COP26で「野心的な戦略」求めるスイス、その説得力やいかに?
間もなく開催される国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で、スイスは地球温暖化を1.5度までに抑えるよう全参加国に働きかける方針だ。だが自国の改正CO₂法が国民投票で否決されたスイスは、他国に今以上の努力を求められる立場にあるのだろうか?
31日~11月12日の2週間、地球の人類の運命を左右する会議が行われる。スコットランド・グラスゴーで開かれるCOP26は、パリ協定に沿って気候危機に取り組む最後のチャンスと見る人は多い。2015年に採択された同協定は法的拘束力を持ち、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して「2度より充分低く抑え」、1.5度に抑える「努力」を追求することを目的とする。
目標達成には、30年までに世界の排出量を10年比で45%削減する必要がある。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の影響で経済活動が減速したため、温室効果ガスの排出量は一時的に抑制されたが、現在は再び増加に転じ、今後10年間で16%増加すると予測される。
100団体以上で構成される「スイス気候アライアンス」のディレクター、クリスチャン・リュティ氏は「もう時間を無駄にしている余裕はない」とswissinfo.chに語る。「何も行動を起こさずに年を追うごとに気候危機が悪化し、私たちの生活をますます脅かす危険性がある」
二重計上を防ぐためのスイスの重要な役割
今回のサミットでは、とりわけ世界最大の排出国である中国と米国に注目が集まるが、小国も議論に参加し一石を投じたい考えだ。
スイスはパリ協定が世界中で公平に実施されるよう、強力で統一されたルールを提唱する。COP26のスイスの主任交渉担当者フランツ・ペレス氏は「パリ協定は、実施に向けたルールを必要とする憲法のようなものだ」とし「意思決定が必要な分野はまだ残っている」と語る。
国際的な調整が必要な問題の1つに、パリ協定の第6条が規定する国際炭素市場の実施ルールがある。カーボンクレジットの有用性や実施方法については、各国で激しい議論が交わされている。カーボンクレジットを利用すれば、先進国は外国の太陽光発電といった環境問題の解決に貢献するプロジェクトへの資金提供を通し、排出量の一部を削減(オフセット)できる。カーボンオフセットと呼ばれるこの手法は、大いに物議を醸している。
同意が難航している項目の1つは、誰がカーボンフットプリントから排出量を削除してよいのかという問題だ。オフセットによって排出量を削減したと主張する国か、それとも実際にプロジェクトが行われた国か?計上を巡っては明確な基準がないため、排出量の削減が二重カウントされる恐れがある。
スイスは二重計上に反対の立場を取り、問題の「良い解決策」を模索中だ。これにはオフセットの方法に世界基準を設けることも含まれる。
スイスはCOP26で、これまでに諸外国と締結した一連の炭素クレジットに関する2国間協定を紹介する。昨年10月、スイスとペルーは世界で初めて排出量のオフセットに関する協定を締結し、2国間における公的機関と民間団体の協力体制の規範になるものとして評価された。その後数カ月間で、スイスはこの種のモデルを拡大。ガーナ、セネガル、ドミニカ共和国、グルジアなどのパートナー国とも協定を締結した。
「(ペルーとの協定は)二重計上を避けるガイドラインを2国が共同で定めた初の取引だ。また環境保全と人権尊重を保証し、排出削減策の追加・検証が可能な内容になっている」とペレス氏は言う。
各国の気候目標達成にタイムリミットを設けることも、COP参加者が合意すべき問題の1つだ。
スイスのシモネッタ・ソマルーガ環境大臣はサミットに向け、ルワンダのジャンヌダルク・ムジャワマリヤ環境大臣と解決策を検討中だ。
「スイスは、10年ごとではなく、5年ごとに新しい目標を提示する方針を打ち出している。この提案は欧州連合(EU)も支持している」とペレス氏は言う。
