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スイス流ワーケーション 広がりに期待

パソコンと犬と一緒に水辺に座る女性
ワーケーションはバケーションスポットに限らず、都市部などさまざまな場所で可能だ Westend61 / Noonland

スイスでは、ワーケーションはまだ黎明期にある。だが近年のデジタル化とコロナ禍で浸透したテレワークを追い風に、新しい働き方の一つとしてスイスでも広がりが期待される。

ワーケーションはワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語で、職場以外の場所で働きながら、勤務時間外にリフレッシュをしたり、プライベートの時間を充実させたりできる働き方の一種だ。

スイスでワーケーションはまだ浸透していないが、デジタル化によるテレワークの普及外部リンクを受け、独自にワーケーション制度を導入するIT系企業や、海外体験プログラム事業の一環としてワーケーション支援サービスを提供する企業が出てきた。

ワーケーションは、米国を中心に広まった。米国は年次有給休暇を取得する権利が法律で定められておらず、また有給休暇の取得率が低迷外部リンクしていることから、有給休暇取得の代案として活用されている。

同じく有給休暇取得率が低い日本も導入に積極的だ。日本政府環境省は今月21日、ワーケーション事業として約500団体を採択し、2020年の補正予算に22億円を盛り込んだ。27日には観光戦略実行推進会議が開かれ、宿泊施設でのWi-Fi整備支援など、ワーケーション制度のサポートを通じた観光施策の推進も行っていくとした。

米国や日本とは対照的に、スイスの有給休暇取得率は高い。またスイスの年次有給休暇は第329c条第1項で、勤続1年につき少なくとも2週間の有給休暇を連続して取得しなければならないと定められている。スイス連邦統計局によると、2019年における被雇用者の有給休暇は20~49歳で平均4.9週、15~19歳で5.4週、50~64歳で5.6週だった。

ワーケーションにはパソコンやインターネット環境が必要。接客業や大型機械を使うなど、現場にいないと仕事が成立しない職種は難しい。

ウェブホスティング会社cyon外部リンク(本社・バーゼル/従業員44人)は、ワーケーションを認めている会社の一つだ。コミュニケーション部長のトム・ブリュヴィラーさんは、「制度にはしていないが、数週間から最長2年のワーケーションが可能。2016年からこれまでに7人がワーケーションを行った」という。

Cyon社ではワーケーションにかかる旅費などは個人負担で、関連手続きは自身で行わなければならない。また▽集中できる静かな職場を出先で見つけること▽安定したインターネット接続があること▽いつでもVoIPで電話をかけられることなどがワーケーションの条件だ。「バリやタイのチェンマイに行って異文化体験をしたり、サーフィンを極めたいとハワイを選んだり、英国をキャンピングカーで回ったり、従業員が選ぶワーケーション先はさまざまだ」。

恋人の存在を理由に、イタリアでのワーケーションを申請する従業員もいた。ワーケーションの「ニーズは人それぞれ」だという。「会社側としては優秀な人材を手放したくないだけだ」

2018 年頃から被雇用者と企業のワーケーション仲介サービスを始めたpack & work外部リンク共同創業者のパメラ・アシュリマンさんも考えは同じだ。「国外へ行きたいと言ってきた自身の従業員に辞めて欲しくなかったのが、ワーケーション支援サービスを始めたそもそものきっかけだった」

アシュリマンさんは、スイスでは、ワーケーション制度を異文化体験だけでなく、「仕事をしながらスキルアップをするために」利用する傾向もあると見る。アシュリマンさんの会社が提供するサービス利用者は、ワーケーションのホットスポットとされるバリやバンコクよりも、バンクーバーやパリなどの都市部に行って、語学学校などのスキルアップにプライベートの時間を活用した。

▼pack&workを利用してワーケーションに行ったミモザさんの体験談

このようなケースは、スイス特有の職業訓練システムを終えた若手社員のスキルアップにも応用できることから、ポテンシャルを感じるという。

だが、ワーケーション希望者に対し、なかなか首を縦に振らない企業もスイスには多い。前例がないうえ、社会保障、健康保険や傷害保険など、国境を越えた手続きは煩雑だ。会社の情報セキュリティの心配はもちろんのこと、社員の勤務時間が把握できないことへの不安もある。リゾート気分で働かれては困るという考えも根強い。

仕事とプライベートのオンオフがつけづらくなるのは、被雇用者側にも悪影響をもたらす。アシュリマンさんは「就業時間の線引きが出来ず、ついつい残業をしてしまうというケースもあった」と話す。他にも、働いているタイムゾーンが違うため、特別に早起きをして会社の就業時間と重なる時間を作ったという利用者もおり、業務を円滑に進めるための工夫が必要だ。勤務時間外に労働を強いる制度にならないよう、細心の注意を払う必要がある。

それでも「ワーケーションは雇用側と被雇用側の両方にとって興味深い取り組みだ」とブリュワラーさんは言う。離職防止、コロナ危機など有事の業務継続、業務効率の見直しと改善、スキルアップの意欲向上、企業の魅力アップなど、多くの効果がスイスの労働市場にも期待される。それに加え、地方の関係人口の増大、空き家・空きオフィス対策、観光事業の活性化につながる可能性もある。

今年の前半はコロナ禍でワーケーションをしたくてもできなかったが、「コロナ危機で自宅からでも働けたという事実が、テレワークの波を後押ししているのは確か」だとアシュマンさんは言う。

ブリュワラーさんもまた、「パンデミックで企業が得た在宅勤務の経験は、将来的にはより柔軟な働き方を考える上でも役立つはず。その中にワーケーションも含まれていると思う」と今後の広がりに期待する。

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