スイスの時計輸出額が2022年、初めて240億フランを突破した。米国や日本への輸出がけん引した。人手不足は深刻で、業界は技術者養成を急ぐ。
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スイス時計協会(FH)が24日発表した統計によると、2022年の時計輸出額は248億フラン(3兆5千億円)と、前年に比べ11.4%増。インフレや株価下落、仮想通貨の急落、経済の先行き不安といった逆風をものともしない業績をたたき出した。
時計の輸出先上位30カ国のうち28カ国で売上が増え、特に第1位の米国は26.3%と大きく伸びた。第4位の日本も19.5%増と順調だった。第2、第3位の中国(前年比13.6%減)と香港(同10.5%減)は振るわなかった。
フォントーベル銀行の時計業界アナリスト、ジャン・フィリップ・ベルチー氏は、「コロナ危機を脱した米国人の多くは、通常より多くの貯蓄を手にしていた。国内でも欧州などへの海外旅行でもスイス製時計を購入し、大きな押し上げ要因となった」と解説する。
中国の回復
2022年の世界の時計市場では、最高級価格帯の時計の売れ行きが最も良かった。輸出価格が3千フラン、小売価格が7500フラン(約105万円)を超える高級時計が輸出総額の全体の4分の3超を占めた。昨年は物価上昇率が上昇(スイスで2.8%、米国で6.5%)したものの、富裕層の懐はほとんど痛まなかったようだ。高級時計への投資は、株価や他の資産の下落リスクを回避する手段なのだ。
過去2年続いた好況は今年も続きそうだ。中国政府がゼロコロナ政策を転換し、ロックダウンを解除し海外旅行を解禁したことは、スイス時計メーカーにとって強力な追い風となる。
ベルチー氏は2023年は市場が安定し、輸出は1~3%の伸びに鈍化すると予想する。
「焦点が当たるのは中国市場で、成長を力強くけん引する。一方、エネルギー高騰に苦しむドイツやイギリス、イタリアなどの欧州市場は慎重にみている」
労働者は約半世紀ぶりの多さに
エネルギー価格の高騰はスイスの時計業界にとっても難題だ。鉄鋼や銅などの主要な原材料の価格も昨年、1~2割上昇した。
特に深刻なのが、今後数カ月は続きそうな人手不足だ。他の産業界と同じように、時計製造業界でも労働者の確保が難しくなっている。
世界的な時計の需要増加に対応するため、メーカーは昨年、3千人を追加採用した。現在の従事者数は6万人超と、1975年以来の多さに達している。
スイス時計産業雇用主連盟(CP)のルドヴィック・ヴォアラ事務局長は「時計メーカーはある意味、自身の成功の犠牲になっている。コロナ危機後にこれほど成長するとは予測できなかった。需要の急回復により、必要な労働力が爆発的に増えた」と述べた。
2026年までに4千人養成
スイス北西部に集中する主要な時計製造地域では、事実上人材は枯渇している。時計産業に多くの労働力を提供してきた隣国フランスでも同様だ。
労働力不足はこれまで、特定の高度技術職に限った問題だったが、現在ではあらゆる分野・レベルの資格に広がっている。
「時計業界では機械化が進んでいるが、最高級時計の製造には人間のノウハウが不可欠だ」(ヴォアラ氏)
スイス時計産業雇用主連盟は、2026年までに技術者だけでも4千人近く養成・採用する必要があると見積もる。職業訓練プロジェクトも多く立ち上がっているが、人手不足をすぐに埋めるのは難しい。
ヴォアラ氏は「時計業界では長年、ノウハウの伝承が重要だと認識されてきた。今は現代的で魅力的な労働条件を備え、熟練労働者をめぐる雇用者間の競争でも有利な立場にある」と語った。
編集:Virginie Mangin、英語からの翻訳:ムートゥ朋子
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