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観光・時計が好調 7~9月期スイス経済

ジュネーブ湖畔の観光客
ここジュネーブのように、スイスの都市観光はパンデミック前の水準をほぼ取り戻した Stephan Torre / Keystone

スイスの7~9月期は景気に停滞感こそにじんだものの、観光や時計、製薬業界など主要業界には明るい話題も目立った。業界別のハイライトを紹介する。

1)底堅いスイス経済

今年勢いよくスタートダッシュを切ったスイス経済だが、直近は足踏み状態だ。スイス連邦経済管轄局(SECO)は2023年通年の国内総生産(GDP)伸び率を1.3%と、前年の2.1%を下回ると予測している。だが国際通貨基金(IMF)によるユーロ圏の成長率見通しは0.7%で、近隣諸国に比べればスイスは好調と言える。

スイス経済の停滞の背景には世界経済の低迷と、最大の貿易相手国であるドイツと中国が試練に見舞われていることがある。ドイツ経済は予測より大幅に減速する可能性があり、スイス輸出の押し下げ要因になりうる。SECOは中国経済についても「不動産部門の危機、多額の国家債務、企業・家計心理の悪化」による明らかな減速を見込む。

インフレの行方に関しては見極めが難しい。スイス国立銀行(SNB、中央銀行)は、ここ数カ月は物価の伸びが鈍化しているものの、10~12月期には再び2%に上昇するとの見方だ。SNBは9月の理事会で政策金利を1.75%で据え置いたが、中期的な物価安定を確保するために追加利上げを行う可能性も排除しなかった。

他の先進国と同様、スイスもなお労働力不足にあえぐ。連邦統計局(BFS/OFS)によると、直近8月末時点の求人件数は12万件を超えた。景気停滞と金利上昇を受け、失業率はゆっくりと上昇すると見込まれる。SECOは2023年通年で2%、来年は2.3%まで上昇すると予測する。

2)危機を脱するスイス時計業界

スイス時計協会(FH)によると、1~9月の時計輸出額は190億フラン(約3兆2000億円)を超え、前年同期を8.6%上回った。アナリスト予想を上回る好調ぶりだ。例えばフォントベル銀行は今年の成長率を1~3%と予想していた。

同行の時計業界アナリスト、ジャン・フィリップ・ベルチ氏は「フランスや香港、日本など主要市場に観光客が戻ってきたことが好成長の主因の1つだ。スイス高級時計への需要は引き続き高い」と話す。特にショッピングツーリズムが旺盛なのは香港で、地域別輸出額は25.9%増加した。

ただ9月単月で見ると伸び率は3.8%に鈍化した。ベルチ氏は、最大の輸出先である米国でコロナ禍後の反動需要が年内に一服するだろうとみる。

高級時計が市場を牽引するなか、エントリーモデルもその恩恵にあずかる。特にオメガの「スピードマスター・ムーンウォッチ」を250フラン(約4.2万円)とお手頃価格にした「ムーンスウォッチ」は約2年前の発売から大成功を収めており、今年は200万本を販売する見通しだ。

3)活力を取り戻したスイス観光業

フラン高、国際紛争、経済減速。こうした逆風にもかかわらず、スイス観光業界は2023年に新記録を樹立しそうだ。BAKエコノミクス(旧バーゼル経済研究所)は10月末、今年の年間宿泊者数は初めて4000万泊の大台を越えるとの見通しを示した。

この夏の宿泊者数は計2350万泊を記録した。米国人観光客がパンデミック前の2019年を20%上回ったことが寄与した。一方で英国など欧州からの観光客は横ばいだった。スイス政府観光局の広報ヴェロニク・カネル氏によると、「この夏もまだ外国人観光客は少なかったが、中国やインド、日本、湾岸諸国からは増えた」

中国人観光客の宿泊数がコロナ禍前の水準に戻るのは、早くても2024年末~2025年頃になると予想される。カネル氏は「市場は、必ずしも人気の観光地ではない場所を訪ねたい個人客や少人数のグループ旅行に照準を当てている」と話す。

