世界景気の後退が懸念される2023年。16日に開幕する世界経済フォーラム(WEF)の年次総会、通称「ダボス会議」に参加する経済エリートたちは、各国に広がる社会不安を止められるのか。
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2022年は燃料・食料の高騰により、世界各地で抗議デモや労働闘争が活発になった。スリランカや英国、ペルー、ブラジルでは国民の不満が政権交代につながり、今月8日にブラジルで起きた議会襲撃は2021年に米国で起きた同様の事件を想起させる。
「人々は社会に不満を抱き、なぜ協力するのか疑問に思い始めている」。米国の「パトリオティック・ミリオネアズ」のモリス・パール代表はこう語る。富裕層のためのコミュニティーでありながら、不平等撲滅のために富裕層にもっと課税すべきだと訴える団体だ。
「人々が怒るのは当然だ。システムが自分たちの不利になるように操作されていると考えていて、実際にそうなのだから。私たちは、富裕層が自発的に変わらない限り、石を投げて行進している彼らが代わりに物事を変えてしまうのではないかと恐れている」
エコノミストらは、世界中で家計への負担と痛みが増していくと予測する。
国際通貨基金(IMF)は世界経済の3分の1が2023年に景気後退に陥る可能性があると警鐘を鳴らす。インフレ率は6.5%と22年の8.8%(予測)から伸び悩むとみるが、クリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は1日、米CBSテレビで「世界経済の大部分にとって厳しい、昨年よりも厳しい1年になるだろう」と語った。
貧困がさらに拡大
WEFの年次総会「ダボス会議」には毎年2500人の政財界エリートが参加し、50年以上にわたってスイスのスキーリゾート、ダボスの地で多くの危機を乗り越えるべく議論を交わしてきた。
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ダボス会議って?10の疑問に答えます
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毎年1月、スイス東部のダボスで開かれる世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)。世界のビジネスリーダーや首相らが一堂に会する会議だが、会議の参加費やメンバー企業の年会費はいくらなのか。また開催国のスイスは警備に一体どれくらいの予算を投じているのか。スイスインフォが調べた。
1.WEFとは
本部はジュネーブ。経済学者クラウス・シュワブ氏が1971年に非営利団体として創設。当初は欧州企業の経営力向上が目的だったが、現在では経済、環境など多様なテーマを議論する場に発展した。加盟企業はパートナー、メンバーの種別があり、WEFに年会費などとして出資している。
2.パートナーとは
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だが今回は、「世界をよくするために対話する」というWEFのミッションを達成するために、何から手を着ければいいのか分からない状態だ。
各国が2年間にわたる新型コロナウイルスのパンデミックに伴うロックダウンの余波を引きずる中、中国が国境を開いたためにウイルスが再び猛威を振るうとの懸念が広がる。
ロシアのウクライナ侵攻による犠牲が減る兆しはなく、エネルギー・食糧価格を押し上げている。
このため消費財の価格高騰に歯止めがかからず、世界各地で経済的に困窮する人が増加中だ。
国際援助NGOのオックスファム・インターナショナルは昨年5月のダボス会議で、パンデミックやインフレ、ウクライナ戦争によって、世界で2億6300万人が貧困に追い込まれると警鐘を鳴らした。
オックスファムは低所得者ほど生活費の上昇による負担が大きいため、不平等が拡大し、社会的分裂が起きるとの懸念を示す。「現在進行中の新型コロナ危機は、政府や国際社会が過去20年間に起きた貧困の急拡大を防げなかったことをつまびらかにした。生活費の危機はそれに拍車をかけている」
スイスのような豊かな国でさえも、この苦境から完全に逃れることはできなかった。フラン高のおかげで2022年のインフレ率は2.8%に抑えられたが、それでも30年ぶりの高水準だ。
最新の政府統計によると、2019年にはスイスの人口850万人の8.7%に当たる73万5000人が貧困に陥った。慈善団体カリタスは、2000年以降のコロナ危機と22年のインフレにより、生活に困窮する人の割合はさらに増えたとみる。
カリタスの広報担当者リヴィア・ライカウフ氏によると、「以前から家計のやりくりが厳しかった人は、今や月末になると生活費が底をつく状態」の人が増えている。
カリタスが昨年まとめた調査によると、既に貧困ラインぎりぎりで暮らしている人が多いため、わずかな生活費の上昇でもスイスの貧困率は2倍に跳ね上がる。
「今後数週間~数カ月で状況はさらに悪化し、より多くの人が貧困に陥るとみなければならない」(ライカウフ氏)
WEFが世界を救う?
