ウクライナのデジタル復興計画 スイス・ルガーノでお披露目
ウクライナの再建には、国家機関のデジタル化も必要だ。これは同国のデジタル変革担当相を務めるミハイロ・フェドロフ氏がスイス・ルガーノで開催されたウクライナ復興会議で放ったメッセージだ。
先進各国ではデジタル化が流行語のように政治家にもてはやされている。ロシアのウクライナ侵攻も、サイバー攻撃や軍事技術などデジタル技術が戦争でどのように使われうるかを示した。
侵攻が始まった時、多くの人がウクライナ政府の崩壊を予想したが、4カ月経った今も政府は機能している。「そして戦争下でも行政のデジタル化を進めている」。外遊としては侵略開始以来最多の議員団が参加したスイス・ルガーノの復興会議でフェドロフ氏はウクライナのデジタル計画が直面する課題について講演し、そう強調した。フェドロフ氏の講演はテンポが良く楽観的で、マルチメディアが駆使されていた。戦争開始以来、同氏はこうした手法で発信を続け、プロパガンダ合戦で少なくとも西側諸国の支持を勝ち取っている。
ウクライナのデジタル化推進力
フェドロフ氏は弱冠31歳の元IT企業家で、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の旧友だ。ウクライナのIT産業が近年急成長を遂げた背景には、こうした人材の存在がある。
フェドロフ氏はソーシャルメディア戦略にも長けている。ネット上で欧米の巨大IT企業にロシア撤退を呼びかけ、アップルやグーグル、メタ(旧フェイスブック)はそれを受けて撤退を決めた。イーロン・マスクに衛星ネットワークのスターリンクをウクライナに提供するようツイッター上で働きかけ、マスク氏がこれに応じたことで、ウクライナのインターネット接続は侵攻前よりも高速になった。
@elonmusk外部リンク, while you try to colonize Mars — Russia try to occupy Ukraine! While your rockets successfully land from space — Russian rockets attack Ukrainian civil people! We ask you to provide Ukraine with Starlink stations and to address sane Russians to stand.
— Mykhailo Fedorov (@FedorovMykhailo) February 26, 2022外部リンク
フェドロフ氏は2019年からウクライナ政府の旗艦事業である電子政府アプリ「Diia」を担当。24年までに全ての行政サービスをスマートフォンで処理できるようにする目標を掲げる。
この野心的な目標は、2014年のクリミア併合を受けて設定された。ドンバスとクリミア半島から国内避難した国民のために、占領地に残した自分の財産を登録したり、生まれた子供の出生届を出したりできるように整備した。
ウクライナの周辺国では最近、戦争の混乱で身分証明書(ID)を紛失した難民がデジタルIDで越境や難民登録手続きをできるようになった。
デジタル化政策は資金調達についても重要な役割を果たしている。ゼレンスキー氏が旗振り役の資金調達プラットフォーム「ユナイテッド24外部リンク」では、軍や医療品の調達資金を集めている。ウクライナの資金難は深刻だ。3~4月の輸出額は前年に比べ半減し、防衛費やインフラ再建費用は急増している。
Last Friday, we announced the Army of Drones project, and the next day you sent us your first ‘birds.’ You are amazing Just as there’s no such thing as an insignificant donation to #united24外部リンク, there’ll be no insignificant ‘recruits’ for our Army of Drones #dronate外部リンク pic.twitter.com/bbMqAxi4iL外部リンク
— U24 (@U24_gov_ua) July 3, 2022外部リンク
戦争開始はさらなるデジタル化を後押しした。Diiaアプリではニュースのストリーミング配信や警告メッセージの通知、家屋損害の登録ができるようになった。経済支援の申請や支払いもアプリを経由する。
他にも、人工知能(AI)が自動返答する「チャットボット」を使用して、市民がロシア軍の動きを収めた動画をアップロードできるようになり、ウクライナ軍にとって重要な情報源となっている。フェドロフ氏は講演で、ロシアのサイバー攻撃やロシア当局のホームページのハッキングを防ぐ有志の「IT軍」についても説明した。
世界で「最もデジタルな国家」に
フェドロフ氏はルガーノの復興会議で、新しいデジタル化プロジェクト「Digital4Freedom」を発表した。ウクライナを3年以内に「最もデジタルな国家」にする目標を掲げる。爆撃を受けたインフラを、もう一段階上のテクノロジーを取り入れて再建する「デジタル・マーシャルプラン」と位置付けた。
So, here we go: presented the digital initiative Digital4Freedom in Lugano, #URC2022外部リンク. This is our offer to big tech companies to join the rebuild of Ukraine within UNITED24. Our digital lend-lease program. The most digital country in the world: in progress. pic.twitter.com/mY5G6Biwk3外部リンク
— Mykhailo Fedorov (@FedorovMykhailo) July 4, 2022外部リンク
フェドロフ氏はウクライナの電気通信企業3社とともに、デジタル復興に1300万ドルを拠出する覚書に署名した。復興会議の最初の具体的な成果と言える。同氏は「初めて国境を超えて重要な信頼の証が結ばれた」と誇った。
同氏によると、欧米の民間IT企業もウクライナに技術支援を提供し、将来的にはウクライナへの雇用の移転を支援していくことになる。国家と巨大IT企業が密接に協力していき、「ウクライナを欧州のイスラエルに変えたい」と講演で語った。
スイスの貢献
スイスは東欧支援の一環として、地方分権改革や平和構築などでウクライナに長く関わってきた。デジタル化分野でも、国民が情報を入手しやすくし腐敗撲滅に繋げる各種の電子政府プロジェクトを進めてきた。政治腐敗はウクライナの長年の政治課題になっている。
フェドロフ氏は「特定の領域では、スイスよりもデジタル化が進んでいる」と力説した。一方でデジタル金融商品や電子民主主義など、スイスに学ぶべきことも多々あるという。復興会議にはビジネス・IT業界からも多くの識者が参加しており、今回のルガーノ訪問はフェドロフ氏にとって情報を更新する好機となったと振り返った。
フェドロフ氏の掲げる目標は派手すぎるようにも聞こえる。実際は消耗戦の真っただ中にあり、将来的には莫大な復興費用がかかる。ただ一つ確かなのは、フェドロフ氏が戦争を乗り越える日が来ると確信していることだ。
独語からの翻訳:ムートゥ朋子
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