さらば憧れの外国暮らし
ロッティ・プフィルさんの夢は破れた。コロナ危機の影響で、5年にわたるドイツ暮らしを諦め、2021年2月に祖国スイスに戻ることにした。帰国に当たっての思いを日記につづった。
「9月に入って、待ちに待ったスイスからのお客様がやってきた。息子は身の回りに起こったたくさんのニュースを聞かせてくれた。来年の春、スイス中央部にある観光地のレストランの後を継ぐかもしれないんだとか。息子が帰ってしまった後、私は激しいホームシックによる発作を初めて味わった。
苦しい発作のように、心臓はバクバク、息はゼイゼイした。これまで経験したことがなかった。誰かとお別れすると少し憂うつになることはたまにあったけれど、こんなに激しいのは初めて。初めての土地でも人と接することのできないコロナ禍で、故郷への思いは今までにないほど強くなっている。
外国暮らしの夢が破れ去った自分を認めようともがいていた。生まれながらの起業家ではないと認めようと。本当はクリエイティブな人間で、実現させたい素敵なアイデアがたくさんあった。でも新しいものを創る気力もなくなってしまったことを受け入れなければ。認めるのは簡単なことではなかった」
障害物はどこに?
「最初、この道のりはとりとめがないと感じた。それは落ちたばかりの葉っぱで道が埋もれた秋の森を散歩するようだった。どこに障害物が隠れているか、危険を察知しなければならない。この道は歩くことも走ることもせず、とにかく慎重に、気を付けて進むだけ」
最低水準の生活っていったいどんなものなんだろう?
「今、人生の新しい一節が私を待っている。出戻りとして、小さな奇跡でも起こらない限り生活保護受給者として。最低水準の生活っていったいどんなものなんだろう?
持ち物は少なくても、生活の質は格段に上がる。そう確信している。今は頭の中がぐるぐる回っていて、いろいろな考えが頭の中を駆け巡る。スイスではキッチンとバスルーム、リビングと寝室しかない。持ち物を減らさないと」
断捨離
「何十年も前から持っていた本たち。とても大切だけどお別れしなくては。家計も切り詰めている。フライパンや鍋、12人分もの食器やカトラリーをどうしよう?流行りのように、持ち物を100個に限定したいわけじゃない。でも、『少ない方が豊か』とよく言われるし、軽いリュックは楽しみでさえある。これらを手放し、泣かずに宝物とお別れできた自分に少し誇らしささえ感じる」
「でも宝箱だけは整理しないままスイスに持ち帰ることになった。私の宝箱だけど、私の子供たちのためのもの。中には家族写真や子供の誕生のお知らせや洗礼のろうそく、毎年のサミクラウス(訳注:12月6日に子供たちを訪れる聖ニコラウス)用のメモのコピー。これから私のものも入れよう。私の移住の思い出を。
スイスに持ち帰れる素敵なものとは?
スイスに持ち帰れる素敵なものとは?それはボーダーコリーの雌犬、キウマ。2016年夏に飼い始めた。キウマなしでは、在外スイス人としてこのコロナ禍を乗り越えられなかっただろう。キウマの古くなったネームプレートや良い写真、私の良い体験を宝箱に入れよう」
クリスマス気分は乏しく
「クリスマスは目前。少なくともカレンダーやラジオから流れるクリスマスヒットソングによるとそのはず。でも私のクリスマスグッズ用品は地下の倉庫に置きっぱなしで、その存在感もない。今も。窓に星を描き、玄関の外に大きな木製の星と天使を飾ったくらい。天使の持つろうそくに毎晩灯りを灯す」
「待降節の毎日曜日、親切なお隣さんがお茶に招いてくれた。とてもありがたかったし、少しでもクリスマスの雰囲気を味わえた。何より、この時期にいくらか寂しい思いをせずに済んだ。
内面的には、今年私にクリスマスは来ない。スイスの家族や友達のところには行かないし、スイスの誰も私を訪ねはしない。ここオーバープファルツでは1人のスイス人女性を除いて周りの人とほとんど接触がない。
彼女とは犬の散歩で知り合った。クリスマスイブには美味しいリゾットと上等の赤ワインで一緒にお祝いするつもり。小さな希望の光」
夢に見た外国暮らし、コロナで断念
この記事は2020年11月27日のドイツ語配信記事を翻訳したものです。コロナ禍でスイスに本帰国せざるを得なかった在外スイス人は多く、ロッティ・プフィルさん(60)はその1人。
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(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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