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3.11から7年 原発事故取材続けるおしどりマコ・ケンさん その原動力は

おしどりマコ・ケンさん
おしどりマコさん(右)、おしどりケンさん 漫才協会

2011年3月11日の東日本大震災から7年が経った。芸人のおしどりマコ・ケンさん外部リンクは、福島第一原発事故発生後から東京電力の会見に出席し、福島県にも足を運んで被災者の声を取材し続けている。4月8日には、日本人市民団体がチューリヒで開く震災7周年イベント外部リンクで講演する。ジャーナリストとして二人を突き動かす原動力は、何なのだろうか。

おしどりマコ・ケンさんは夫婦の芸人コンビ。マコさんは鳥取大学医学部生命科学科の出身(中退)。原発事故後の政府の「直ちに問題はない」発言に違和感を覚え、会見に出席するようになった。11年4月19日、会見で原発から上がる白煙について質問し、3カ月後、大気中に放出される放射性物質の数値を東電から引き出した。

福島県で取材した母親らの声を元に、子供たちの甲状腺被爆に関する問題も追及。東電会見取材は600回以上に上り、原発事故被害者の集団訴訟も追いかけている。マコさんが会見取材、執筆、ケンさんは写真撮影などを担当する。

東電会見で質問するマコさんの姿がドイツ人関係者の目に留まったのがきっかけで、14年に核戦争防止国際医師会議(IPPNW)外部リンクドイツ支部主催の国際会議に招かれ、マコさんが福島の現状について講演。その後もドイツを毎年訪れ、会議や学校で事故後の状況を伝えている。16年、第22回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞外部リンクを受賞した。

スイスインフォ:福島原発事故から7年経ち、被災地、そして日本はどのように変化したと感じますか。

おしどりマコ:地震の被災地は確かに復興が進んでいます。私は神戸の生まれで阪神・淡路大震災を経験しましたが、東北は阪神と同じ復興の勢いを感じます。一方、原発事故の被災地は全く違い、被災者だけが取り残されているように思えます。先月取材した福島県いわき市の母親にはこう言われました。「放射線汚染は目に見えなくてもずっと残る。11年からずっと津波が引いていないような気分だ」と。

記者も異動などでずいぶん減りました。東電会見は東京と福島で週に2回ありますが、昨年は、少ないときで私たちを除きたった3人。原発を巡る状況は変わっていないのに、被災地以外の人々や記者の関心が薄れていっていると感じます。

スイスインフォ:福島原発の現状はどうなっているのでしょうか。 

マコ:水の汚染が何年も解決しないままです。汚染水を増やさないようにするために(原発の地下を凍らせ、汚染水の原因の一つである地下水の流入を止める)凍土壁外部リンクが作られ、その効果の検証データが最近出たのですが(編集部注:東京電力は1日、凍土壁による高濃度汚染水発生量の低減効果が1日95トンと発表)、遮水能力が低いものであることが分かりました。ALPS外部リンク(アルプス、62種の放射性物質を除去できる多核種除去設備)で浄化した汚染水は敷地内のタンクに貯蔵されていますが、それももうすぐいっぱいになってしまいます。

原発に関しては、溶け落ちた燃料デブリ(溶融燃料)の撤去計画が全く進んでいません。取り出す方法を検討するために12年ごろから内部調査を繰り返していますが、燃料デブリが一体どこに、どのように溶け落ちているのか実態がまだ解明できていません。

スイスインフォ:甲状腺がんの問題はどうですか。福島県の「県民健康調査」検討委員会外部リンクは今月、事故発生時に18歳以下だった県民らを対象とする甲状腺検査で、昨年12月末までに甲状腺がんが確定した人は計160人、がんの疑いは計36人だったと公表しました。

マコ:県の数字と実際の数字には開きがあります。例えば検査で経過観察と判断され、その後別の医療機関で甲状腺がんが見つかり手術を受けた人は複数いますが、それは保険治療のため調査の「枠外」となり数に反映されません。そういう人がどれくらいいるのか公表するよう検討委が県に求めていますが、2019年の10月までかかると言われています。県からこういう情報がなかなか出てこないのです。

