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EUの炭素国境調整措置、スイスへの影響は?

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スイスはスウェーデンに続き世界で2番目に高い炭素税を課す Keystone

欧州連合(EU)が今月、温室効果ガス削減に向けた政策パッケージをまとめた。脱炭素が進んでいない国からの輸入品に課税する「炭素国境調整措置」は、非加盟国のスイスにも一定の影響を与えそうだ。スイスは現在、二酸化炭素(CO₂)価格が世界で最も高い国の1つだ。

欧州委員会が14日提示した政策パッケージには、欧州企業が国際競争で不利を被らないよう、気候・環境基準の低い国からの輸入に関税を課すことが盛り込まれた。2023年からの導入を目指す。

欧州の気候変動対策の主要な手段の1つである調整措置は第一に、電気、コンクリート、鉄鋼など、排出量の多い業種からの輸入製品を対象とする。「炭素価格がEUよりも安い国への移転を防ぐために、国内生産と輸入品の間で炭素価格を均す必要がある」。CO₂税議論を主導したパスカル・ラミー元世界貿易機関(WTO)事務局長は、フランス語圏のスイス公共放送(RTS)でこう説明した。

調整措置は、企業がCO₂排出に対価を支払うEUの排出権取引制度(ETS)を免れるのを防止する。2005年に導入されたETSは汚染者負担の原則に基づき、電力、製造、民間航空業界で計1万社を超える企業が参画している。

スイス企業への影響は限定的

連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のフィリップ・タールマン教授(環境経済学)は、swissinfo.chの取材に「これは賢明で必要な措置だ」と述べた。

調整措置は主に中国などの環境基準が低い国を想定したもので、スイス企業にはほとんど影響しない。スイスは08年から、企業や個人による暖房用の化石エネルギー使用の削減を促すため、燃料(灯油と天然ガス)に課税している。20年からは排出量取引制度をETSに連結させている。

スイスの炭素価格はCO2 1トンあたり96フラン(約1万1500円)で、世界で最も高い国の1つだ。それでも排出量が思うほど減らないため、2022年に現行法で定められた最大値120フランへの値上げを予定している。

タールマン氏は「スイスの炭素価格がEUと同程度なら、EUはスイスとの競争で不利になることはない」と話す。「これはスイスの排出権取引制度に参画する一部のスイス企業にとっても同じだ」。EUの炭素価格は約50ドル(約5500円)だ。

ただスイスでは炭素税がかからない企業・業界にEUが課税する可能性は残る。スイスの企業には現在、税金を払わない代わりに排出量の削減に取り組むという選択肢もある。

連邦環境省のロビン・ポエル広報官は「スイスはEUの動向を注視している。炭素国境調整措置の実施に向け、EU委員会との最初の交渉会合が開かれた。これがスイスにどのような結果をもたらすかを見極めるのは時期尚早だ」と話す。

タールマン氏はスイスもEUと同様の調整措置を導入する必要があると指摘する。例えば中国製品がスイスを経由してEUに輸入されるのを防ぐためだ。

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効果的な対策?

炭素に値付けするには、排出権取引制度と炭素税の2つの方法があり、どちらを選択するかは国や業界によって異なる。世界銀行によると、EUとスイスの他にもカナダ、中国、メキシコ、南アフリカなど世界で数十カ国がどちらかまたは両方のモデルを採用する。

フィンランドは1990年、世界で初めて炭素税を導入した。スウェーデンは現在、1トンあたり137ドルと最も高い税率を課し、スイス(105ドル)が続く。

20年以上の歴史がある炭素税は、排出量の削減にどれだけ有用なのか?

タールマン氏によると、「課税される分野、すなわち暖房用の化石燃料に関しては、税は効果的であることが証明されている」。特にスイスの建設部門は最大の排出削減を達成しているという。「免税を希望する企業に排出量の削減を義務付けるため、製造業に対しても効果がある」

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タールマン氏は「一部の国は比較的税率が低いが、課税対象が幅広い。他の国は税率は高いが範囲はそれほど広くない。スイスは後者で、炭素税がカバーするのは排出量の4割程度だ」と説明する。スウェーデンは税率が世界で最も高いだけでなく、段階的に税率を引き上げたり課税対象を広げたりしているため、世界のモデルとみなされている。

EUの調整措置に対して批判がないわけではない。中国の習近平国家主席は、マクロン仏大統領とメルケル独首相が4月に開いたテレビ会談に対し、気候変動との闘いの名の下に建設された「貿易障壁」を非難し、反対を表明した。

(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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