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高齢化するスイス、対応を求められる年金制度

今日では1人の年金受給者を3.4人の就業者で支えているが、21世紀半ばには2人の就業者になると予測されている swissinfo.ch

今日の老齢・遺族年金制度がスイスで導入されてからおよそ70年間、スイスではこれまで問題なく年金が支給されてきた。しかし社会の高齢化が進むにつれ、この制度を維持することが年々難しくなっている。スイスの年金制度の現状と今後の予測をインフォグラフィックで分析してみた。

 スイスの老齢年金制度の将来に関わる重要な決定が今年行われる。連邦議会では政府が提案するプロジェクト「老齢年金2020外部リンク」について話し合われ、9月には老齢・遺族年金の1割増しを求めるイニシアチブ外部リンク(国民発議)が国民投票にかけられる。

 政府が提案する年金制度改革の柱の一つに、女性の年金支給開始年齢の引き上げがある。現行の制度では男性が65歳、女性が64歳で年金の受給を開始できる。しかし実際の定年退職年齢は法律上定められている年齢とは異なり、男性の平均退職年齢は66.3歳だ。

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 年金制度の将来に影を落とす原因の一つが人口推移だ。高齢化が進み、平均寿命が延び続ける他方で、幼児死亡率は減少傾向にある。これはスイスに限らず欧米諸国や他の先進国でもみられる現象だ。

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 スイスの老齢・遺族年金制度が導入された1948年には、1人の年金受給者を7人以上の就業者(20~64歳)が支えていた。しかし今日では1人の年金受給者を3.4人の就業者で支えており、さらに21世紀半ばには2人の就業者になると予測されている。とりわけベビーブーム世代が定年を迎える2020~30年に、就業者の割合が激減するといわれている。

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 しかし幸い、こうした受給者1人当たりに対する就業者の減少が、スイスの老齢・遺族年金の財政に深刻な影響を与える状況にはまだ至っていない。以前と比べて生産率と収入が向上した分、不足分を補うことができているからだ。1950年では当時最高の年金額595フラン(約6万2千円)を1人に支払うために7.3人の就業者が必要とされたが、今日では1.7人で十分だ。

 老齢・遺族年金の1割増しを求めるイニシアチブの支持者は、「高齢化が進行しても経済発展のおかげで老齢・遺族年金制度は今より多くの人に多額の年金を支払うことが可能」と主張している。

 一方、プロジェクト「老齢年金2020」のなかで政府は「最も現実的なシナリオでは2020年以降に受給と負担の均衡が崩れ、毎年の不足額は30年までにおよそ83億フランに膨れ上がる」と見積もっている。

 次のグラフィックは、老齢・遺族年金制度が導入された1948年から今日までの、同制度の財政状況の推移と今後の予測を表している。グラフィック内の予測額には、政府の改革案は反映されていない。また、中央に表示されている黒色の帯は、収入(給料から天引きされる年金保険料)と支出(年金)の差額を示している。

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 政府の改革案が実現されたとしても、将来的に全ての赤字を解消することはできない。しかしこの改革案があれば、2030年に予測されている83億フランの赤字を10億フラン強までに減らすことは可能だという。

 また、低い出生率や高齢化の影響を年金制度がこれまであまり受けてこなかった理由に、移民の流入がある。政府によれば国外から移住してきた労働者の年金保険料なしでは、老齢・遺族年金制度はすでに01年から赤字だったという。

 次のグラフィックが示すように、スイスでは就業が可能な年齢層はスイス人よりも外国人の方が多い。

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高齢化が進むなか、年金制度を支えるために年金の支給開始年齢を引き上げる必要があると考えますか?それとも他に案があるでしょうか?ご意見をお寄せください。


(独語からの翻訳&編集・説田英香)

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