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2023年6月18日の国民投票

2050年までの気候中立目指すスイスの環境新法が国民投票へ

石油暖房機の交換作業
チューリヒの家屋で、石油暖房機を交換する様子。6月18日に国民投票にかけられる気候保護法が可決されれば、古い暖房を環境に配慮したものに交換すると補助金が出る © Keystone / Gaetan Bally

スイス有権者は6月18日の国民投票で、気候変動対策を盛り込んだ新法への是非を問われる。2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指し、家庭や企業への奨励予算が盛り込まれる一方、化石燃料の使用を禁止する案は削除されている。

国民投票の内容

2022年9月、スイス連邦議会は気候対策に関する新しい法案を可決した。この「気候保護目標・イノベーション・エネルギー安全保障の強化に関する連邦法(KIG/LCI)」(通称・気候保護法)は再生可能エネルギーへの移行加速を目的とし、2050年までに国内排出量の実質ゼロ(気候中立)を実現する目標が明記されている。つまり2050年のスイスで排出される二酸化炭素(CO₂)は、森林や回収・除去技術で吸収できる量以下に抑えなくてはならなくなる。

同法案は「氷河イニシアチブ(国民発議)」への対案として作成された。排出量削減の中間・最終目標を定め、気候変動に配慮した投資を促す。

≫動画:イニシアチブとは

イニシアチブ原案と対案の違い

スイス気候保護連盟が発議した氷河イニシアチブ外部リンクは、2050年までにCO₂排出量ゼロを達成し、それ以降は化石燃料の使用を完全に禁止する内容だった。気候変動の影響がスイスで最も深刻な氷河からその名を取った。

しかし連邦政府と議会の過半数が、化石燃料の使用禁止は行き過ぎだとして反対した。政府は同イニシアチブの骨組みは変えずに、化石燃料「禁止」を明記しない対案を練った。代わりに、10年間の気候対策予算として20億フラン(約2900億円)を積むことを盛り込んだ。ガス・石油暖房の気候配慮型への買い替えを促す家庭向け補助金や、企業の技術開発に対する奨励金に充てられる。

連邦議会は直接的対案ではなく、間接的対案という形式を選んだ。憲法改正を伴わない法律レベルの改正になるため、国民投票で可決されると迅速に施行できる。気候保護連盟は議会の決定に満足し、イニシアチブを取り下げ、間接的対案を支持することにした。

どうして国民投票が実施されるのか?

議会第1党の右派・国民党(SVP/UDC)が法案に反対しているからだ。同党は議会の可決した法律の施行に反対するレファレンダム(国民表決)を立ち上げ、必要数(5万筆)の2倍を超える有権者の署名を集めた。投票は6月18日に実施される。

≫動画:レファレンダムとは

国民党が環境保護法に反対する理由は?

国民党は環境保護法を、経済と国民に有害な「電力無駄食い法」と批判する。2050年までに気候中立を達成するにはガソリン、軽油、重油、ガスの使用を禁止しなければならず、結果的に電力の需要が増え、各世帯の光熱費は年間数千フラン増大すると試算。ただでさえエネルギー価格が高騰する今、こうした負担を増やすことに猛反対している。

国民党が連邦議会の可決した気候政策に異議を唱えるのは初めてではない。2020年には排出量削減の具体策を盛り込んだ改正CO₂法をめぐり、経済界が立ち上げたレファレンダムに加勢した。翌年実施された国民投票で、改正CO₂法は否決の末路を辿った。

環境保護法の支持者は誰か?

間接的対案は、連邦議会で左派の社会民主党(SP/PS)から右派の急進民主党(FDP/PLR)に至るまで、国民党を除く主要政党から幅広く支持を得た。環境団体や氷河イニシアチブの実行委員会も、スイスは環境保護法で化石燃料への依存から脱出しエネルギー自給率を高められるとみる。支持派は新テクノロジーやイノベーションへの投資が増えれば、結果として雇用を生むことになるとも主張する。

スイスにおける化石燃料と再生可能エネルギーの比率は?

スイスは国内消費エネルギーの約70%を輸入に頼る。原油、石油製品、ガス、石炭がその中心だ。原油の主な輸入先は、ナイジェリア、米国そしてリビア。スイスは、建物の暖房用石油の使用量が欧州で最も多い国の一つだ。ここ数年、とくにウクライナ紛争勃発以降はヒートポンプ式暖房の需要が増加したものの、国民の約6割は化石燃料暖房を使用している。

消費エネルギーの残り約30%は国内で生産する電力で賄っている。そのうち3分の2は再生可能エネルギー(主に水力発電)で、残りの3分の1は原子力発電で生産される。

太陽光や風力発電は、スイスでは近隣国ほど発達していない。一方、再生可能エネルギーのシェアは欧州平均よりも高くなっている。

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2050年までに気候中立の実現を目指す国は?

国連に加盟する198カ国のうち130カ国以上が2050年まで、あるいは中国やロシアのように2060年までに気候中立の実現を掲げている。こうした国々の合計で世界の排出量の約90%を占める。

しかし現在の取り組みでは、気温上昇を1.5度未満に抑える「パリ協定」の目標を達成することは出来ない。世界59カ国と欧州連合(EU)加盟国のガス排出量、再生可能エネルギー使用状況、気候政策を指数化した「2023年気候変動パフォーマンス・インデックス(CCPI)」によると、現在の気候変動危機に対して適切な政策を実施する国は一つもないという。

スイスの気候変動政策に対する評価は?

今年のCCPIでスイスは22位と、昨年の15位から順位を下げた。「気候政策の改善」と「その政策の迅速な施行」が必要だと指摘された。

外部リンクへ移動

世界の気候政策を監視する独立団体クライメート・アクション・トラッカー(CAT)も、スイスの取り組みを「不十分」と評価する。2021年の国民投票で改正CO₂法が否決されたことを踏まえた。

CATは全ての国がスイスのように行動すれば、2050年までに地球の気温は2~3度上昇してしまうだろうと警告する。

仏語からの翻訳:中島由貴子

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