4月2日、ベルンで開かれた集会「ピース・ナウ」に参加したビクトリアとポリーナ
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ウクライナ南部の都市ミコライフからスイスに逃れ、故郷から2500キロメートル離れたベルンで暮らし始めたビクトリア・ビリチェンコとその娘ポリーナ。2人の日常は激変し、彼女らを自宅に受け入れた筆者の生活も少しだけ、変わった。
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2022/04/29 08:30
カバンとリュックサックを2つずつ抱えた2人が筆者宅に到着したのは3月末だった。彼女たちを車に乗せてきた市民防衛団員は、荷物を家に運び入れると帰って行った。
筆者は戦争勃発後、スイス難民援助機関(SFH/OSAR)に連絡を取った。主権国家である隣国に対してロシアが行ったこの極悪非道な攻撃による人道的苦難や避難する人々、そして甚大な破壊のイメージには、それほど心を揺り動かされた。ウクライナ国旗を窓辺に掲げたり平和の鳩をソーシャルメディアに上げたりするのも、良いことには違いない。しかし、この悲惨な戦争を前にして、豊かで平和なスイスで悠々たる年金生活を送る自分には、もっとできることがあると思えた。
それでも、申し出はまだ有効かとベルンの連邦難民センターから確認の電話がかかってきた時は、やはり少しドキッとした。自分にできるのか?やりたいのか?結局、腹をくくり、承諾した。そして2人はやってきた。
2人が荷ほどきをした中に、ティーカップが2個とカトラリー、皿拭き用のふきんがあった。ビクトリアが「ポリーナに少しでも家にいるような気分になってほしい」との思いで、ミコライフの家からここベルンの台所まで運んできたものだった。
2人にとって春の雪は新鮮な経験だ
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ここに来て最初の夜が明けると、ビクトリアは筆者の前に立って「I miss my husband(夫が恋しい)」と言った。ミコライフの市立劇場で人形師の仕事をしている彼女の夫は、18歳から60歳までの全てのウクライナ人男性と同じように、国内に残らなくてはならなかった。彼女の兄と義母もまだウクライナにいるが、母親はポーランドに住んでいる。
ポーランドを離れるよう娘に忠告したのは、この母親だった。難民は200万人を超え、もう泊まる場所もほとんど無いとのことだった。こうして2人は、ワルシャワ、ウィーンを経由する4日間の旅を経て、ベルンにたどり着いた。
役所巡り
10歳のポリーナは、4日ぶりにようやく自分の部屋で眠った。そして、高い山々と山小屋の絵を描いて筆者にくれた。スイスアルプスを彷彿(ほうふつ)とさせる絵だが、本人はまだ一度も訪れたことがない。
ベルンに来て1週間後、筆者の「被保護者」たちにS許可証が下りた。ビクトリアの収入ではここで暮らして行くには足りないため、私たちは市の難民福祉サービスに行き、順番待ちの長い列に加わった。ウクライナ人の間にも割り込みはあるとみえ、そういう人たちに一緒に腹を立てたりした。翌日はポストファイナンスに行き銀行口座を開設し、その後、移民局と教育局を回った。ポリーナは、春休みが明けたらドイツ語の集中講座を受けることになった。近所のウクライナ人の子供たち2人も一緒だ。
ポリーナは、春休みが明けたらドイツ語の集中講座を受ける。もう課題にも取り組み始めた
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少しずつ、日常らしきものが戻りつつある。あるカナダ企業のITコーチとして働く34歳のビクトリアは、日中はパソコンに向かう。今はミコライフではなくベルンが勤務地。いわばデジタルノマドだ。
ポリーナはオンライン授業を受けている。しかし、授業数は減る一方だ。33人のクラス中、戦争の混乱でたった10人しか残っていない。そこで筆者は時々、絵札合わせゲームのカードやピクトグラム、それにグーグル翻訳の助けを借りて、ポリーナとドイツ語の勉強をするようになった。
食文化の違い
ベジタリアンの我が家に肉の匂いが広がる。ウクライナ料理は肉がメインでボリュームがある。冷蔵庫はいつになく一杯だ。スーパーマーケットにずらりと並ぶヨーグルトやチョコレートの品揃えは、2人にとってあまりにも魅力的だ。プラスチックゴミも前より増えた。
初めて見るスイスのお金。ビクトリアの目にスイスの紙幣は「very beautiful(とてもきれい)」と映る
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しかし、それがなんだろう。ビクトリアとポリーナは、いわば一夜にして日常生活から放り出された。そして、絶え間ない爆撃に苦しみ水道も出ない中で暮らす親族の身を案じなければならない。それに比べれば、サラダ用のざるがいつもと違う場所にしまわれていたことなど、ちっぽけなことだ。
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(独語からの翻訳・フュレマン直美)
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