コロナで大きな打撃を受けた都市観光はほぼ回復した。1~9月の宿泊件数は、2019年同期と比べて5.4%増加した。出張が再開したほか、「スイスの大都市は、以前よりもはるかにレジャー観光のプロモーションに力を入れている」(カネル氏)ためだ。

BAKエコノミクスは今冬について、宿泊者数は0.4%増の1750万人と微増を予想している。国内旅行客は数年間強い需要が続いていたが、2.2%減を見込む。欧州諸国(2.2%増)や大陸外(5.4%増)からの観光客の増加がそれを相殺するとの見立てだ。

4)製薬大手は新たな時代に突入

製薬大手ノバルティス(本社・バーゼル)はこの四半期に、ジェネリック(後発医薬品)部門サンド(Sandoz)の分離上場という重要な一歩を踏み出した。ノバルティスのヴァサント・ナラシンハン最高経営責任者(CEO)は10月4日、「独立企業として新たな章を始めることは、ノバルティスとサンドにとって真に歴史的な瞬間だ」と述べた。

サンド分離はノバルティスの大規模事業再編の一環だ。将来的には、大きな治療効果が見込まれ収益力の高い革新的医薬品に焦点を当てていく。

強気になったノバルティスは利益予想を3回連続で引き上げた。7~9月期の売上高は前期比12%増の118億ドル(約1兆8000億円)と、アナリスト予想をやや上回った。一方、ジェネリック業界はアジア勢が台頭し、価格の押し下げ圧力が強い。サンドにとっては微妙な時期の独り立ちとなった。

競合のロシュ(本社・バーゼル)も看板医薬品のいくつかが特許切れを迎え、過渡期に入っている。7~9月期の売上高は7%増加したが、株式市場の反応はさほど芳しくなかった。収益改善の一環として、10月には71億ドルの大型買収を発表した。

5)商品業界には不確実性が蔓延

商品業界は、ウクライナでの戦争により商品価格が高騰したおかげで数カ月にわたり記録的な利益を上げてきたが、ついに巡航速度が戻ってきた。グレンコア(本社・バール)の1~6月の調整済み中核利益は94億ドルと、前期比で半減した。中国の需要低迷と経済鈍化が足を引っ張った。

さらに中東での戦争が新たな不確実性に浮上した。アナリストは、戦争が深刻化すれば原油価格が再び上昇する可能性があると見積もる。

スイス商社はさらに政治的な課題にも直面する。欧州連合(EU)が対ロシア追加制裁を検討するなか、スイス連邦統計局は国内を経由する資源の取引量が今年減少していることを明らかにした。一部商社がアラブ首長国連邦(UAE)など制裁の緩い市場に経由地点を移しているとの報道を裏付けるデータだ。

6)くすぶるクレディ・スイス問題

UBSは今年に入ってから従業員を1万3000人(フルタイム換算)削減し、2026年までに100億ドルを節約するとしている。ライバル行クレディ・スイスの買収を決めた3月以来、業界に渦巻いていた懸念はいくらか沈静化した。それでもいくつかの疑問がくすぶる。

目下の関心事は、このような大規模な銀行危機の再発をどうすれば防げるか、という切実な疑問だ。ロイター通信は、スイス政府が銀行からの急速な預金流出を防ぐ措置を検討中だと報じた。多額の預金引き出しに手数料を課したり、長期預金に高い金利を課したりする案が候補だとされる。

もう1つは、クレディ・スイスのAT1債券(永久劣後債)の無価値化に対する訴訟の行方だ。訴訟には数カ月かかる可能性がある。

UBSはAT1債に向けられた市場の疑念を和らげることに成功した。UBSが今月8日に発行した35億ドル相当のAT1債には予想をはるかに上回る投資家需要がみられた。自己資本比率を維持し銀行の健全性を守るためにAT1債に依存するすべてのスイス銀行にとって朗報だ。

編集:Virginie Mangin、仏語からの翻訳:ムートゥ朋子

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