経営破綻した暗号資産の交換業大手FTXが今年、ノイエ・プリバート・バンク(NPB、本社・チューリヒ)を買収しようとしたが、当局が異議を唱えたため断念していたことが分かった。
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NPB買収は、FTXの欧州事業成功に向けた起爆剤になるはずだった。
仮想通貨事業の世界大手FTXは11月に経営破綻。前最高経営責任者(CEO)のサム・バンクマン・フリード氏は大規模な詐欺やマネーロンダリング(資金洗浄)の罪でアメリカ当局から起訴されている。同氏は故意ではないと主張しているが、管理が不適切だったことは認めている。
swissinfo.chが入手した情報によると、スイスに本拠を置く「FTXヨーロッパ」はNPBを2500万フラン(約36億円)超で買収する準備を整えていた。買収は成立せず、NPBはこの事実を隠ぺいしようとしていた。
NPBのマルクス・ルッフナーCEOは「NPBは今年初めにFTXと協議したが、提携関係を結ぶには至らなかった」と話した。「NPBはいかなる暗号資産事業者とも提携したことはない。NPBの運用資産に仮想通貨はない」
買収案がつまずいたのは、スイスの金融市場監督機構(FINMA)がFTXグループの放漫経営に対し世界的な規制当局による監督の目が及ばないことに異議を唱えたためだ。情報筋によると、FTXヨーロッパは9月に買収案を白紙化し、代替手段の検討に着手した。
FTXグループはその数週間後、ずさんな資産管理や顧客に対する不正行為が取りざたされるなか、破綻申請に追い込まれた。その余波でFTXヨーロッパも経営危機に陥っている。
FINMAは書面による声明で、個別の事案についてはコメントしないと前置きしたうえで、「仮想通貨企業はスイスの銀行免許を取得したい他の企業と同じ基準を満たさなければならない」と述べた。
「所有者や提供するサービスに関係なく、資本、流動性、適切な事業行為、適切な組織およびリスク管理など、銀行免許の要件を満たさなければならない」と強調した。「仮想通貨企業の特別な条件や緩和はない」
急速な拡大計画
FTXは、株式やその他証券のトークン化を専門とする企業デジタル・アセッツを買収した後、今年2月に欧州支社をスイスに設置した。
FTXヨーロッパはキプロスで取引業者の営業許可(現在は失効中)を取得し、欧州・中東全体への急速な進出計画を打ち立てた。関係者によると、FTXヨーロッパは取引銀行が破綻した場合に顧客の資産が喪失するリスクを最小限に抑えるために、自前の銀行を持とうとしていた。
2001年にチューリヒに創立したNPBは買収対象として完璧に見えた。運用資産は18億フランと、手ごろな価格で買収できそうだったからだ。
NPBは2021年に銀行向け金融サービスのインコア・バンクと提携し、顧客にデジタル資産サービスを提供していた。
「暗号国家」
スイスは、仮想通貨やブロックチェーン業界で世界をリードする地位を保つべく不断の努力を続けている。
「クリプト(暗号)国家」を自認し、会社法・金融法を改正してデジタル通貨・証券の普及に努めている。FINMAは投資家保護とイノベーション促進の両立を図る使命を負っている。
FTXなど一部の仮想通貨企業は、巨大な金融中心地の厳しい規制を免れるため、オフショアで事業を営んでいた。だが仮想通貨の普及に伴い詐欺事件が続発し、規制当局からの圧力を受けてオンショアへの移転・営業許可を迫られている。
英語からの翻訳:ムートゥ朋子
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