スイスでは24日、抜本的な年金改革案など3件の是非を問う国民投票が行われた。年金制度改革案は反対が52.7%で賛成の47.3%を上回り、否決された。同改革に伴う付加価値税(VAT、0.3%)の引き上げは賛否がともに50%と割れ、州の過半数が反対し否決された。一方、食料安全保障を憲法に盛り込む案については78.7%の賛成多数で可決された。投票率は47%。
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マルチメディア・ジャーナリスト。2017年にswissinfo.ch入社。以前は日本の地方紙に10年間勤務し、記者として警察、後に政治を担当。趣味はテニスとバレーボール。
年金改革案
連邦議会は今年3月、年金財源を確保するための年金改革案「老齢年金2020外部リンク」を全州議会(上院)、国民議会(下院)で可決。この改革案と、付加価値税の引き上げの2点が強制的レファレンダムによって国民投票にかけられていた。
「老齢年金2020」は女性の定年年齢を現行の64歳から2018年以降、段階的に1年に3カ月ずつ引き上げ、最終的に男性と同じく65歳とする。この措置により、日本の国民年金(基礎年金)にあたる老齢・遺族年金基金は年間約13億フラン(約1495億円)を追加確保できる。
「老齢年金2020」にはほかにも▽保険者が62~70歳の間で自由に年金受給年齢を選択できるようにする(現在は63~70歳)▽企業年金(日本の厚生年金に該当)で積み立てた貯蓄額にかかる年金転換算定率を4年間で6.8%から6%に引き下げ▽定年年齢の引き上げに伴う不均衡を緩和するため、2019年以降に年金を受け取る人の受給額を月70フラン増額-などの項目が盛り込まれていた。
2件目の付加価値税の引き上げも、老齢・遺族年金基金の財源確保が目的だったが、国民の支持は得られなかった。
年金改革案は今年3月、連邦議会で僅差で可決。キリスト教民主党と社会民主党が支持していたが、他の主要な政党まで支持が広がらなかった。
有権者を対象にした投票直前の世論調査では、同改革案に対する賛成は51%、反対が44%で、8月の第1回調査時点より賛成が2ポイント減少。付加価値税の引き上げについても賛成50%、反対45%と拮抗していた。
スイスの年金制度改革が最後に行われたのは1997年。今回可決されれば20年ぶりの改革だったが、否決されたことで国はさらに苦しい舵取りを迫られることになった。
食料安全保障は圧倒的賛成多数
3件目の食料安全保障を憲法に盛り込む案は今回の可決を受け、▽農業生産の基盤を守る必要性▽食料生産はその地域の条件に合わせた手法で行い、資源も有効活用する▽農業と食料サプライチェーンが市場志向型であること▽国際貿易関係は農業と食料サプライチェーンの持続的発展に寄与するものであること▽生産された食料は資源を尊重する方法で利用すること。消費者は無駄な廃棄食料を減らし、この点において自らの責任を一層意識するーの5点が新たに憲法に明記される。
全政党と主要な農業団体の支援を取り付けたほか、左派の農業労働者組合「ユニテール(Uniterre)」などの組織も、同案が要求の一部を満たしているとして反対しなかった。
投票前の世論調査でも69%が賛成、20%が反対と賛成が圧倒的に上回っていた。
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公的年金の財政基盤の強化を目的にした同法案は、今年後半に行われる国民投票で有権者からの最終判断を受ける。
年金制度改革関連法案が国民投票で可決された場合、女性の定年年齢は現在の64歳から男性と同じ65歳に引き上げられる。また、老齢年金(日本の国民年金に相当)では、給料からの差し引き額が微増され、年金支給額が月70フラン(約7900円)増額される。
一方、企業年金ではいわゆる年金転換算定率が6.8%から6%に引き下げられ、年金支給額が減額される。
この法案の目的は、公的年金である老齢・遺族年金制度の財政基盤を安定させることだ。この制度はスイスの社会保障における3本の柱の一つを成している。
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