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WEFは脱グローバル化を止められるか?

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2020年の世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)の会場外で気候ストライキを行ったグレタ・トゥンベリ氏。招待を受けた数少ない若者の1人として会議にも出席した Keystone / Gian Ehrenzeller

世界経済秩序に対する世界経済フォーラム(WEF)の考え方に反発する勢力が台頭している。これは我々が知るWEFの最期を意味するのか。

22日にスイスの保養地ダボスで始まるWEFの年次総会(ダボス会議)。ここに集まる政治・経済界のリーダーらは、対面式では最後となった一昨年1月の会議と異なる風景を目の当たりにする。今回の会議は例年通りの冬ではなく、春本番の時期に開催される。この時期のスイスは温暖な気候に包まれるが、ロシアによるウクライナへの大規模侵攻が「History at a Turning Point(歴史的転換点)」をテーマにした今会合に暗い影を落とす。

WEFのボルゲ・ブレンデ総裁は18日の記者会見で「今回の年次総会は、ここ数十年で最も複雑な地政学的・地理経済的状況に直面している」と発言。「我々は、影響と結果にさらに焦点を当てなければならないだろう」と述べた。

今年のダボス会議は、例年通りとはいかない。ロシアの企業や政治家の幹部は招待されなかった。代わりにウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がオンライン演説するほか、代表団を派遣する。2大都市が新型コロナウイルス感染症によるロックダウン(都市封鎖)下の中国は、気候変動に関する代表団派遣にとどまる。米国からはジョン・ケリー気候変動問題担当大統領特使と、元副大統領で環境活動家のアル・ゴア氏が出席する。世界最大級の経済大国が、国家元首とまではいかないまでも、少なくとも政府高官からなる大規模な代表団を派遣していた頃とは対照的だ。

こうした要人の少なさはダボス会議のプログラムに穴を開けるだけにとどまらない。アナリストやオブザーバーは、WEFと現実世界の間に大きな隔たりが生まれていることの表れだ、と指摘する。ダボスに「地球市民」が集い、地球規模の問題について話し合うどころか、各国とも自国の片隅に引きこもっている――。この傾向は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)やロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けた経済の落ち込みという、前回のダボス会議では誰も予期しなかった事態によって一層強まった。

ローザンヌにあるビジネススクールIMDの政治経済専門家デビッド・バッハ氏は「これは全く異なる世界だ」と語る。「国際政治や世界経済だけでなく、ビジネス戦略にも大きな影響を与える競合ブロック・地域の1つなのだ」

グローバル化の担い手

WEFが発足した1970年代は、冷戦によって世界がイデオロギーで分断されていた時代だ。そのような中、「ダボス精神」とWEFが表現する「複数の利害関係者の参加、協力、和やかな交流というコンセプト」に基づいたダボス会議は、対立する世界観を1つにまとめる唯一無二の場となった。

自由経済秩序が主流となるにつれ、WEFは80~90年代のグローバル化を定義づける自由貿易と経済性の象徴となった。その結果、2000年代初頭まで経済は大きく発展し、さらに中国や旧ソ連諸国が世界経済に組み込まれたことで、多くの人が貧困から抜け出すことが可能となった。

だが、チューリヒ大学のデビッド・ドルン教授(グローバリゼーション、労働市場)は「中国が国際貿易システムに参加したときに見られたような、大規模な世界貿易のグローバル化は、10年ほど前からほぼ頭打ちになっている」と指摘する。

グローバル化の成果に対する熱狂が落ち着くにつれ、今度は反発が高まってきた。貧富の差の拡大は恨みと怒りを生んだ。アウトソーシングは労働者の権利保護がほとんどない場所における労働力の搾取につながった。高速・複雑化したサプライチェーンは取り返しのつかない環境破壊を引き起こした。今世紀の初め頃に発生した、WEFやその参加者に対する暴力的な抗議活動は、グローバル化がもたらす問題の象徴となった。

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WEFは、最高経営責任者(CEO)らのメンバーの中にNGOの代表者を加え、反対意見を内部に引き入れることで、長年の懸案事項に対処しようと努めてきた。ドバイやケープタウン、天津など、世界の他の地域でもイベントを開催した。食料危機の回避、現代版奴隷制の撲滅、気候変動への取り組みに焦点を当てたセッションを行い、資本主義の考え方をより包括的かつ社会問題の解決に貢献するビジネスへと再構築した。

