー、バイエルクロップサイエンスの広報は「農薬を鍵のかかった場所に保管し、限られた人しかアクセスできないように制限することで、事故や自殺を防ぐことができる」と話す。
シンジェンタもまた、農薬の安全な保管方法を確保するために研究者や団体と協力する必要性を認めている。「私たちだけでは問題を解決できない。そのため、WHOやIASPと5年以上協力し、メンタルヘルスや農薬の安全な保管方法などを中心とした自殺予防プログラムを支援している」(同社規制管理部)
安全な保管方法の確保
自殺予防分野のトップ研究者たちが集まった07年のWHOの会議では、アジアの農村地帯で農薬を鍵付きの棚で安全に管理した場合に、どれほどの自殺予防の効果があるのかについて調査することが決まった。農薬の管理方法に注目されたのは、精神的に悩みを抱える人が簡単に農薬を入手できないようにするためだ。
調査国としてインド、スリランカ、中国が選ばれた。インドでは、農薬による自殺は首つり自殺の次に多く、自殺方法の第2位だ。
インド政府によれば12年の自殺者13万5445人中、約15%にあたる2万人以上が農薬を使って命を絶った。しかし、インドでは自殺が社会的に恥で、犯罪行為であることなどを考慮すると、報告されていない自殺も多い。
農薬を鍵付きのロッカーで集落ごとにまとめて管理する試みは、10年に初めてインドのタミル・ナドゥ州の二つの村で実施された。
「この村では花が栽培されており、15日ごとに農薬が散布される。農薬の使用頻度が高いことからこの村が選ばれた」と、調査を進めているヴィジャヤクマールさんは説明する。
当初、二つの村は共同の保管ロッカーの導入に消極的だった。畑とロッカーの間を行き来しなければならなくなるからだ。だが、通うのに便利な場所にロッカーが設置され、また定期的に店に農薬を買いに行く必要もなくなるので、最終的には人々に受け入れられた。
「初めは理解を得られず、保管ロッカーの利用率は4割だった。だが、今は満杯で、もう一つ保管場所を確保しなければと考えているところだ」(ヴィジャヤクマールさん)
結果としては、二つの村では導入から18カ月間で自殺者は26人から5人に減り、自殺防止に効果がみられた。
農薬へのアクセスを制限することで、さらにマハーラーシュトラ州やアーンドラ・プラデシュ州、チャッティースガル州、カルナータカ州などの半乾燥地域でも自殺防止が見込まれている。この地域では、農業従事者の6割が自殺し、農薬を使った自殺が多い。
農薬の入手制限プロジェクト
農薬の管理方法を変えること以外にも、「有毒な農薬の一部を販売禁止にすれば自殺予防に大きな効果が期待できる」とヴィジャヤクマールさんは指摘する。
例えばスリランカは1995年、WHOが最も毒性が高いとする農薬の輸入・販売を制限し、98年には殺虫剤に使用されるエンドスルファンも制限した。これにより、同国ではこの時期の自殺者数が減少。規制実施後の10年間(1996~2005年)では、それ以前の10年間(1986~95年)と比べ、自殺者は約2万人少なくなった。
WHOは自殺防止に関する報告書で、管理方法の見直しや販売制限など農薬へのアクセスを制限することは「このおびただしい数の自殺者を減らす手段として、大きな可能性を持つ」と指摘している。首つりや、薬物や銃による自殺に比べ、農薬自殺の危険のある人は見つけやすく、農薬に近づけないようにすることも簡単だからだ。
英エディンバラ大学の研究員、メリッサ・ピアソンさんは現在、農薬を安全に管理し自殺予防を試みるプロジェクトをスリランカで進めている。「農薬自殺の多くが、衝動的で発作的なものだ。インドや中国、スリランカのこれまでの調査から、自殺率の高い他の国で見られるような、死に対する強い決意があるわけではないことが分かっている」
ピアソンさんのプロジェクトはスリランカの162の村で2010年に始まった。農薬の入手制限による自殺予防計画では最大規模の試みで、注目が集まっている。プロジェクトの成果報告書は、インドと中国の調査データと同様に、16年に発表が予定されている。
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