銀行と保険会社サイドの見解
スイスはまた、開発途上国における気候保護のための追加融資も支援する。富裕国は昨年、貧困国における気候変動の緩和と適応のために支援金1千億ドル(約11兆円)を約束したが、経済協力開発機構(OECD)によるとまだ185億フラン(約2兆3千億円)不足している。
サミットを前に各国が気候変動に関する自国の帳尻を合わせようと必死になる中、明るい兆しもある。米国は24年までに年間拠出額を114億ドルに倍増すると約束した。スイスも公的資金を3億4千万ドルから4億2500万ドルに引き上げると発表する予定だ。
気候変動対策における資金の流れの重要性は、グラスゴーに向かうスイス代表団の構成にも表れている。今回の代表団には、初めて銀行と保険会社の代表者が加わった。「持続可能な金融を上手く推進してくれると期待している。彼らのノウハウは自分の利益ではなく、世界の人々のために活用すべきだ」とスイス気候アライアンスのリュティ氏は述べた。
気候中立(実質排出ゼロ)の目標は中国にも適用
スイスは基本的に、1.5度の目標達成に向け、全ての国が自国の役割を果たすよう求める。「私たちはまだ、我々があるべき場所までたどり着いていない」とペレス氏は指摘する。
同氏は、大量のCO₂を排出している国々が自分たちの役割を果たしていないと考える。インド、ブラジル、サウジアラビアなど一部の国は、いまだパリ協定の実施方法を巡る具体的な長期戦略を提示していない。また中国は「数々の対策を取っているが、世界最大のCO₂排出国であることに変わりはなく、50年までに気候中立を達成することは不可欠だ」(ペレス氏)。中国は最近、冬場のエネルギー不足を解消するため新たな石炭火力発電所の建設に合意したばかりだ。
果たしてスイスは、これら主要課題の流れを変えるよう訴えかけられるだろうか?富裕国スイスは、1人当たりの二酸化炭素排出量が世界で最も多い国の1つだ。昨夏、スイスの有権者が国民投票で改正CO₂法を否決したことで、これまで掲げていた環境保護対策の多くが水の泡になった。脱炭素社会への野心がないスイスは、他国の政策に口をはさむ立場ではないのだ。
世界中がスイスと同じ道をたどれば、最大4度温暖化
気候科学と政策分析を照らし合わせ考察するNGO「クライメート・アナリティクス」は、スイスの気候に関する全体的な取り組みを「不十分」と批判する。独ベルリン拠点の同団体は今年7月の報告書で、もし世界中がスイスと同じような行動をとった場合、世界の気温は今世紀末までに3~4℃上昇すると予測している。
スイスも他の130以上の国々と同様、50年までに実質排出量ゼロ達成を約束している。これは排出量70~85%削減という従来の長期目標と比べて改善されてはいるが、30年までに排出量を半減するという短期目標は基本的に変わっていない。
改正CO₂法否決で失墜したスイスの信憑性
改正CO₂法は、30年の目標達成に向けたスイスの主要な政策手段だった。だが否決後の「次の手」を巡る問題は宙に浮いたままだ。
世界自然保護基金(WWF)スイスの気候・エネルギー専門家パトリック・ホーフシュテッター氏は「スイスが30年の目標をどのように達成するか、政府サイドには何も決定打がない。これはグラスゴーの会議を前に、好ましくない状況だ」と言う。
このジレンマに陥っているのは、スイスだけではない。EU加盟国の多くも、30年の目標達成の具体的な方法について未発表だ。
ペレス氏も、スイスが他のCOP参加国に多くを求める立場にないことを認めている。だが30年までに排出量を半減させ、50年までに気候中立を達成するという政府の目標には疑問の余地がないと言う。「これに関し、関係者とは再確認済みだ」(ペレス氏)
COP26の争点の中心はパリ協定の実施であり、各国の気候政策ではないと同氏は強調する。そして「この分野において、スイスは自国のいかなる信頼性も堅持する」とした。
(英語からの翻訳・シュミット一恵)
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