さらに、WEFは大衆がアクセスできるオープンフォーラムを設け、少なくともダボス会議に出席可能な人々が問題解決に向けた議論に参加できるようにした。

その一方で、サプライチェーンは技術の飛躍的な進歩を糧により広大かつ複雑化し、経済は相互的に結びつきを強め、依存度を高めてきた。

世界を縦横無尽に駆け巡るグローバル企業の力が強くなるにつれ、政府は弱体化していった。政治学者のサミュエル・ハンチントン氏は「Denationalisation of the American Elite(米国人エリートの無国籍化)」をテーマにした2004年の論文で、国民はグローバルな消費者に取って代わられたと指摘した。同氏が「ダボス・メン」、「ゴールドカラー労働者」、「コスモクラッツ」と表した、グローバルなつながりによって力を得た新興階級が問題視された。

グローバル化への反発は収まらず、ポピュリストやナショナリストの主張に根ざした反対運動が起こった。

ジュネーブ国際開発高等研究所の元副学長で、スイス・米国籍の政治学者ダニエル・ワーナー氏は「ウォール街やハリウッド、コスモポリタンのエリートの一部が統治しているような感覚があった。ドナルド・トランプ氏やフランスのマリーヌ・ルペン氏のようなリーダーたちは、国民が置き去りにされているように感じていることを見抜いた」と話す。

限界点

こうした反対運動は、これから起こることに比べれば軽いものだった。ウクライナにおける戦争と新型コロナのパンデミックといった危機は、世界経済秩序に対するWEFの見方に疑問を投げかけた。

前回、各界のリーダーがダボスに集まった時は、世界保健機関(WHO)がコロナウイルスの流行をパンデミックと宣言するわずか1カ月前のことで、会議場では中国・武漢で起こった健康危機についてささやかれるだけだった。パンデミックはその後、ほぼ全世界の人々の生活に大きな影響を与え、WEFも2年連続で例年冬に開くダボスでの会議を中止せざるを得なくなった。世界的な出来事によってダボス会議が中止に追い込まれたのは、50年以上にわたるWEFの歴史の中で初めてのことだった。

1月に行われたオンライン形式の会議「ダボス・アジェンダ」では、ロシアによるウクライナ侵攻の可能性はまだ低いと思われていた。状況の急激な変化に伴い、WEFは2022年のダボス会議のテーマを「Working Together, Restoring Trust(信頼を取り戻すために一致協力を)」から「History at a Turning Point:Government Policies and Business Strategies(歴史的転換点における、政策とビジネス戦略のゆくえ)」に変更した。

ワーナー氏は「私たちが見ているのは、逆グローバル化だ」と話す。「フランスの黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)運動からある一定のところ(ロシアのウラジーミル・プーチン大統領など)まで、特定の国において攻撃的なナショナリズムが復活しているのが見て取れる。人々はますます置き去りにされたと感じ、グローバル化に対して何の感情も抱かなくなってしまった」

医薬品や小麦、石油といった生活必需品の供給が滞り、元々あった不平等はさらに深刻化している。新型コロナワクチンや治療薬は世界で共有すると宣言されていたにもかかわらず、各国はワクチンの買い占めに走った。これに苦しめられたのは億万長者ではない。入手可能な価格でワクチンや治療法にアクセスしようとしていた何百万もの人々だった。

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ウクライナにおける戦争が始まって以来、世界最大規模の穀物輸出国の2カ国が、制裁と戦闘で不安定な状態に陥っている。世界食糧計画(WFP)は、戦争と食糧・燃料価格への影響で、4700万人が飢餓の危機にさらされると試算する。

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これらの危機と気候変動に直面した結果、多くの国々は内向きの姿勢に転換。国内の供給と人々を守るため、国内産業の保護や輸出禁止措置を講じた。