WEFは1月16日、「分断された世界における協力の姿」をテーマに1週間の年次総会、通称「ダボス会議」を開催する。ウクライナ戦争、中国と欧米の緊張の高まり、多くの国々での食糧不足、気候変動への取り組み方という未解決の問題を前に、「不確実性と脆弱性の10年」に直面する世界を憂う。
WEFが毎年発行する「グローバルリスクリポート」では、安定を脅かす短期的な懸念事項の第1位に「生活費の危機」が挙がった。
「経済的な圧力により中所得層の空洞化が続き、社会不安と政情不安の同時進行は新興市場にとどまらなくなる」。このため「世界中で政治体制の存亡の危機」を引き起こす可能性がある、と同リポートは警告した。
2022年のリポートで7位だった「社会的結束の低下と社会的分断」のリスクは不安定化要因の5位に上昇した。
WEFは、世界中の有力者が集まって喫緊の課題に取り組むことで、世界的課題を解決する一翼を担っていると自負する。
だが懐疑的な声もある。前出の「パトリオティック・ミリオネアズ」は昨年、公開書簡でWEFをこうこき下ろした。「確かなのは、今やダボス会議が世界から信頼されるに値しない存在だということだ。世界をより良くするための議論に膨大な時間を費やしながら、それは自己満足にすぎず、具体的な成果はほとんど生み出していない」
パール代表は1年たった今も変化がないとみている。swissinfo.chの取材に対し「WEFは不平等を象徴している。会議の出席者から参加費を徴収して儲けを得る。会議の運営者や参加者が不平等の拡大する今の流れを変えようとしている確かな証拠を見たことがない」と語った。
英語からの翻訳:ムートゥ朋子
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世界経済フォーラム(WEF)主催の年次総会(ダボス会議)に集まる世界の指導者たちは不安な時期を迎えている。英国や米国、イタリアの有権者たちが、中間層が抱える支配階級への不満を浮き彫りにしたためだ。
今日17日に開幕を迎えたダボス会議。各国から政財界の要人がダボスに集まる中、フランソワ・オランド仏大統領、アンゲラ・メルケル独首相、カナダのジャスティン・トルドー首相をはじめとする複数のトップは、ダボス会議への参加を控え国内に残る決断を下した。オランダ、ドイツ、フランスの選挙が迫っているためだ。
生活水準が高く、豊かで政局が安定しているスイスでさえ、最近は政治的に二極化の傾向がみられ、国民投票で保守的な結果が出たりしている。
WEFは「即応し、責任あるリーダーシップ」を今年の会議のスローガンに採用。WEFの創設者、クラウス・シュワブ会長は会議に先立ち、指導者は「耳を傾け、指導者に信任を与えた人々と相互に対話しなければならない」と語った。「だが聞くだけでは十分ではない。行動し、対応し、世界の地位を向上させるために決断する勇気を持たねばならない」
最後にシュワブ氏は「世界が昨年にも増してこのメッセージを聞き入れてくれることを期待する」と付け加えた。
スイスの政治学者でスイス内外の顧客に幅広く助言するルイス・ペロン氏は、国際社会が大きく変動し、就業や移民、社会福祉の将来に対して人々の抱える不安が膨らむのに対し、西側諸国の特権階級がうまく対応できなかった代償を支払っていると指摘する。
「人々はエリートが自分たちを理解せず、発言を修正する代わりに同じ内容をより大きく繰り返すだけだ、と不満を持っている」と同氏はスイスインフォに語った。「そのため人々の需要と政治家からの供給に齟齬(そご)が生じ、人々は何らかの変化を期待して投票するようになった」
「選挙や国民投票におけるキャンペーンは、果たして何に対して票を投じるのか、論点設定をめぐる闘争となっている。支配者側がこの闘争に敗北することが圧倒的に多くなってきた」。指導者たちがいったんこうした闘争に負けると、失った地位を取り戻すのは至難の業だと同氏は指摘する。
