欧州議会の著作権法改正案可決、スイスへの影響は?
欧州連合(EU)の欧州議会が今月、著作権法の改正案を賛成多数で可決した。メディアや表現の自由を訴える活動家らの強い働きかけで実現した今回の改正案は、フェイスブックなど大手インターネット企業に縛りを課す内容だ。スイスにはまだ直接的な影響は及んでいない。
10日に行われた欧州議会で注目を集めたのは、ハンガリーが民主主義を後退させているとし、異例とも言えるオルバン政権への制裁を求めた対応だった。
注目度がそれより劣るかもしれないが、同じくらい重要といえるのが、EUの野心的な著作権法改正が賛成多数で可決されたこと外部リンクだった。スイスを含む欧州大陸の全オンラインメディアに大きな影響を及ぼす内容だ。
2001年の著作権法施行後初となる改正案の目玉はデジタル著作権で、グーグルやフェイスブックといったオンラインプラットフォームが、使用した記事などのリンク元であるコンテンツ制作者(音楽家、写真家、ジャーナリストなど)に対価を支払うという内容だ。
EUのディレクティブ(各加盟国向けの法案の指示文書)は、主に二つの要素を含む。一つは、Googleニュースなどのフィード上で記事などの抜粋やリンクが使われた場合、コンテンツを集約しネット上でサービスを提供するアグリゲーターが、著作者へ使用料支払いを義務付けること。もう一つは、著作権を侵害する映像・音楽のアップロードを防ぐ責任がユーチューブなどの運営サイト側にあると明記したことだ。
検閲の恐れ
改正案は、メディアやクリエーターたちが熱心にEUに働きかけ実現した。大手ネット企業、インターネットの自由を訴える活動家らは反対している。改正案を後押しした著名人にはポール・マッカートニー、反対派にはミュージシャンのワイクリフ・ジョン外部リンクがいる。
スイス人作家でデジタル関連の活動家アンドレアス・フォン・グンテン氏も改正案に強く反対する。同氏はスイスインフォの取材に「インターネットにとっては悪い日となった」と語り、改正案は巨大ネット企業を無力化させたい一部の団体の利益にしかならないと述べた。
同氏は、これまでにもドイツなどがコンテンツサイト運営企業に報道機関への対価の支払いを義務付ける試みを行ったが、うまく行かなかったと説明。主な理由は、強大な力を持つグーグルが、宣伝目的のメディアとコンテンツの無料利用を可能にする契約を結んでしまうためという。
さらにキュレーション、アグリゲーション市場でイノベーションに力を入れる小規模なニュースサイトや企業は、改正案が求める法律に署名し、使用料を払うことは事実上不可能なため弱体化してしまうと危惧する。
フォン・グンテン氏は「イノベーションは減り、より小さな声を守るためにインターネットを開放しようという動きもなくなるだろう」と案じる。
ユーチューブなどの運営サイト側に著作権が絡む映像などの除去を義務付けることについては、フォン・グンテン氏やほかの懐疑論者も否定的だ。アルゴリズム上の「アップロードフィルター」は時として過剰に反応し、完全に無害なコンテンツでもシャットアウトする検閲行為になりかねないからだという。
マクロン副大統領らが推進した改正案の投票は、欧州委員会のほか欧州新聞出版者協会外部リンク(ENPA)が支持。国内300社の新聞、雑誌が加盟するスイスメディア協会外部リンク(VSM)もENPAに所属している。
ENPAの広報担当者は「この改革は著作権の近代化、民主主義の基本的な機能にかかわるもの」と評価。改正案が可決されたことについて「欧州議会議員たちは、欧州の独立メディアをきちんと評価していることを示した。欧州メディアに有利な内容となる改正案を支持することで、欧州メディアの持続的な運営が保障されることにつながる」と述べた。
スイスの今後
EUに加盟していないスイスではこの動きとは別に、連邦著作権法外部リンクの改正をめぐって議論が続いている。ただ主な焦点は肖像権で、「リンク税」および「アップロードフィルター」が目玉のEU著作権法とは異なる。
しかし、知的財産権に詳しいアンネ・ヴァージニー・ラ・スパダ弁護士はフランス語圏の日刊紙ル・タンに「EUの改正案が最終的に施行されることになれば」、スイスも今後、EUの方針を踏襲した法改正を検討する可能性があると語った。
今後、欧州委員会、欧州議会、EU加盟国でつくる欧州理事会が具体策を協議し、再び欧州議会で改正案を採決する。
(英語からの翻訳・宇田薫)
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