このコンテンツが公開されたのは、
スイスのファッションブランドに対し、下請け企業の労働者が公正な条件で働けるようさらに努力するよう求める声が広がっている。スイスの非政府組織(NGO)「パブリック・アイ」は、スイス企業が透明性の国際基準に達しておらず、最低限の生活を送るのに必要とされている生活賃金を支払っていないと指摘する。
法定最低賃金:法律に基づき労働者に対して最低限支払わなければならない賃金。スイスの最低賃金についてはこちら
生活賃金:労働者が最低限の生活を維持するために必要とする生計費から算定した賃金
パブリック・アイが先月19日に公表した報告書外部リンクは、スイスの19社を含むアパレル企業45社を調査。そのうち、少なくとも一部のサプライチェーン労働者に生活賃金を支払っているのはNILE外部リンク(本社・ベルン州スッツ)だけだったと示した。
NILEによると、商品の半分を生産する中国の下請け企業2社では従業員に生活賃金が支払われている。2020年までに全従業員に生活賃金を支払う計画。生活賃金の支払いに明確な期限を定めている唯一の企業でもある。
報告書の作成には世界の衣料品産業の労働組合やNGOが参加するクリーン・クローズ・キャンペーン外部リンクも加わった。世界のアパレル企業45社に送ったアンケートを元にした調査で、うち19社はカリダ外部リンクやタリー・ウェイル外部リンク、マムート外部リンクなどスイスの高級ファッションやスポーツウェアブランドだ。
ここ数年、H&Mなど複数のブランドが衣料品生産に関わる全従業員に生活賃金の保証を宣言している。だが調査対象の全45社が未達成だった。一部の労働者に保証しているのもNILE社だけだった。
生活賃金の保証を公言しているのは調査対象企業の6割にのぼり、うち6社はスイス企業だ。だが目標達成に向けた具体的な戦略を立てているスイス企業は4社にすぎない。
生活賃金を巡る論争
短いサイクルで世界的に大量生産・販売する「ファストファッション」に対して、過去数年、メーカーの労働条件に対する消費者の反発が広がっている。下請け企業が置かれるバングラデシュやトルコの法定最低賃金は、労働者とその家族が基本的生活を送るのに十分だと労働権の専門家が考える金額をはるかに下回る。
クリーン・クローズ・キャンペーンは、生活賃金がどの水準にあるかを定める段階で意見が分かれてしまうと指摘する。一部のメーカーは、普遍的に合意された金額はないと主張。一方でNGOらは国・地域レベルでは確固たる計算方法や賃金テーブルが存在すると反論する。
透明性
大手ファッションブランドの多くは透明性の向上に取り組んでおり、調査の対象となったグローバル企業45社の半数以上は下請け企業に関する情報を公開している。ただ報告書は、情報の質にはばらつきがあると指摘。例えばナイキは性別や移民労働者の数、拠点別、下請け企業との契約関係など詳しい情報を公開している。
全ての生産拠点や下請け企業と労働者の数、所有権構造のリストを公開しているスイス企業は、オーガニックコットン卸のレメイ外部リンクと作業服メーカーのワークファッション外部リンクの2社だけだった。
パブリック・アイの広報担当ジェラルディン・ビレ氏はスイスインフォに対し、「大手国際企業が下請け企業の透明性を引き上げたのは一歩前進だが、ほとんどのスイス企業は歩みが遅い」と語った。
「調査対象のほぼ全企業は、下請け企業が支払う賃金を明らかにしていない」とも指摘する。「破らねばならない『禁句』が残っている」
パブリック・アイはブランドの現状に関する情報を収集・共有するよう消費者に呼び掛けるキャンペーンを立ち上げた。
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
続きを読む
おすすめの記事
スイスのファッションはなぜイマイチなのか
このコンテンツが公開されたのは、
日本で生まれ育ち、現在はチューリヒを拠点にファッションデザイナーとして活躍する和・フグラーさんに、伸び悩むスイスのファッション業界とファッションデザインについて話を聞いた。
もっと読む スイスのファッションはなぜイマイチなのか
おすすめの記事
無印良品がスイス上陸、ユニクロは来るのか?
