コロナ危機でスイスは戦後最悪の不況になるのか
今年のスイス国内総生産(GDP)は少なくともマイナス6%に落ち込むと予想されている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行第2波に見舞われれば、戦後最悪の不況に陥る可能性がある。
コロナ危機により、スイス経済は1~3月期に早くもダメージが表れ、実質GDPは前期比2.6%減に落ち込んだ。だがロックダウン(都市封鎖)が始まったのは3月中旬で、4月下旬から段階的に解除、6月初旬にほぼ正常化された。4~6月もマイナス成長になる公算が大きい。
スイス連邦経済管轄庁(SECO)は2020年通年ではGDPがマイナス6.2%、失業率は3.8%(2019年は2.3%)になると予想する。スイス連邦工科大学チューリヒ校景気調査機関(KOF)はやや楽観的で、GDPはマイナス5.1%を見込む。
連邦・州政府は計600億フラン(6兆7千億円)を超える経済対策を講じ、20年後半や21年の回復を支える。だがそれには国内にコロナ第2波がこないこと、主な輸出相手国であるEUや米国、アジアの経済がいち早く立ち直ることが不可欠だ。
そうでなければ、20年のGPDは7%以上落ち込む可能性がある、とSECOはみる。第二次世界大戦以来最大のマイナス幅だ。
この数十年にスイスを襲った経済危機には以下のものがある。
石油危機
20年にわたる経済成長と人口増加の後、1970年代にスイスは世界危機の影響を大きく受けた。政治・エネルギー紛争を機に、ほぼ一夜にして石油価格が急騰した。構造的要素にも波及し、スイスは多くの欧州諸国と同じく第2次産業、特に重工業が衰退し、サービス産業の比重が急速に高まった。
1975年のスイスGDPはマイナス6.7%を記録し、戦後最大の落ち込みとなった。就業者数は10%以上減ったが、失業率は1%未満にとどまった。強制加入の失業保険がなかったため、数十万人の外国労働者がスイスを離れざるをえなくなった。
長期不況
1980年代の持続的成長と完全雇用を経て、90年代は「長期不況」の時代となった。GDPは急落こそしなかったが、マイナス0.9%と0.5%の間でウロウロする年が続いた。失業率は一時5.7%と、戦後最悪になった。不動産市場が崩壊し、銀行は数千もの不動産と400億フランにのぼる不良債権を回収しなければならなくなった。
米同時多発テロ事件
2001年9月11日、ニューヨークで起こったテロ事件は世界経済に衝撃を与え、投資家は深刻な先行き不安に直面した。スイスは直接の影響は小さかったが、その後2年は低成長にとどまった。2001~03年で失業率は1.5%から4.3%に上昇した。景気回復を促すため、スイス国立銀行(SNB)を含む各国中央銀行が相次いで金利を引き下げた。今日まで続く低金利時代の始まりだ。
世界金融危機
米国では、連邦準備制度理事会(FRB)の低金利政策が不動産バブルをもたらし、2007年に崩壊した。資力のない個人向けの不動産ローン、サブプライムローンの焦げ付き問題は、その後数年にわたり世界的な金融危機をもたらした。スイスは国内最大の銀行UBSを救済するため、政府とSNBが介入した。
2009年のGDPはマイナス2.2%に急落した。だがスイスは他の欧州諸国に比べ金融危機からの回復は早かった。為替相場に関しては早すぎたといっていいかもしれない。スイス経済の強さはユーロに対するフランの価値を押し上げ、国内の輸出企業の重荷となった。10年以上たった今でも、SNBは対ユーロのフラン高騰を抑えるため悪戦苦闘している。
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(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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