手術を受ける際に、県立医大より実績の良い東京や大阪の病院を選択する10~20代の女性も増えていますが、これも県の発表には反映されません。少なくとも甲状腺がんに関しては、県の数より実態は多いと思います。 

スイスインフォ:いま、最も問題だと感じていることは何ですか。

マコ:一般市民が、いまだにマスコミや誰かが言っている二次情報を鵜呑みにして、自分で考えようとしない。それがとても寂しいです。

ドイツの高校で福島原発の話をしたときに、一人の男子生徒から「原発の非常用電源は本当に津波で流されたのか」と聞かれ、すごく驚きました。なぜそう思うのか聞くと、「インターネットで英語版の事故調査報告書を読んだ後、非常用電源が停止した原因を地震と言ってしまうと、全国の原発の存在が問題になる。だからわざと地震より発生頻度の少ない津波のせいにしたのではないかと思った」と言うのです。彼らはメディアの情報に頼らず、自分で一次情報を探し、自分の頭で考え、判断しています。ドイツではそんな人がたくさんいました。

日本では、私たちのトークイベントに来てくれるような関心の高い人たちでさえ、事故調査報告書を読んだという参加者はほとんどいません。 

マコさん
ぴんと手を挙げて質問するのがマコさんのスタイル Ken Oshidori

スイスインフォ:二人を突き動かしてきた原動力は。

マコ:生活は楽ではないです。芸人の仕事の収入や支援金から取材経費を出していますが、お金がなくて自宅のガスが止められたことは何回もありました。それでも続けるのは自分が知りたいから。そして私のような「知りたがり」をもっともっと増やしたいからです。

私は原発はなくなった方が良いと思いますが、それを声高に叫ぼうとは思いません。誰かの意見やメディアの情報だけでみんなが「何となく原発は良くない」と思っているうちは、再生エネルギーに移行したって別の既得権益が生まれるだけです。再生エネルギーだって、メリット・デメリットをちゃんと調べて、判断しなければいけないんです。一人一人がちゃんと一次情報を自分で調べて、何が正しいかを考える、そういう知りたがりを100人、1千人単位で増やしていけば、どんな問題だって良い方向に進んでいくと思うんです。

そのために、例えば自治体への情報公開請求はどういう風に申請したらいいのか、また会議の傍聴や資料の探し方など、取材で培った経験をどんどんシェアしていきたいと思っています。

スイスインフォ:スイスでは福島原発事故後、複数回の国民投票を経て、2050年までに脱原発を目指すエネルギー戦略を決定しました。4月の講演ではどのようなことを伝えたいですか。

マコ:スイスでの講演は昨年、主催団体からフェイスブックを通じて依頼を頂き、引き受けさせてもらいました。スイスの脱原発政策は知りませんでしたが、国民投票で有権者が大事なことを決める制度はすごいと思います。

チェルノブイリ原発事故を調べていて感じたことですが、英語で出ている情報とロシア語やスラブ語で出ている情報は全然違う。福島原発事故も、事故調査報告書や政府の発表などは英語でも公表されていますが、それは一部の情報に過ぎません。私たちが現地に足を運んで取材したことを元に、市民の生活がどういう状況になっているのか、何が問題なのか、行政の広報からは浮かび上がってこない実態を伝えられたらと思います。

おしどりマコ・ケン

2003年9月に結成。正式なコンビ名は「おしどり」。横山ホットブラザーズ、横山マコトの弟子。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。社団法人漫才協会会員、落語協会会員。認定NPO法人沖縄・球美の里理事。フォトジャーナリズム誌「DAYS JAPAN」編集委員。

ケンさんは大阪市出身。パントマイムや針金アートを操る。自宅では料理担当で、みそも自分で作るほどのこだわり派。マコさんは神戸市出身。鳥取大医学部生命科学科を中退後、東西屋ちんどん通信社に入門。アコーディオン流しを経て芸人に。ツッコミ担当のマコさんのアコーディオン演奏に合わせてケンさんが針金アートを作ってボケる。

講演会はチューリヒ大の施設で午後3時から(同2時半開場)。入場無料。詳細は主催のスイスアジサイの会のホームページ外部リンクへ。

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