スイスの視点を10言語で

スイス鉄道、遅延増加に緊急対策 

スイス連邦鉄道(SBB/CFF/FFS)の遅延が原因で時間通り目的地に到着できていない利用者は1日平均12万5千人に上り、多い日は30万人にまで膨れ上がる。SBBはこの問題を重く受け止め「さらなる取り組みが必要である」とし、緊急対策に乗り出した。

SBB電車の時間の正確率

スイス連邦鉄道(SBB)は今年4月、電車の時間の正確率を改善するためのタスクフォースを立ち上げた。4月時点の「時間の正確率」は90.1%で、前年より少し下がっていた。「時間の正確率」は定刻通り、または遅れが3分以内で目的の駅に到着した乗客の割合を指す(SBB 公式サイトより)。

SBBのアンドレアス・マイヤー総裁は28日、ベルン本社で開かれた記者会見に出席し、運行時間の正確さについては「目立った成果が出ておらず」、当分は「小レベルの対策」しか行えないと説明。そのような現状を踏まえ「すぐに改善は見込めない」と打ち明けた。

SBBが抱える問題は、乗客数の増加に伴う新車両導入の遅れ、最も込み合う路線の遅延、ぎりぎりの人員配置による個々への負担増加など、多岐にわたる。マイヤー総裁は会見で「2019年は経営的にも、精神的にも非常に大変な年だった」と振り返った。

遅延の原因

2019年はSBB車掌の事故死や、猛暑で引き起こされた問題の数々、20年に1度のワイン生産者の祭り「フェット・デ・ヴィニュロン」など大規模な催しの開催時に起きた混雑なども遅延の発生原因となった。

マイヤー総裁は「私たちは第一に鉄道会社であり、開発会社ではない」と述べ、開発プロジェクトに集中投入していた経営資源を鉄道運営にも振り向ける方針を示した。

対策1)出発をより柔軟に

対策の第1弾は、2019年12月5日のダイヤ改定で行われる。マイヤー総裁の説明によると、「ファースト・イン、ファースト・アウト」の原則を特定のポイントで導入し、数分または数秒レベルでダイヤの調整が行われる。この原則は出発準備の整った列車から順に出発させるというもので、これにより、1つの列車の遅延がほかの列車の遅れをもたらすのを防ぐことができる。

この措置はまずベルン州シュピーツ駅で導入され、インターラーケンとブリークからほぼ同時に到着する2つのIC列車(都市間列車)に適応される。これまでブリークから来る列車は、インターラーケンから来る列車の出発後必ず3分経ってから発車することになっていた。12月15日以降は3分の時間差にこだわらず、早く出発準備が整った方から出発する。

対策2)空港での乗り換え推奨

2つ目の対策としてSBBは、スイス東部と中央部を列車で移動する乗客に対し、チューリヒ中央駅ではなくチューリヒ空港駅での乗り換えを推奨していく。空港駅は乗り換えの列車が同じプラットフォームに発着する。乗り換え時間の短縮になるうえ、乗り継ぎ時刻を心配する必要がなく、確実だ。

これらの対策措置は、SBBの専門家グループが策定した長期プログラム「時間厳守2.0」の1つ目のステップにあたる。過去数年は遅延状況に改善が見られ、ヨーロッパ諸国と比較しても時間の正確率は高い。だがSBBは「それでもなお、地方や単線路線で納得のいくレベルにまで達していない場所がある」と話した。

人手・列車不足には打つ手なし?

会見でマイヤー総裁は「過去に何らかのかたちで減速すべき部分はあった」と反省点を述べた。SBBは現在、いくつかのエリアで完全に動きがストップしている。

「運転手の数がどれだけ必要になるかなどは、完全に軽く考え過ぎていたものの一つ」とマイヤー総裁は一例を出し、そのようなことを原因に混雑ピーク時に十分な人手を確保できていないと説明した。また、新しい二階建て車両「FV-Dosto」は導入が6年遅れているという。「これについては成す術が全くない」。

2019年上半期のSBB利用者数は7%増加した。課題は山積みだが、SBBは時間通りダイヤが動くよう、今後も改善・向上に取り組む構えだ。


【読者からの質問】

SBBの車掌さんは一度チェックした人の顔をちゃんと覚えているのがすごい。誰が新しく乗車して、誰が前からいたかを覚えていて、たとえ乗車中に席の場所を変えても乗客の顔を覚えているので間違えることがありません。一瞬しか顔を見ないのによく覚えていることができるなといつも不思議に思っています。(Tomさん)

SBBの車掌さんは、何か特別な方法を習得しているのでしょうか。SBBに勤務するジョエル・ミュラーさんが、2019年6月5日付けのSBB公式ブログでまさにその質問に答えています。

「(…)車掌はそれぞれ、独自の方法を編み出しています。私の場合は顔そのものよりも、その周りのものを覚えるようにしています。例えば明るいピンクのセーターを着ている人、絨毯のように大きなスカーフを巻いた人、高そうなバッグを持った人など…。乗客は大抵、そのような特徴的な部分を一つは持っています。そうでない場合でも、特徴がない人、として覚えていられます。

