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スイスメディア、日欧EPA署名受けスイス農業に警鐘 対米陣営への期待も

日欧EPAの署名式
安倍信三首相と欧州連合(EU)のトゥスク大統領(写真左)は17日、日欧経済連携協定(EPA)に署名。署名後、安倍首相はユンケル欧州委員長と固い握手を交わした Keystone

日本と欧州連合(EU)が17日に経済連携協定(EPA)に署名し、スイスメディアは「スイスの輸出産業が苦しい立場に押しやられる」と報じた。特にスイス農産品が日本市場で商機を逸すると警鐘を鳴らす一方、米国発の貿易戦争への対抗力になるとの期待もにじませた。

 スイスは2009年に日本とEPAを締結。日本とのEPAは欧州で初めてで、先進国同士のEPAとしても先駆けとなった。だが関税の99%撤廃を盛り込んだ日欧EPAに比べると、チーズやチョコレートなどで割り当て制が残りスイスにとって不利な内容となっている。

 スイス通信は「EU・日本のEPAは日本に輸出するスイスの製造業や農業に圧力をかける」と報じた。スイス・日本議員連盟は17日、「スイスはEUに追い抜かれる」とする声明文を発表。同連盟のエリザベス・シュナイダー・シュタイナー会長は昨年12月に連邦政府に対し、日スイスEPAの見直しを迫った。連邦政府も今年4月にアラン・ベルセ大統領やウエリ・マウラー副大統領が訪日し改定を提案。だがシュナイダー・シュタイナー氏によると、今のところ交渉が始まる見込みはないという。

 ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)外部リンクは改定への道筋が立たない原因は日本にあると読み解いた。「日本は現在ほかに憂慮すべきことがある」ためだ。日本と経済関係の強い英国のEU離脱(ブレグジット)の行く末や、米国が抜けた後の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が日本にとっての優先課題というわけだ。加えて「対スイス輸出は日本の輸出額の0.5%にすぎず、(改定への)圧力をかけるには存在感がなさすぎる」。

 他方でスイスにとって日本は12番目の輸出相手国で、年間約75億フラン(約8400億円)。「EUは特に農産品の対日輸出が伸びており、今後スイスはEUとの競争で不利になる」(SRF)。取材した農家団体はさほど危機感を抱いていないものの、日本の農業は高齢化で衰弱しつつあり、「日本で安価な国産品が氾濫する危険よりは、(高価な)スイス産品の輸入が増えるチャンスの方が大きい」と指摘した。

 ドイツ語圏の日刊紙NZZ外部リンクによると、スイスの乳業大手エミーは日欧EPAによりスイスのチーズ輸出は「大幅に不利になる」とみている。日本はチーズの輸入量が世界一で、スイスからの輸入量は年間600トン。日スイスEPAではナチュラルチーズの関税が600トンまで29.8%から14.9%に引き下げられたが、日欧EPAでは関税が完全撤廃される。NZZは豚・牛肉やパン製品、ヨーグルトやチョコレートでもEUは日本市場で有利になるとするパトリック・ツィルテナー・チューリヒ大教授の研究も紹介した。

 一方、「日欧EPAはトランプ大統領に対する明白なメッセージ」と題する解説記事を複数のドイツ語圏地域紙が掲載した。「両サイドとも、トランプ氏抜きでは合意に至らなかっただろう」と書き、米国のTPP離脱や鉄・アルミニウムへの関税引き上げが日欧EPA交渉の促進剤になったと説明した。「日欧の接近を目の前にして、スイスは第三国として指をくわえてみているしかない」。米国に対抗しうる大経済圏の誕生を歓迎する半面、日スイスEPA改定が置き去りにされていると指摘。スイスが抱えるジレンマを浮き彫りにした。

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