スイス連邦環境・運輸・エネルギー・通信省は12日、スイス国内の原子力発電所5基の廃炉関連費用が245億8100万フラン(約2兆7300億円)になるとの試算を発表外部リンクした。これまでの民間推計より11億フラン多い。費用を拠出する電力会社は反発している。
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スイスの原子力エネルギー法では、廃炉費用および放射性廃棄物の処理費は、原発を運営する電力会社も拠出しなければならないと定めている。拠出額を算出する基礎として、5年ごとに廃炉費用の試算を見直す。
これまで基にしていたのは2016年に原発運営会社連盟「スイスニュークリア(swissnuclear)外部リンク」が行った試算で、総額218億フランだった。廃炉基金・放射性廃棄物処理基金(STENFO)外部リンクの委託を受けて専門家がこの試算を検証したところ、17年末に廃炉費用は13%多い235億フランになると分かった。この数字に対し、連邦環境・運輸・エネルギー・通信省が改めて検証したところ、245億8100万フランという結果になったという。
三つの相違点
同省は12日付の声明で、専門家の検証を疑う根拠はないと説明したが、結果には大きな差が出た。政府とSETENFOの試算の相違は次の3点だ。
① 汚染物の廃棄場所
STENFOは低・中・高レベル放射性廃棄物をすべて同じ場所に廃棄する複合型貯蔵施設を作れる可能性を40%と仮定して試算した。政府はこの可能性をゼロとみて算出した。地下埋蔵のための地層検査が十分進んでおらず、複合型貯蔵施設の是非を判断できないためだ。この結果、処理費用は約6億5100万フラン増えた。
② 地元への補償費用
STENFOは廃棄物処理施設がある州・地域に、8億フランの補償費用を支払う可能性を50%と仮定した。政府はこの前提を許容できないとし、8億フラン全額を補償費用に含めた。このため廃棄物処理費用は4億フラン多い208億2百万フランになった。
③ 原状回復費用
発電所の跡地を更地に戻す費用も廃炉費用に含む。法令では「緑化」まで定めているが、STENFOは放射性物質を出さない構造物が一部残る「茶色化」の可能性を20%見込んでいた。政府は「それは適切ではない」として、廃炉費用を4600万フラン多い37億7900万フランと算出した。
反応はさまざま
スイスニュークリアは政府の試算に対し「理解に苦しむ」とするコメント外部リンクを発表した。政府試算は補償、複合型貯蔵施設、緑化の三つの分野において最も可能性の高い予測を「体系的に」当てはめたに過ぎず、リスク評価は政治的で、技術的には根拠がないと批判した。
一方、スイスエネルギー基金(SES)外部リンクは政府の試算を歓迎した。ただ、STEFANOが予備費を削減したことに政府が触れなかったことについては不満を呈した。予備費は、コスト超過の可能性を考慮し、また原発停止により発生する費用を賄うことを想定する。予備費の削減により、連邦政府や納税者が廃炉基金に追納しなければならなくなるリスクが高まるとSESは主張した。
STENFOは30日以内に政府の試算に異議を申し立てることができる。最終的な試算は、廃炉・廃棄物処理法(SEFV)外部リンクが発効する19年中に確定する。
SDA-ATS
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二国のエネルギー政策を取り巻く環境は共通する面が多い。日本とスイスはともに代表民主制を採る。輸出中心の工業立国であり、数十年間核エネルギーが重要な役割を担ってきた。2010年時点で両国とも原子力発電が電力総需要のほぼ3分の1を占めていた。
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