重度のやけど治療に光 スイス企業が画期的な皮膚生成マシン開発
世界中で毎年、1100万人以上が重度のやけどを負う。その治療の希望となる機械をスイスの企業が開発している。患者の健康な皮膚片から、広範囲に移植可能な皮膚を生成する画期的な技術だ。
「人工皮膚ではないが、完全に自然な皮膚でもない」。denovoCastを開発したCUTISS外部リンクの共同設立者兼ディレクター、ダニエラ・マリノ氏はそう語る。同社は2017年、チューリヒ大学子供病院に設立。マリノ氏は「正確に言えば、バイオエンジニアリングで作られた皮膚組織に相当するものだ」と説明する。
やけど患者の健康な皮膚を少量採り、実験室で皮膚(肌)の細胞を「成長」させ、ヒドロゲルと組み合わせて、新しい皮膚を作る。出来上がった「denovoSkin」の厚さは1ミリメートル。平均的な自然の真皮・表皮と同じだ。
切手程度の大きさの試料で、ランチョンマットサイズの皮膚ができる。それが従来の技術に比べ大きく優れた点だという。
ラボから市場へ
DenovoSkinは、かなり前に実験室での試作段階を終えた。現在、第2相試験の終盤に入っている。スイス、欧州連合(EU)、米国では、denovoSkinを「希少疾病用医薬品」に指定している。
また同社によれば、生命に関わる疾患などを有する患者の救済を目的に、限定的に見承認でも使用が認められる「コンパッショネート・ユース(人道的使用)」の適用を受けている。大やけどを負った患者の中には、体の広範囲にdenovoSkinを移植して効果を上げている事例もある。
今後の第3相試験では、多くの患者でその効果を証明する必要がある。マリノ氏は、市場参入は「順調に行ったとして、早くても2023年」と話す。
マリノ氏は「現時点では、元のサンプルの表面積を100倍にできる。これを最終的には500倍にすることを目指す」と話す。従来の方法では、健康な皮膚の一部を移植しても皮膚は表面積の9倍までしか伸ばせない。これでは(熱傷面積が)50%、60%、70%、またはそれ以上の場合、すぐに問題が生じてしまう。
富裕層のためのもの?
ハイテクを駆使し、未来型と言っても過言ではないdenovoSkinは、富裕層だけのものになるのだろうか。
マリノ氏は「それは最初から考えていたことだ。南方の国では、悲しいことに戦争の影響で、やけどに関連する事例が多いことがはっきりしている。現時点では無菌室で、専門の技術者と全て手作業で生産している。それは多額の費用が掛かる。しかし、この機械を使えば、価格を大幅に下げることができ、発展途上国でも手の届く治療方法になる」
DenovoCastは、ヌーシャテル拠点の民間非営利研究・技術組織CSEMと共同開発した。人の手を介さない完全なクローズド・プロセスで、一度に複数の移植片を作ることができる。開発者は、この機械なら生産スピードが30%以上早まり、安定した品質も保証できると見込む。
欧州・米国だけでも、重度のやけど治療で20億ドル(約2230億円)以上、やけど跡の修復で50億ドル以上の市場がある。CUTISSはここに参入する準備が整っているようだ。だが、従業員40人未満の同社にとって、この市場規模はいささか大きすぎやしないだろうか。
マリノ氏は「欧州には、重度のやけど治療の優れた研究拠点が20カ所ある」と話す。「まずはこれらの機関と協働するところから始め、いずれは独力で行う。もちろん、その後はパートナーを見つける必要がある」
スイス製
立ち上げ段階では、スイスのイノベーション促進機関InnoSuisseや、EUのHorizon 2020プログラムの支援を受けた。しかし、スイスは最近、こうした協力関係促進を目指すEUとの枠組み条約交渉を打ち切った。
マリノ氏は「政治に巻き込まれたくない」と話す一方で、この問題が解決されることを願っている。なぜなら、スイスとEU間の規制が強化されれば、輸出入取引を始めCUTISSの事業に影響を与えかねないからだ。
マリノ氏は「このプロジェクトは2001年、ここで始まった。今も今後も『スイス製』であることは変わらない」と話している。
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