日本からはるか1万キロ離れたここスイスで、日本語の会話教室が人気だ。学んでいるのはスイス人だけでなく、欧米・中南米出身者もいる。でも、数ある外国語の中でなぜ私たちの言葉を選ぶのだろうか。ベルンで定期的に開かれている会話教室を記者がのぞくと、参加していた人たちがあふれんばかりの日本への愛を語ってくれた。
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マルチメディア・ジャーナリスト。2017年にswissinfo.ch入社。以前は日本の地方紙に10年間勤務し、記者として警察、後に政治を担当。趣味はテニスとバレーボール。
ドラゴンボールを読んで
12月初旬のしんしんと冷える土曜日の朝。ベルン郊外のレストランで開かれた日本語の会では、スイス人と日本人の約10人がテーブルを囲んでいた。これまで旅行した場所でどこが一番面白かったか、仕事は何をしているのか、好きな食べ物は何かー。コーヒーやお茶を飲みながら日本語での会話に花を咲かせている。ひらがなで手書きした単語帳を持参した人もいた。
ベルン近郊在住でプロダクトマネージャーの仕事をしているオリバー・シュミディガーさん(37)は日本語を学び始めて15年。「子供の頃にドラゴンボールやツバサ(キャプテン翼)のマンガをドイツ語で読んで日本に興味を持った」という。「日本語はドイツ語の文法と全然違うので面白い。2010年から空手も始めたんですよ」と流暢な日本語で話す。
まだ日本語を習い始めたばかりだという教師の女性は以前、フランスからスペインに抜けるキリスト教の巡礼路を踏破し、次の行き先をインターネットで探していたときに偶然、日本のお遍路を知った。女性は「日本語をもっと勉強して、いつかお遍路に行きたい」と夢を語る。
折り紙の鶴
11月中旬、ベルンの在スイス日本国大使館広報文化センターが主催する「日本語を話す会」では、仕事終わりのスイス人ら約10人が、日本人を相手に会話を楽しんでいた。参加者の国籍はスイス、スペイン、メキシコ、ウズベキスタンとさまざま。ほぼ全員が日本に行ったことがあり、日本が気に入ってまた旅行したい、日本の文化をもっと学びたいという理由で勉強している人が大半だった。「日本人の先生に習いました」と、持参した折り紙で鶴を折ってくれた女性もいた。
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10年後に埼玉で再会
日本に特別な思いを抱く人もいる。この会に毎回参加しているスペイン語教師のメキシコ人女性アレハンドラ・ケラーさん(44)は、17歳でカナダのバンクーバーに語学留学。その時のルームメイトがトモコさんという日本人の女性だった。
「初めてあいさつしたとき、お辞儀をしたトモコさんの頭と、頬にキスしようとした私の顔がごちんとぶつかったのを今でも覚えている」とアレハンドラさんは笑う。だが英語があまり上手でなかったトモコさんとなかなかコミュニケーションが取れず、少しでも仲良くなりたいとバンクーバーで1カ月、日本語教室に通った。
メキシコに帰ってからも大学で日本語の勉強を続け、10年後に埼玉県でトモコさんと再会。バンクーバーの思い出話で盛り上がったという。アレハンドラさんは「日本人はとても親切。シャイだけど本当の気持ちを伝えてくれる。日本がすごく好きだから、もっともっと日本語が上手になりたい」と微笑む。
人気の日本語講座
スイス人やスイス在住の外国人が日本語を学ぶ場合、一般的には自治体や民間のカルチャースクールで講座を受講するか、趣味のサークルに参加する。小売大手ミグロが全国各地で展開する教育施設ミグロ・クラブ・スクール外部リンクによると、アジア圏の外国語講座の中で日本語はダントツの人気。2017年の日本語講座の受講者は2090人に上り、年々増えているという。中国語講座は約1千人、タイ語は約300人、韓国語は約100人で、違いは歴然だ。
日本語を学ぶ理由にも変化が現れている。冒頭の日本語の会の責任者で、別のカルチャースクールでも長年教えているという日本語教師の女性(50)は「昔は配偶者や恋人が日本人だからという理由も多かったが、そういう人はほとんど見られなくなった。今は日本のこれが好き、という明確な理由があって『ライフワーク』として長く続ける人がほとんど」と話している。
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「ベリンツォーナに本物を」日本から飛騨古川祭を招待、長年の願い叶う
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「日本ブーム」到来 旅行先としての日本の魅力とは
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観光客の数が増加の一途を辿る日本だが、スイスからの観光客も例外ではない。近年、日本へ旅をするスイス人が増えている理由とは?そして、伸び悩むスイスの観光産業が日本から学べることとは?