バッハ氏は「自由貿易の歴史と同じく、グローバル化の歴史は統合や開放の拡大に賛成する人々と反対する人々の綱引きのようなものだった」と話す。「今、脱グローバル化を求める勢力が明らかに強くなっているのは、彼らが単なるデマゴーグやポピュリストではないからだ。パンデミックが、そして今戦争がもたらしたサプライチェーンの混乱は、まさに現実のものだ」

グローバル化の勝者が抱く疑念

グローバル化の勝者である多国籍企業でさえ、グローバル化のシナリオと相反していることに気がついている。こうした企業は、地政学的に世界が複数の主要貿易圏に分断されつつある中で、従業員や顧客、政府、さらには自社の株主から、どちらの側につくべきかという圧力にさらされている。

「多国籍企業が何の疑問もなくX国やY国へ行けるという時代はもう終わった」とワーナー氏は話す。ロシアや中国のように、ビジネスを行う上で大きな代償を払わなければならないケースは今後増えるだろう。スイスの製薬会社ロシュのクリストフ・フランツ取締役会議長はswissinfo.chに対し、価値創造のローカル化が進んでおり、企業はグローバル化のリスクをより明確に捉えた上で、「今後はサプライチェーンの安全性に対して異なる価値を見出す」ようになると予想している、と述べた。

企業経営者にとって、制裁措置やサプライチェーンの混乱は大きな懸念材料だ。これらは過去数十年にわたりビジネスの意思決定の指針となってきた多くの基本的な前提条件に疑問を投げかけた。企業は世界第2位の経済大国で事業展開するため、中国を欧米諸国から切り離し、自給自足を行い、中国中心の経済秩序を構築するという習近平国家主席の計画に沿うことが一層求められる。

バッハ氏は「多くの政策立案者や一部のビジネスリーダーは政治的に都合がよいから、あるいは経済的に有利だからという理由で、脱グローバル化の側に立っている」と話す。

世界中の多くの人々は、新たな枠組みによるストーリーを望んでいる。これは、脱グローバル主義者だけの意見ではない。中国のような国々は世界の仕組みの再構築を望んでいる。世界中に顧客や従業員を有する企業も新たなストーリーを求めている。

ワーナー氏は「地球村のイメージはもうない」と指摘する。「企業や政治家を結集させるというこの理念は、多くの人からエリート主義的と見られ、この人たちなら問題を解決したり、平和を実現したりできるとの考えには疑問符が付いている」と語る。

転換期を迎えたダボス会議

ダボス精神が揺らぐ中、WEFはグローバル化の問題を解決できるのか。

バーゼル統治研究所のグレッタ・フェンナー所長は「WEFは実に価値あるものを提供している。だがWEFがもし、大半の一般人が理解できないような排他的な超富裕層クラブであり続け、諸問題の責任は自分たちにはないと考えるのならば、支持は減る一方だろう」と話す。

同氏はまた「口では何とでも言えるが、測定可能な行動はどこにあるのか、WEFの場でリーダーたちが出した声明や公約に対する説明責任はどこにあるのか」と疑問を投げかける。

より包括的になるべきだとの主張がある一方で、WEFの会員になるには年間最大60万ドルかかり、年次総会は招待客だけ、しかも厳重な警備のもとで行われることに変わりはない。経営者らは気候変動の抑制を誓いながら、自家用ジェットでやって来る。重要な会議の多くはオフレコかつ非公開で行われ、階級ごとに色分けされたバッジもいまだに残る。

だが今回は著名人や権力者が注目されない分、多様な声や視点がより多く取り上げられる機会になるかもしれない。ギリシャは、ダボス会議に初めてギリシャ・ハウスを設置すると発表。インドもWEFウィークに先立ち、複数のイベントを展開している。アフリカ大陸からは、過去最多の代表者が参加。7人の国家元首ほか数多くの閣僚が参加する見込みだ。

バッハ氏は「世界が様々な面で苦境に立たされているのならば、何人かの人を集めて問題に向き合わせるというのは、良いアイディアだと思う」と話す。

「だからといって、人類が直面する最も喫緊の課題の解決策が得られると大きな期待をしているわけではない。しかし、直接会って議論をする場はあると思う…(そして)WEFに馴染みのある参加者が一丸となって協力すれば、変化をもたらすことができると考えている」(バッハ氏)

(英語からの翻訳・平野ゆうや)

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