またもう一つの覚え方は「方向」を基準にした方法です。常に同じ方向 ―進行方向またはその反対方向― からチェックをすると、もうチケットを確認した乗客がどこに座っていたかをより正確に覚えていられます」

ただ、こうも書いています。

「正直に言って、常に正確に覚えているわけではありません。記憶が怪しいときは、チケットを2回確認してしまうこともあります。過去にもそのようなことはありました。声高に2回目だと指摘した乗客もいます。ごめんなさい!」

大きな駅を通過する長距離列車などの場合は、途中で車掌が交代することも。そのため、長い間同じ列車に乗っていればチケットを2回チェックされることもあります。

おすすめの記事
プラットフォームに停まった電車

おすすめの記事

スイス鉄道、「時間通りで安全」は本当?

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦鉄道(SBB)は欧州の旅客輸送で最も効率的な鉄道とされる。だが不満の声がないわけではなく、いつまで高評価が続くかは分からない。

もっと読む スイス鉄道、「時間通りで安全」は本当?

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

マイクに向かって演説をする女性

おすすめの記事

トランプ氏銃撃、スイス大統領「容認できない」

このコンテンツが公開されたのは、 ドナルド・トランプ前大統領が13日に銃撃された事件を受け、スイスのヴィオラ・アムヘルト大統領は「政治的な暴力は容認できない」と訴え、一日も早い回復を祈った。

もっと読む トランプ氏銃撃、スイス大統領「容認できない」
洪水の被害を受けた地域

おすすめの記事

ツェルマット行き鉄道、少なくとも8月中旬まで一部区間で運休 大洪水で

このコンテンツが公開されたのは、 スイス南部を中心に発生した大規模な洪水の影響を受け、ツェルマット~ディセンティス間を結ぶマッターホルン・ゴッタルド鉄道(MGB)は、少なくとも8月中旬まで一部区間で運休するとの見通しを明らかにした。

もっと読む ツェルマット行き鉄道、少なくとも8月中旬まで一部区間で運休 大洪水で
スイスは対ロシア制裁リストを拡大した

おすすめの記事

スイスが対ロシア制裁リストを拡大

このコンテンツが公開されたのは、 スイスは対ロシア制裁リストを拡大した。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続いていることを受け、欧州連合(EU)が決定した変更を採用した。

もっと読む スイスが対ロシア制裁リストを拡大
人工知能(AI)による雇用喪失への懸念はスイスが最も低かった

おすすめの記事

AIによる失業懸念、スイスは最低

このコンテンツが公開されたのは、 人工知能(AI)は日々の仕事に影響を与えている。スイスでは、多くの人たちが仕事を含めAIを使っているが、この新しいテクノロジーのせいで仕事を失うと心配している人は比較的少ないことが最新の調査で分かった。

もっと読む AIによる失業懸念、スイスは最低
核兵器禁止を訴える団体

おすすめの記事

核兵器禁止条約への加盟求めスイスで署名集め開始

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの市民団体「核兵器禁止を求める同盟」は、国連核兵器禁止条約への加盟を求めるイニシアチブ(国民発議)を立ち上げた。必要な署名が集まれば国民投票が実施される。

もっと読む 核兵器禁止条約への加盟求めスイスで署名集め開始
スイスの伝統衣装を着た女性

おすすめの記事

スイス民族衣装祭りに観光客10万人

このコンテンツが公開されたのは、 スイス・チューリヒで6月28~29日、連邦民族衣装祭りが14年ぶりに開催され、延べ約10万人の観客が訪れた。

もっと読む スイス民族衣装祭りに観光客10万人
UBSとクレディ・スイスのロゴが入った窓ガラス

おすすめの記事

クレディ・スイスのスイス法人が消失

このコンテンツが公開されたのは、 スイス二大銀行だったUBSとクレディ・スイスの現地法人の合併が1日、完了した。今後スイス国内でも「クレディ・スイス」の看板撤去が進むことになる。

もっと読む クレディ・スイスのスイス法人が消失
マルティン・シュレーゲル氏

おすすめの記事

連邦内閣、マルティン・シュレーゲル氏をスイス中銀新総裁に任命

このコンテンツが公開されたのは、 連邦内閣はスイス国立銀行(SNB、中銀)の新総裁に予想通りマルティン・シュレーゲル副総裁を任命した。ペトラ・チュディン氏が新たな理事会メンバーとなる。

もっと読む 連邦内閣、マルティン・シュレーゲル氏をスイス中銀新総裁に任命
職場の犬

おすすめの記事

職場のワンコ、従業員の満足度を向上 スイス調査

このコンテンツが公開されたのは、 犬は職場の雰囲気を良くし、飼い主だけでなく他の従業員にとっても良い影響を与える――スイスの労働者を対象に実施された調査は、職場に犬がいることの効用を強調する。

もっと読む 職場のワンコ、従業員の満足度を向上 スイス調査

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部