観光業に希望を見出すアルバニア
何十年にもわたり孤立していたバルカン半島の小国、アルバニア。ここ20年でようやく外国に開かれるようになったこの国は、世界的な観光地として地位を築こうとしている。しかし、観光客の数は増加しているものの、国の知名度は依然低く、「人気の観光地」とはまだ言えない状況だ。
「アルバニアはまだ観光地として注目されてはいないが、とても美しい海岸に独自の歴史、数千年前の遺跡、山、手つかずの自然があり、大きな可能性を秘めている」と、アルバニア在住のスイス大使、アレクサンダー・ヴィットヴァー氏は言う。
確かに可能性はあるかもしれないが、アルバニアには汚職や犯罪、血で血を洗う争いなどのイメージが付きまとい、評判のいい国とは必ずしも言えない。そのため、スイスの2大旅行会社クオーニ(Kuoni)とホテルプラン(Hotelplan)が、アルバニアへのツアーを販売していないのもうなずける。「需要は少なく、関心も低い」という。提供されているのは、ハイキングや文化、研修目的での個人旅行ぐらいだ。
しかし、スイスからの訪問者数は2005年の6千人から昨年は4万人に増加。とりわけアルバニアの隣国であるコソボ、マケドニア、モンテネグロからの訪問者数が増えている。
ギリシャ、イタリア、ドイツ、ポーランドなどの団体観光客もよく見かけられるようになった。大型旅客船も時折、寄港する。世界的に有名な自由旅行ガイド『ロンリープラネット(Lonely Planet)』の2011年版では、ぜひ訪れたい旅行目的地にアルバニアを取り上げている。しかし、個人旅行者はまばらだ。
スイス:6150人/4万2546人
コソボ:33万6322人/170万8743人
マケドニア:14万1160人/39万9281人
ギリシャ:4万7776人/22万5175人
モンテネグロ:10万5636人/18万6536人
イタリア: 6万2520人/14万7018人
イギリス:3万3163人/7万8593人
ドイツ:2万3391人/7万0060人
米国:3万0108人/5万8621人
フランス:9984人/3万0128人
オーストリア:6230人/2万2562人
意地悪な穴と親切な人々
アルバニアを公共交通機関で旅行するとなると、我慢が必要となる。鉄道が敷かれている地域が少なく、列車もとても遅いからだ。バスやミニバス網はよく張り巡らされているが、時刻表がいつもあるとは限らない。だがその分、人々の暮らしをよく知ることができる。
車で移動する場合、特に郊外では、でこぼこと穴の開いた道を走る覚悟が欠かせない。歩道にも問題がある。マンホールのふたが開いていたり、工事現場が柵で囲まれていなかったりするので、歩行者がつまづく可能性があるのだ。
しかしこうした難点も、親切で、外国人に興味のある優しい人々に会うとすぐ忘れてしまう。よく見かけるのは牛飼いや羊飼い、道路際で魚を売る漁師、畑を自分の力で耕したり、ロバで木材などを運ぶお年寄りたち。食事は安くておいしく、ホテルは大抵清潔で安価。川や山の風景には心を奪われる。
ベンツとセメント
アルバニアに初めて来た人は、メルセデス・ベンツ車の多さに目を見張ることだろう。このメーカーの車は農村でも都市でもよく走っている。ヨーロッパで最も貧しい国の一つであるアルバニアで、一体どんな人がこうした高級車に乗れ、またこの車のうちどれほどが盗難車だろうかと、考える人も多いかもしれない。1940年代、当時の独裁者エンヴェル・ホッシャが、個人が車を使うことを禁止。おそらくそのときの反動で、こうした高級車を欲する人々が多くなっているのかもしれない。
他によく見かけるのは、セメントでできた様々な大きさの壕(ごう)だ。1970~80年代、他国から攻め入れられることを恐れた当時の施政者が国中に造らせた。こうした冷戦の名残りは海岸や山、民家の間にあり、その数は数万にものぼる。
セメントは今でもよく使われている。大きな建設現場であるアルバニアでは、沿岸や町の至るところに高速道路や高層住宅などが建設中だ。しかしすべてが完成するわけではない。建設費用が足りなくなったり、違法建設で政府から中止命令が出されることがあるからだ。そのため、建築半ばの醜い建物が無数に置き去りになっている。
自然の残る美しい場所にはゴミが放棄され、ビニール袋や様々な種類のゴミが川や畑を汚し、民家の後ろに放置されている。ゴミ焼却場からは悪臭が排出され、風向きによってはホテルの窓を閉めなくてはならなくなる。
両国で外交が始まったのは1921年から。
1991年からアルバニアの首都ティラナにスイス代表が駐留。
スイスはアルバニアへの開発援助として年間1300万フラン(約14億円)を予算に組んでいる。
両国間の貿易はあまり盛んではなく、スイスからアルバニアへの輸出額は2011年、3600万フラン。輸入額は3億フラン。
アルバニアに住むスイス人は69人。
スイスに住むアルバニア人で、コソボ出身者は約20万人、アルバニア出身者は約千人。
建設途上の観光業
端的に言えば、アルバニアの観光業はまだ建設途中だ。それは、2年前に観光庁長官の助言役を務めていたエントン・デライ現政府報道官も熟知している。「ゴミの廃棄は最大の問題。すべての外国人もそう話している。ゴミの廃棄制度が現在見直されており、ごみのポイ捨て反対キャンペーンも毎年実施されている。一番の問題は制度やインフラではなく、メンタリティ。人々の意識が変わるには時間がかかる」
観光目的地としてアピールしていくために、アルバニアでは数年前から観光地のインフラ整備が行われており、道路建設や水道供給はもちろん、保健衛生の向上も外国からの援助で進められている。
特定の沿岸都市での違法建設を防止するため、2年前から土地開発法が新しく施行された。また、大規模なリゾート建設計画は今後、国から承認を受けなくてはならなくなった。「モンテネグロのように、沿岸地域がすべて建物で埋め尽くされるという事態を防ぎたい」と、デライ氏は語る。
マスツーリズムではなく
アルバニアが目指すのは、大量の観光客が押し寄せる観光地ではないと、デライ氏は強調する。「海水浴客を呼び寄せたいとは考えているが、スペインやギリシャのようではなく、環境に配慮した形が理想だ」。世界遺産が3カ所あるこの国では今年中に、ハイキング客などを増加させるための新戦略が策定される予定だという。
アルバニアで自由な旅行が可能になったのは20年前から。そのため、観光業やホテル業は比較的新しい産業分野であり、「我々の経験は浅い」とデライ氏は言う。そのせいか、アルバニアでは観光客数がまだ正確に把握されておらず、分かるのは出入国者数だけとなっている。「それが観光客なのか、ビジネスで来ている人なのかは分からない」という。
ホテルの宿泊数に関しても統計がない。その理由をデライ氏はこう語る。「税金の関係で、観光庁の統計システムに協力的でないホテルが多い。ホテルはまだ投資をして成長していかなければならない段階なので、我々はまだ彼らに圧力を加えてはいない。寛容的な雰囲気なのだ」
議院制共和国
首都ティラナの人口は約300万人。
国民の平均年齢は30歳。
イスラム教徒7割、正教徒2割、カトリック教徒1割。
アルバニア人の45%は国外に居住。
2011年国内総生産(GDP)は1人当たり4560ドル(約46万円)。
欧州連合(EU)加盟を望むアルバニアだが、いまだ候補に選ばれたことはない。
2013年6月23日には議会選挙が開催される。
(独語からの翻訳・編集 鹿島田芙美)
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