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「肉の値段は高くて当たり前」

メレット・シュナイダー氏
安価な競合品が市場から消えるため、農家にとってこのイニシアチブはチャンスだと言うメレット・シュナイダー氏 © Keystone / Gaetan Bally

家畜の数を減らす代わりに、より種に適した方法で飼育する――。緑の党のメレット・シュナイダー下院議員は、家畜を密集・大量飼育する「集約畜産」の禁止を求めるイニシアチブ(国民発議)の立ち上げメンバーの1人だ。肉は今は「嗜好品」であり、適正な飼育方法によって値段が上がるのは「当然のこと」と主張する。

今月25日の国民投票では、家畜を密集・大量飼育する「集約畜産」を禁止すべきかが問われる。スイスの工場式畜産に反対し、飼育環境の改善を訴える同イニシアチブは、輸入の家畜や動物性食品にもこれらの要件を適用するよう求めている。

イニシアチブ発起人の1人であるチューリヒ州のメレット・シュナイダー下院議員(緑の党)は、農業に従事しビーガンを提唱する著名人でもある。

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swissinfo.ch:スイスには既に厳しい動物保護法が存在します。畜産業も比較的小規模ですが、本当に今以上の規制が必要でしょうか?

メレット・シュナイダー:動物保護法に関して、スイスは比較的進んでいます。また外国と比べて家畜の飼育数が少ないのも事実です。それでも1平方メートルに最大14羽、鶏舎1棟に2万7千羽のブロイラーを飼育することが許されています。これはかなりの数です。

「どこの状況がもっと悪いか、外国はどうか」と問う前に、私たちの行いが動物のニーズに応えているか、動物福祉に見合っているかと問うべきです。そしてこれに関しては、まだ改善の余地が大きいと言わざるを得ません。

swissinfo.ch:つまり現在のスイスでは動物福祉が不十分ということですか?

シュナイダー:その判断は読者に委ねます。スイスの一般的なブロイラーの寿命は30日です。この短期間に自力で立てなくなるまで太らされ、成鶏になると同時に屠殺されます。採卵鶏は10カ月を過ぎると生産性が落ちるため、ガスで殺処分されます。本来なら14年の寿命があるにもかかわらず、です。また食肉用のブロイラーは(短期間で急激に成長するよう)品種改良された結果、胸骨の骨折に悩まされるようになりました。豚の場合、ワラを敷かない1平方メートルの硬いコンクリートの床で飼育されるため、膝の関節痛が頻発しています。私には、これが種にふさわしい飼育方法とは到底思えません。

swissinfo.ch:イニシアチブが可決されれば、スイスの畜産業が大きく衰退し、動物製食品が24割高くなると反対派は主張しています。それは問題ありませんか?

シュナイダー:この数字は誇張されています。オーガニック製品の価格をベースに計算しているためです。有機農業の基準を畜産業全体に当てはめるのがイニシアチブの目的ではなく、単に動物福祉のあるべき姿として取り上げているだけです。確かに動物性食品の生産は減ると思いますが、消費者サイドからみても肉の消費量は減少し続けています。

気候や資源という観点からも、私たちはいずれにせよ動物性食品の消費を減らす必要があります。確かに価格は上がるでしょうが、反対派の主張ほどではありません。結局、肉は嗜好品なので、値段が高くて当たり前でしょう。そのために膨大な資源が使われているわけですから。また、買った食品の3分の1が捨てられているスイスの現状を考慮すると、高すぎるという主張は理解できません。

swissinfo.ch:飼育舎の改装などが必要になれば、農家に高いコストが発生します。イニシアチブはこの点を考慮していますか?

シュナイダー:もちろんです。私たちの計画では、農家が政府からの支援を受けられるようになっています。この点は、これまでも繰り返し要求し、強調してきました。また忘れてはならないのは、25年間の移行期間を設定していることです。これは丸々1世代に当たります。切り替えに必要な時間は十分と言えるでしょう。

swissinfo.ch:反対派は、これは有機畜産の基準を採用するのと同じであり、その結果として消費者の選択肢が狭まると主張しています。この批判は納得できますか?

シュナイダー:先ほども言った通り、私たちはこの基準をそのまま畜産業全体に当てはめるつもりはありません。ちなみに、消費者の選択肢は既に制限されています。例えば、スイスではケージ飼育が行われていません。動物の尊厳は憲法に明記されており、動物福祉に反する方法でニワトリを飼いたくないという、国民が支持した政治的判断です。これと同じことがその他の動物性食品にも言えるのです。

swissinfo.ch:スイスは自給自足できません。イニシアチブが可決されれば、国の食料自給率がさらに下がるのでは?

シュナイダー:自給自足は、どのみち難しいでしょう。現在スイスで飼育されているニワトリは、主に卵を生産する採卵鶏や、食肉用のブロイラーです。これらのハイブリッド種はスイスで交配されたものではなく、親鶏は全て輸入に頼っています。自給率について議論する場合、このような親鶏や、毎年100万トン以上輸入されている飼料も考慮すべきでしょう。

家畜の数を減らして、放牧に適した牛や羊、山羊などにシフトすれば、自給率も高まります。これこそスイスの地形に適した畜産業だからです。そうすれば家畜の飼料を栽培する代わりに、人間のための家畜が育成されるでしょう。

swissinfo.ch:スイスよりも動物の飼育状態が劣悪な国からの輸入が増えるリスクはありませんか?

シュナイダー:このイニシアチブは、まさにそれを禁止するための取り組みでもあります。輸入品もスイスの基準を満たすべきです。これは農家にとって大きなチャンスです。ブラジル産の鶏肉やアルゼンチン産の牛肉のように、イニシアチブであれば認められないような基準で飼育された安価な商品が市場に出回らなくなるためです。

swissinfo.ch:イニシアチブが可決されれば、スイスは世界貿易機関(WTO)の義務に反するという批判もありますが、これに対してはどう答えますか?

シュナイダー:その点は問題ありません。製品がそれぞれの社会の公序良俗に反する場合、輸入規制を正当化できる条項がWTOには存在しますが、スイスはアザラシ製品やケージ飼いの鶏の卵の輸入禁止にそれを適用しています。このイニシアチブを受け入れれば、スイスは社会としてこのような畜産を望まない、という非常に強いメッセージを発信することになります。それはWTOの理念にもかなっているはずです。

「集約畜産禁止イニシアチブ」に反論を唱えるマルセル・デットリング下院議員(国民党)とのインタビューは4日配信予定。

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独語からの翻訳:シュミット一恵

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