スイスの国民投票
英国有権者が欧州連合(EU)離脱を決め、米国ではクリントン体制が拒否され強硬的なアウトサイダー、ドナルド・トランプ氏が選ばれたことは、ともに既存の統率システムに対する不満の広がりを物語っている。
スイスにおいても、有権者たちは不満を抱えている。ここ数年、スイスでは国民投票で既成概念を覆すような結果がいくつもあった。最低賃金、中央銀行の金融政策や公共サービスの運営の変革を求めたこともあった。
超富裕層や止まらない移民流入を狙い撃ちした国民投票が実施されたことは、否決はされたものの政治家や企業経営者たちの悩みの種となった。スイス経済界は、政治家と有権者の双方に通じていなければならなくなった。
スイス金融大手UBSは昨年11月のリポートで、有権者の不満は中間層を中心に勢いづいていると指摘した。うっすらと認識されてきたこの現象は、西側諸国ではより顕著になった。新興国では中間層がさらに拡大し豊かになっているという。
一方でUBS銀行は、スイスの中間層は欧州のなかで特殊な存在だと主張する。スイス政府は低所得者層を税制や補助金で優遇することで、格差拡大を和らげることに成功しているとする。
加えて、スイスの強固な徒弟制度やリベラルな労働市場が雇用創出に役立っているとも指摘した。
憤慨する労組
しかしスイス労働組合連合(SGB/USS)はこうしたバラ色の分析に同意を示さない。昨年発表した意見書では、低・中間所得者層は健康保険料の値上がりで高所得者層に比べ大きな打撃を受けていると批判した。
さらに富裕層が引退後に投資で資産を増やすことができるのに対し、低所得者層は支給額の減りゆく年金に頼らざるをえない。
連合は左派系の政治家とともに、スイスの法人税制改革を問う来月の国民投票で反対票を投じるよう国民をけしかけている。スイスの国際企業を国内に維持するためのコストを中間所得者層に押し付ける改革案だ、と当事者に直接訴えかけている。
ペロン氏は、国民投票の結果がどうであれ、スイスの有権者は基本的には周辺国に比べ秩序ある行動をとるとみる。
同氏は「スイス国民は憤りや自己利益のみを重んじて投票するのではなく、公共の利益を踏まえて賛否を決める傾向がある」と話す。「政府の推奨通りに投票することが多いのはそのためだ」という。
「大半の諸外国の有権者はスイスのように異議を唱える機会に恵まれていないがゆえに、選挙で極端な結果になりやすい」
ダボス会議に出席する指導者たちは、開催期間の17~20日の間、こうした極端な結末を避けるための処方箋を議論する。世界経済フォーラム ダボス会議2017
第47回となる世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)は1月17~20日に開かれる。世界中の政治、経済、市民社会、宗教、科学、学術、芸術の各分野から3千人という記録的な数の代表者が集まる。
中国の習近平国家主席は大規模な代表団とともに、中国の政府トップとして初めてダボス会議に出席する。その他有力者たちのなかにはテレサ・メイ英首相、ジョー・バイデン米副大統領、国際通貨基金(IMF)のクリスティーヌ・ラガルド理事長、赤十字国際委員会(ICRC)のピーター・マウラー総裁、国連のアントニオ・グテーレス事務総長などがいる。
1400社からおよそ千人の企業経営者も出席する。マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏、フェイスブックの最高執行責任者(COO)シェリル・サンドバーク氏、中国のネット通販最大手アリババの創業者ジャック・マー氏などだ。
総会では環境問題やイラク・シリア内戦、ジェンダー、教育や健康など、非政治的または経済的なテーマにも焦点を当てる。
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