昨年9月の同性婚合法化をめぐる国民投票の前に、LGBTに対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が増えた
Keystone / Salvatore Di Nolfi
スイスでは2021年、相談窓口に寄せられたLGBTQヘイトクライム(憎悪犯罪)の報告件数が5割増加した。報告件数が実態よりはるかに少ないことへの懸念から、ヘイトクライム被害の全国的な通報システムを求める声が再び高まっている。
このコンテンツが公開されたのは、
スイスレズビアン協会(LOS)、トランスジェンダーネットワーク・スイス(TGNS)、ピンククロスが17日に発表した最新のヘイトクライム報告書外部リンクによると、2021年のLGBTQへの偏見や敵意の感情に基づいたヘイトクライムの報告件数は、前年比5割増の92件だった。
報告された事案の半数近くは、同性婚を合法化する法改正案「全ての人に結婚の自由を」について国民投票の直前の4カ月のあいだに発生した。昨年9月のスイス国民投票では、有権者の3分の2近くが同性カップルに結婚と養子縁組の権利を認める改正案に賛成票を投じた。投票実施までの期間にヘイトクライムが増加したのは、LGBTQグループや支持者らの知名度が上がったことが原因の1つと考えられる。
報告者の約8割が侮辱や暴言を、約3割が身体的な暴力を受けた。身体的暴力件数は、前年の18%から増加した。また22歳未満の若年層、及びトランスジェンダーからの報告が目立って増えている。
報告書のデータは、2016年に立ち上がった「LGBT+ヘルプライン外部リンク」に基づいている。同ヘルプラインでは、オンラインフォームや電話、対面、メールで通報されたヘイトクライムを記録している。しかし擁護団体は、ヘイトクライムの被害を訴えない人の多さを考慮すると、データにある数字は氷山の一角に過ぎないと警告している。警察に通報のあったヘイトクライムは全体の2割に満たない。ヘイトクライムの通報制度は、これまでにチューリヒ市とフリブール州が開始した。
ピンククロスのロマン・ヘッグリ代表は「チューリヒ市のようにコミュニティーの存在が目立つ地域だけでなく、田舎でも未報告のケースが非常に多い」と話す。「全国的な報告システムがなければ実態を反映したデータを得られない。これは、LGBTの関連団体が長年追求してきた政治的な関心事だ」
擁護団体らは5月末に始まる次期国会で、LGBTQへのヘイトクライムに対する国家行動計画を策定するよう求めている。
(英語からの翻訳・大野瑠衣子)
おすすめの記事
スイス、PFASの規制強化を検討
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦政府は「永遠の化学物質」の異名を持つ有機フッ素化合物(PFAS)の規制強化に着手した。飲み水の上限値は来年から引き下げられる。
もっと読む スイス、PFASの規制強化を検討
おすすめの記事
ローザンヌ国際バレエコンクール 韓国高校生男子が優勝、安海さんが3位
このコンテンツが公開されたのは、
ローザンヌ国際バレエコンクールの最終選考が8日に行われ、韓国のパク・ユンジェさんが優勝。群馬出身の安海真之介さんが3位で入賞した。
もっと読む ローザンヌ国際バレエコンクール 韓国高校生男子が優勝、安海さんが3位
おすすめの記事
スイス検査・認証SGSが本社移転 ジュネーブからツークへ
このコンテンツが公開されたのは、
世界有数の試験・検査・認証機関であるスイスのSGSは、本社をジュネーブ州からツーク州に移転する。大手多国籍企業の移転は、ジュネーブ州の税収にも影響を及ぼしそうだ。
もっと読む スイス検査・認証SGSが本社移転 ジュネーブからツークへ
おすすめの記事
ローザンヌ国際バレエコンクール2025始まる 日本から13人出場
このコンテンツが公開されたのは、
スイス西部ローザンヌで2日、第53回ローザンヌ国際バレエコンクールが始まった。23カ国から集まった85人の若手ダンサーが8日の最終選考進出を目指し、さまざまな課題曲に挑戦する。
もっと読む ローザンヌ国際バレエコンクール2025始まる 日本から13人出場
おすすめの記事
スイス政府、国際養子縁組を禁止へ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦政府は29日、国外から子どもを迎える国際養子縁組を将来的に禁止する意向を表明した。虐待防止措置の一環としている。
もっと読む スイス政府、国際養子縁組を禁止へ
おすすめの記事
スイス、全てのカップルへの精子・卵子提供を合法化へ 政府方針
