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銀行の規制強化に向けた新法に抜け穴と警告

大手銀行の安定性を高めるためには? Keystone

経営危機に直面する大手銀行に対し、政府からの救済を繰り返さないために銀行の規制強化案が9月30日に連邦議会(国会)で可決された。

中道派の政党は(新法で厳しい規制を課すという)スイスの先駆的な役割を歓迎した。一方右派は新法によってスイス金融界の国際競争力が削がれると主張。また左派は、とりわけ投資銀行業務に対する一層の規制強化を要求した。

 秋の会期中の全州議会(上院)と国民議会(下院)の激しい討論の結果、連邦議会で規制強化案が承認・可決された。これによって銀行の最低自己資本比率を19%へ引き上げ、リスクの分散を強化、銀行が破産状態になった場合の支払い取引を確実にするための段階的な措置を取るなどの法案が採用される。

 今回の法規制は主に内閣の提案に従い、問題のある大手銀行に対し、バーゼル銀行監督委員会が設けた規制よりも厳格な基準を課している。それらの銀行は、スイス経済にとって極めて重要な「つぶすには大きすぎる」存在だ。

 左派の社会民主党(SP/PS)は、今回の決議を正しい方向へ向かう「第一歩」と歓迎したが、「スイス経済に対する大手銀行のリスクは依然として大きすぎる」と警戒する。

 より厳格な自己資本規制や投資銀行業務の全面禁止を求める声が上がる中、議員のスザンヌ・ロイテンエッガー・オーバーホルツァー氏も「国を大手銀行の人質にさせてはならない」と主張する。

投資銀行業務

 UBS社員の不正取引による23億ドル(約1769億円)の損失についての9月の発表の後、オーバーホルツァー氏はこの問題を取り上げ、投資銀行業務の禁止について討論を求めていた。これは却下されたが、同氏は今後もより厳しい規制を断固として求める意向だ。

 この法案を「厳しすぎる」と拒否した右派の国民党(SVP/UDC)は、「競争力に打撃を与える」ため代替案を作るべきだと主張した。「われわれは、投資銀行部門をほかの部署から切り離し、大手銀行が計りしれないリスクを抱え込まないようにするための代替案を作るよう政府に求める」と国民党の事務局長マルティン・バルティッサー氏は解説。

 さらにバルティッサー氏は、「リスクは削減したが問題は解消していない。銀行が破綻した場合、結局政府は銀行を救済しなければならない。われわれは、大手銀行を部署ごとに分割する、あるいは持ち株会社を作るなど構造的な解決策を求めている」と説明を加えた。

 中道派の自由緑の党(Grünliberale/Vert’libérauxl)もまた政府にユニバーサルバンク(証券、投資顧問、保険、リースなど一切の金融業務を行う総合金融機関)の解体を提案している。

安定

 中道派のキリスト教民主党(CVP/PDC)は新法案を「模範的」と歓迎した。また右派と左派の要求が大多数を占められなかったことに対する満足の意を表明した。さらに「投資銀行業務の禁止は全くの大衆迎合的手段に過ぎず、安全保障を作り出すことになはならない」と言明。

 同様に、中道右派の急進民主党(FDP/PRD)議員のフィリップ・ミュラー氏もまた投資銀行業務の禁止は必ずしも大規模な損失の防止にはならないと主張。「どんなに多くの法規制を設けても犯罪の意図を持った銀行員が法の抜け穴を見つけ出すことは常に可能だ」と警告する。

 スイス銀行協会 (Swiss Bankers Association)は、顧客に幅広いサービスを提供するユニバーサルバンクの解体案に反論する。「(ユニバーサルバンクという)このビジネスモデルの形態は、銀行の安定性と多角化に貢献している」と広報担当のシンディ・シュミーゲル氏は語る。

 しかしスイス銀行協会は、反対にあったにもかかわらず政府によって押し通された定期審査などの新しい規制を歓迎している。また新法は「スイスの大手銀行のシステムの安定と国際競争力の適切なバランス」を確実なものにすると評価する。

規制強化

 両院が討論を行っている間、社会民主党(SP/PS)、自由緑の党(Grünliberale/Vert’libérauxl)からより厳しい法案が複数提案された。

 しかし、大手銀行の投資銀行業務の禁止、取引活動の規制強化、およびリスク資産ではなく総資産に基づいた資産流動性に対する規制強化などの法案は、過半数の反対にあった。

 一方、国民党(SVP/UDC)は、UBSとクレディ・スイスの投資銀行部門を中核ビジネスの資産運用部門と小売銀行業務部門から切り離すことを提案したが、これも拒絶された。

信用

 9月29日に新規制法案の細部が承認されるまで、両院の間に幾度か激しい論争があった。エヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフ財務相は、規制強化は金融の中心地としてのスイスに対する信用を取り戻す助けになると語った。

 さらに「銀行に対して企業の自由を残すべきだが、国と納税者に問題を起こさないよう特定の規制を課さなければならない。その結果、銀行収益が減少する可能性はある。しかし、安定性、安全保障、信用が向上し、金融業界の信用が回復する。これは極めて重要なことだ」と議会で述べた。

 2008年の金融危機の最中、政府は数十億フランを投じ、抵当市場で巨額の損失を出したUBSを救済した。スイスの二大銀行UBSとクレディ・スイスの資産価値の合計は、スイスの国民総生産(GNP)の4倍を上回る。

新規制は、リスク資産に対する中核的自己資本(Tier 1)の比率を19%以上維持することを大手銀行に義務付ける。そのうち最低10%を普通株など、9%を偶発転換社債(CoCo債)のような資産で構成しなければならない。

合計19%の自己資本比率は、バーゼル銀行監督委員会が提唱した自己資本規制「バーゼルIII」の自己資本比率の2倍近い基準。

この新法は2012年に施行される。

( 英語からの翻訳、笠原浩美 )

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