このコンテンツが公開されたのは、
スイス・チューリヒ郊外に5日、無印良品のポップアップストアがオープンした。日本の小売大手の参入は以前から国内各紙で報じられ注目を集めたが、気になるのは、同じく日本ブランドで男子プロテニスのロジャー・フェデラーを広告塔に持つユニクロがスイスに来るかどうかだ。
もっと読む 無印良品がスイス上陸、ユニクロは来るのか?
おすすめの記事
スイスの若手デザイナー キーワードは持続可能性
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの若手デザイナーは国際市場にどのような影響を与えているのか?デザイナーとしてキャリアを積む上で重要なことは?デンマークの首都コペンハーゲンで開催されたデザインイベントで出会った、スイスの気鋭デザイナーやデザイナー志望の学生たちが発信する「スイスデザイン」。それは、モダンと持続可能性が求められる市況にフィットするものだった。
もっと読む スイスの若手デザイナー キーワードは持続可能性
おすすめの記事
国内で2番目に大きいショッピングモールがオープン
このコンテンツが公開されたのは、
スイス国内で2番目に大きいショッピングモールが8日、古都ルツェルン市近郊のエビコンにオープンした。開店前から数百人が列を作る人気ぶり。買い物客で終日にぎわった。
もっと読む 国内で2番目に大きいショッピングモールがオープン
おすすめの記事
バナナは未来の新繊維?
このコンテンツが公開されたのは、
天然繊維といえば、その代表格はコットン。しかしコットン栽培はウォーターフットプリント(生産から消費までに使用される水の総量)が大きく、生産地にとっていいことばかりではない。スイスでは現在、バナナやイラクサ、木材や亜麻(リネン)などから作った繊維の使用が試みられている。これらは果たしてコットンをしのぐ代替素材となりうるだろうか。
もっと読む バナナは未来の新繊維?
おすすめの記事
レマン湖畔から世界に君臨するバナナ王、チキータ
このコンテンツが公開されたのは、
ヴォー州の町、エトワ。「バナナと同じ形の湖」とカルロス・ロペス・フロレス社長が言うこのレマン湖畔の町には、バナナ生産・販売大手の「チキータ・ブランズ・インターナショナル(Chiquita Brands International)」がオフィスを構える。
もっと読む レマン湖畔から世界に君臨するバナナ王、チキータ
おすすめの記事
もっとフェアな価格でカカオ取引を スイス企業がウガンダで実験
このコンテンツが公開されたのは、
チョコレートの消費量は増加の一途をたどる。原料のカカオは、公正な価格取引で途上国の生産者を支えるフェアトレード製品も多く出回るが、その恩恵を受けるはずのカカオ農家にあまり利益が渡っていないのが実情だ。こうした問題を解消するべく、スイスの新興企業がフェアトレードよりもフェアな価格でカカオ取引を行うという斬新な実験をウガンダで始めた。
ウガンダの首都カンパラと近郊の産業都市ジンジャを結ぶ幹線道路ジンジャロードの交通量は多く、いつも渋滞している。その幹線道路から少し離れた、ナイル川が流れる平たんな辺地にカサヴォという小さな町がある。カンパラから北東に60キロのこの町で、スイスの新興企業「ショッギ(スイスドイツ語でチョコレートの意) 」が、ここでカカオを生産し、真に公正な価格で取引するプロジェクトを立ち上げた。
もっと読む もっとフェアな価格でカカオ取引を スイス企業がウガンダで実験
おすすめの記事
スイスの高い物価、犯人はメーカー?小売?
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの消費者の多くは高すぎる物価に腹を立てている。だが批判の矛先はメーカーと小売業者の間を往復し宙に浮くばかりだ。
もっと読む スイスの高い物価、犯人はメーカー?小売?
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。