このコンテンツが公開されたのは、
スイス政府は29日、生殖補助医療法を改正し、カップルに対する卵子提供を合法化する方針を発表した。政府はまた既婚・未婚問わず全てのカップルへの精子・卵子提供を解禁する意向を示した。
もっと読む スイス、全てのカップルへの精子・卵子提供を合法化へ 政府方針
おすすめの記事
スイスに感染症情報解析センター発足
このコンテンツが公開されたのは、
感染症に関する情報を収集・解析する「病原体バイオインフォマティクスセンター(CPB)」が23日、スイスの首都ベルンに新設された。集約したゲノムデータを管理・解析し、スイスの感染対策を改善する役割を担う。
もっと読む スイスに感染症情報解析センター発足
おすすめの記事
ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)は10日、電気を使わない除湿器を開発したと発表した。壁や天井の建築材として、空気中の湿気を吸収し一時的に蓄えることができる。
もっと読む ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
おすすめの記事
スイスでX離れ進む
このコンテンツが公開されたのは、
スイスで「X」から撤退を表明する企業や著名人が相次いでいる。
もっと読む スイスでX離れ進む
おすすめの記事
スイスの研究者、キノコで発電する電池を開発
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの研究者たちが、キノコで発電する電池を開発した。農業や環境研究に使われるセンサーに電力を供給できるという。
もっと読む スイスの研究者、キノコで発電する電池を開発
続きを読む
おすすめの記事
スイスで同性婚合法化可決、レインボーファミリーはどう受け止めた?
このコンテンツが公開されたのは、
スイスでは昨年末、同性婚の合法化案が議会で可決された。レズビアンカップルのリーヒティさん一家は、全ての人に等しく結婚の権利が与えられ、幸せな生活を営める社会が来ることを願っている。
もっと読む スイスで同性婚合法化可決、レインボーファミリーはどう受け止めた?
おすすめの記事
同性婚合法化、国民投票で決めるのは「侮辱」?
このコンテンツが公開されたのは、
スイスでは26日、同性婚を法律的に認めるかどうかを巡って国民投票が行われる。マイノリティーの権利を多数決で決めることに、問題はないのか?
もっと読む 同性婚合法化、国民投票で決めるのは「侮辱」?
おすすめの記事
ジェンダー平等、実現のカギは民主主義
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの国民投票で同性婚の合法化が賛成大多数で可決されたことで、直接民主主義がジェンダー平等を促進できることが示された。しかし、世界に目を向けると、これは過去も現在もそれほど当たり前ではないことが分かる。
もっと読む ジェンダー平等、実現のカギは民主主義
おすすめの記事
ホモフォビア違法化は言論の自由の侵害か
このコンテンツが公開されたのは、
同性愛者差別を今なお容認し続けるべきか。スイスでは2020年2月9日、この問いに対し有権者が判断を下す。ホモフォビア(同性愛嫌悪)を刑事罰の対象とする法案を「言論の自由の侵害」だとして、超保守派グループがレファレンダムを提出したためだ。LGBTIQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー。インターセックス、クィア)コミュニティーはこれに抵抗している。
もっと読む ホモフォビア違法化は言論の自由の侵害か
おすすめの記事
オードリー・タン氏「SNSは国を簡単に無視できる」
このコンテンツが公開されたのは、
世界中の民主国家がインターネットのもたらす課題に取り組む中、台湾の民主制度ではデジタルツールが浸透している。台湾は既に解決策を見出したのだろうか?オードリー・タン(唐鳳)IT担当相にインタビューした。
もっと読む オードリー・タン氏「SNSは国を簡単に無視できる」
おすすめの記事
プロパガンダから反戦運動まで スイスの露語メディア
このコンテンツが公開されたのは、
スイスにはロシア語メディアがわずかだが存在する。彼らはロシアのウクライナ侵攻をどう報じているだろうか?調査からある実態が見えてきた。
もっと読む プロパガンダから反戦運動まで スイスの露語メディア
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。