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デジタルの時代こそ「無駄」が必要 書道家・武田双雲さんがスイスで個展

武田双雲
書道家の武田双雲さんは昨年、個展に向けチューリヒに滞在。その間に描いた「湧純」は、スイスの人々や自然から湧き出る純粋さにインスピレーションを受けたという Kaoru Uda/swissinfo.ch

書道家武田双雲さん(46)の欧州初の個展がチューリヒで開かれている。伝統とモダンの間を自由に行き来する型破りの芸術家は、デジタル化の時代こそ書道の存在意義が増すと話す。

書道と聞いて、白い紙に毛筆で書かれたモノクロの作品を思い浮かべた人は意表を突かれるかもしれない。武田さんの個展には、キャンバス上に散らした色とりどりのアクリル絵の具と墨の文字が交じり合った、抽象画のような作品も並ぶからだ。

武田さんが色を使い始めたのは3、4年前。自分の子供のクレヨンや絵の具を遊びで使ったら「はまってしまった」と屈託なく笑う。「書道ってどちらかというと『型』の世界なので、どこか息苦しかった。それが色を使うことで解放感と喜びが止まらなくなって、エネルギーがどんどんあふれてきたんです」

書道作品
伝統的なスタイル(左)は武田さんにとって「静」。カラフルな作品は「動」。この「静」と「動」を行き来することで、自分の中で良いバランスが取れているという Kaoru Uda/swissinfo.ch

まだ紙として出来上がっていない、水で濡れた状態の越前和紙にホースの水で文字を書いた「道」。武田さんが「今までおそらく誰もやったことがない技法」と話すこの白一色の作品が、2019年に開かれたアート見本市「アート・インターナショナル・チューリヒ」でスイス人アートディレクター、ペーター・ヴァリマンさんの目に留まり、今回の個展開催につながった。

書道作品
スイスでの個展開催につながった「道」 Kaoru Uda/swissinfo.ch

東と西のカリグラフィー

書道は、毛筆で文字を書く東洋の芸術だ。中国から漢字とともに日本に伝来し、平安時代(794年〜1192年)には仮名が生まれたことで日本式の書道が発展していった。

武田さんは「例えばAというアルファベットをいかに美しく書くかというような、形や色、バランスの美しさを追求するという意味では、西洋のカリグラフィーも書道も似ている。でも日本の書道にとって、いかに美しく書くかはほんの一部に過ぎない」と言う。

書道紙に向かって正座し、ゆっくりと墨をする。その墨液を毛筆に含ませ、集中して文字を書く。「大げさかもしれないけれど(自然界のあらゆる事象に霊魂が宿ると信じる)アニミズム、あるいは神道に通じるところがある。書道は精神統一のツールなんです。心が透明になり、自分という殻(から)が溶け森羅万象と一体化する。そんな感覚を僕は勝手に感じている」

漢字は山や森といった対象物の形から、あるいはさまざまなものの概念から記号化されて作られた文字だ。「例えば森なら、まず抽象的な絵画にして、それを記号化して今の漢字になった。僕は、その記号化された文字を筆でアーティスティックに書くことで、元の絵や概念に戻す作業をしている。そこがカリグラフィーとは違う」

「共鳴」を探して

武田さんは3歳から書道家の母の下で学んだ。大学を卒業後は通信大手NTTに就職したが、同僚の女性の名前を毛筆で書いて喜ばれたことをきっかけに3年で辞め、書道家の道へ。駆け出しの頃からストリートでの書道パフォーマンスを重ね、音楽家とのコラボレーションなど独自の創作活動でその名を世界に広めた。

「伝統を『型』とするなら現代の書道は『共鳴』」。それが武田さんの芸術観だ。「こっちの独りよがりで日本の伝統です、と言ったって相手に伝わらなかったら意味がない。感謝っていいね、愛っていいよねって、互いにコミュニケーションしながら一緒に共感、共鳴できるようなポイントをずっと探っている」と話す。

9月23日夜には招待客向けのイベントをチューリヒで開催。書道パフォーマンスでは集まってくれた人たちへの思いを込めて、「感謝」の文字を書き上げた。

デジタル化の時代に書道は生き残れるか

中国、日本では今も書道が広く浸透している。中国の書道は2009年に国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の無形文化遺産に指定外部リンクされた。日本では小学校で書写の授業が今も行われている。

とはいえ日本で、大人になっても書道を続ける人はほんの一握りだ。デジタル化の流れで、手で文字を書く機会も減っている。

だが武田さんは、それをポジティブに捉えている。「世界がどんどんスピード重視、効率化重視の時代になってきている中で、書道は墨をすって書くとか、すごく非効率なことをやる。墨の香り、筆の感触、無駄がいっぱいです。でも、集中してたった1文字を何枚も紙に書くという作業が、現代人にはすごく癒しになっているんです。先に先にっていう時代だからこそ、たった1本の線をど丁寧に描く。そういう書道の重要性が逆に増していると思う」

武田さんは、デジタルの真っ只中で生きる若者世代にこそ書道は響くと断言する。「急いだって、心が豊かになるわけじゃない。書道には頭の中にあるものをこの瞬間に閉じ込めるという、瞬間の美のようなものを感じさせてくれる。この瞬間すべてに答えがある、目の前のことに全てが詰まっている、っていう感覚が伝わったら、世界中の人々の心がリラックスして、もっと豊かな何かが生まれるんじゃないかな」

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