日本政府観光局の統計によると、スイスからの訪日者数は2003~16年の13年間で155%増加している。スイスの観光業者の間でも、とりわけここ2年間は一種の「日本ブーム」が訪れているという共通の認識みられる。
16年の訪日客数の中で最多だった中国人の約637万人に対して、スイス人の約4万4千人は一見僅かに見えるが、両国の人口に占める割合で見ると、スイスにおける日本の人気は高いと言える。中国の場合、人口の0.47%が同年に日本を訪問しているのに対し、スイスは0.53%。欧州で訪日者が最多だった英国の0.45%より多い。
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スイス人青年実業家、24歳で東京に会社を設立 スイス時計で挑戦
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スイス人青年実業家、ルカ・オルドゥニャさん(27歳)が初めて日本を訪れたのは5年前。その後、スイス時計の輸入代理事業を担う会社を東京に設立し、スイスの伝統工芸である時計を介してスイスと日本を繋ぐ。日本で働くことは毎日が挑戦だというオルドゥニャさん、スイス人の枠にとらわれない考え方や柔軟性が懐かしいと話す。
スイスインフォ: 日本に行こうと決めたきっかけは何ですか?
ルカ・オルドゥニャ: 私の両親がチューリヒで旅行代理店を経営している関係で、幼い頃からアジアの文化と言語に興味を持っていました。
そして学生時代にザンクト・ガレン大学で受けた講義を通して、多様性溢れる日本文化の虜になりました。これをきっかけにスイス日本商工会議所の奨学金制度を使って日本へ旅立ちました。22歳でした。
スイスインフォ: 今の職に就くきっかけは何ですか?
オルドゥニャ: 1年間の奨学金制度を終え、将来について考えていた頃、スイスの友人が一緒に会社を立ち上げないかと声をかけてきました。
こうして仲間4人で、アジアを中心にスイス時計の輸入代理販売を行う会社を立ち上げました。1人がスイスに本社を構え、他の2人が香港と台湾に、そして私が日本でSwissPrimeBrands社を設立しました。
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スイス人と日本人デュオ、スイスの名曲をカバー
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スイスで名の知れた音楽家マニ・マッターの生誕80年を記念して先月2日、スイスで活躍する若手アーティストたちによる、マッターの名曲カバー・アルバムが発売された。その中に収められた20曲のうちの1曲は、スイス人と日本人エレクトロ・ポップ・デュオ「ティム&プーマミミ(Tim & Puma Mimi)」が日本語でカバーしている。その2人に、初の日本版マッターが誕生するまでのストーリーを聞いた。
今回発売されたマニ・マッターの名曲が収められたカバー・アルバム「Und so blybt no sys Lied(彼の曲はこうしてまだ残っている)」に収録された20曲の中の「Ds Lotti schilet (Yorime no Lotti)」を歌うのは、チューリヒを拠点にヨーロッパ各地で活躍するエレクトロ・ポップ・デュオのティム&プーマミミ。スイス人のティムさんがサウンドを担当し、日本人でボーカルのプーマミミさんが歌うこの曲は、アルバムの中で唯一、外国語でカバーされた曲だ。
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スイスに住む外国人女性のための生活クラス「チューリヒレーベン」
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2014年の時点でスイスの人口は824万人。全人口の約23%が外国人だ。移民が多く住むチューリヒ市では、移住者が新しい環境に馴染み、外国での生活を快適に過ごす事ができるよう、様々な取り組みが行われている。その一つが、チューリヒで暮らす女性のためのインテグレーションコース「チューリヒレーベン(Zürich Leben)」である。ちなみにLebenとはドイツ語で、生活を意味する。今回はこのチューリヒレーベン(以下、レーベン)について、筆者の過去の体験も交えながらご紹介してみよう。
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