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BISの中銀総裁会議は密室で何を決めている?

Dollar bills on the printing press
主要中央銀行はこの数年、経済を下支えするために大量の紙幣を発行している Keystone / Lm Otero

スイス北部の町バーゼルの国際決済銀行(BIS)タワー(1970年代ば以降BIS本部)には、世界で影響力のある各国中央銀行の総裁が隔月で集結する。意見を交換し、個人的つながりを深め、世界中の通貨流通を維持するための技術的詳細を話し合う。

07~08年の金融危機以来、各国の中銀は何兆ドルという額の通貨を発行し存在感を発揮してきた。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)にも資金供給で対応した。

中央銀行総裁会議というこの謎めいた「プライベートクラブ」は、「国際協力を通して世界の通貨と金融の安定」を促進すると謳う。だが、1930年の設立以来密室で運営されていて、議論や会話の内容は一切公開されない。BISは法的に独立した領域を保証されており、その運営はスイスに帰属しない。そのためスイス当局は許可なくBIS内部に立ち入れず、BIS職員は免責特権や非課税所得の恩恵を享受する。

「不透明でエリート主義」

だが過去10年間で中銀の重要性が高まる中で、BISの変化を求める声が上がっている。

ジャーナリストで作家のアダム・レボー氏は、13年に出版した著書「Tower of Basel(仮題:バーゼルの塔)」で、「BISは21世紀にはそぐわない、不透明でエリート主義、非民主的な機関だ」と綴っている。「グローバル金融規制の未来を形作り、グッド・ガバナンス(良い統治)を呼びかけるが、自らは免責特権と法的保護の茂みの中にしっかりと隠されている」

ではなぜ秘密にする必要があるのか?元BIS職員で、現在はチューリヒでEFG銀行のチーフエコノミストを務めるシュテファン・ゲルラッハ氏は、「中銀総裁はそこでは自由に発言できる。自国の財務大臣や政治家への不満を漏らしても、それが外部にリークされる心配は一切ない」と話す。

「世界の金融セクターの舵取りをする超秘密組織だと思われているが、むしろ、中央銀行や規制当局が非公式かつ極秘会議を開くために銀行に併設した、会議場のようなものだ」と続ける。「BISは会議場やリサーチ資料を準備する職員を提供し、各国中銀のアセットを管理しているが、真の意味でBIS自体に人格はない」

BISには拘束力のある規制を制定する権限も意向もないが、中銀や規制当局はそこで金融安定化政策に合意して帰国し、自国での政策実施を目指して政府を説得する。BISタワーには、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)や金融安定理事会(FSB)など、金融システムのショック耐性を高める施策を策定する機関も置かれている。

そこでの議論が、例えば08年の金融危機後の新しい規制の枠組み、「バーゼルIII」につながった。同規制は、金融機関に対し高リスクの投資をカバーするために自己資本の強化を求めるものだ。

経済の救済

BISのアグスティン・カルステンス総支配人は、最近BIS本部で開かれた数少ない記者会見で、「我々の働きが、新型コロナのパンデミックによる新たな金融危機を回避する一助となった」と述べた。

中銀の発行する貨幣は、金融危機下で金融システムを浮揚させ、ギリシャやイタリア、米国に至るまで国家経済を救済するために使われた。また、低金利政策はロックダウン(都市封鎖)で減収に見舞われた企業の資金繰り難を和らげた。

各国中銀は自国の必要性に応じて独自に金融政策を決定するが、世界の資金流動性を確保するには、危機の際には特に協調を図ることが不可欠だ。中銀はまた、金融機関が相互信用を失った際の「最後の貸し手」としても機能する。国際金融の大半は米ドルで行われるため、米国の連邦準備制度理事会(FRB)はスイスを含む外国中銀と通貨スワップでドルを供給し、資金フローの停滞を防ぐ。

この調整プロセスは、バーゼルで各国中銀総裁が定期的に会合を持つことで円滑になる。

カルステンス氏は、「対立するよりも協力するほうが良い」と強調した。

だが一部の専門家は、貨幣が発行される規模に懸念を示している。経済状況が好転したときに、安全に元に戻せるのか?制御不能なインフレを引き起こすのではないか?最近の物価上昇を受け、そういった懸念が顕著になった。

制御可能なリスク

カルステンス氏は、「予期せぬ劇的なパンデミックに直面する中で、中央銀行が『成功しないリスクがあるため、我々は何の対策も取らない』と言えば、社会的にも政治的にも受け入れられなかったはずだ」と述べた。「我々は対処する必要があった。だからと言って我々が盲目的で軽率に行動するという意味ではない。容易ではなかった。将来はもっと難しくなるかもしれない。だが、我々が取ってきたリスクは制御可能なものだ」

だがこのような主張も全ての人を納得させるものではない。スイスフランのユーロ・ベッグ制を導入(のちに撤廃)し、さらに無制限の貨幣発行とマイナス金利の導入を約束して以来、SNBは常に批判の矢面に立たされている。

15年にSNBが突如発表したスイスフランの対ユーロ上限撤廃は市場を驚かせ、大混乱を引き起こし、中銀は自らの政策に責任を負うべきだという政界からの批判に新たな弾みをつけた。

だが、SNBに金融政策の変更や金保有量の拡大、信用創造を独占させる試みは、国民投票においてさえ失敗に終わっている。

スイスの「サクセスストーリー」

一方BISは、各国中銀を巡る国内議論に影響を受けることなく、円滑にその活動を続けている。今では63カ国・地域の中央銀行に加盟を拡大し、600人以上の職員を擁し香港とメキシコで2つの事務所を運営している。

BISは中央銀行の資産を管理することから、「中央銀行の銀行」という非公式の名称を持つ。昨年はその活動で約17億ドル(約1958億円)の収益を上げている。

また、金融界に関する徹底したリサーチで高い評価を得ており、世界各地に相次いでイノベーションハブを設立し、暗号通貨やグリーンファイナンスなど最新の金融イノベーションにも対応している。

ゲルラッハ氏は、「BISがロンドンやニューヨークに移転せず、バーゼルに留まっていることは注目に値する」と言う。「150年前に英国人がウィンターホリデーにスイスのホテルを利用するようになったのと同じように、これはスイスのサクセスストーリーだ」

国際決済銀行は1930年に、第一次世界大戦で敗戦したドイツの賠償金支払いを処理するための銀行としてバーゼルに設立された。

ドイツが経済的混乱に陥ったことで賠償は放棄され、BISは使命を遂行できなかった。

BISの幕開けはやや不幸なものだった。第二次世界大戦中ドイツの要求に柔軟だったとして、1944年に米国から解散を迫られた。

BISは1990年代半ばまで主に欧州を中心とした組織として存続し、新興国を含む他国中銀がより積極的な役割を果たすようになっていった。

BISは、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)、決済・市場インフラ委員会(CPMI)、グローバル金融システム委員会(CGFS)、市場委員会(MC)、中央銀行ガバナンスグループ、中央銀行統計のアーヴィング・フィッシャー委員会(IFC)などの各種委員会で構成される。

金融安定理事会(FSB)、国際預金保険協会(IADI)、保険監督者国際機構(IAIS)はBISから独立した組織だが、BISタワー内に本部を持つ。

(英語からの翻訳・由比かおり)

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