スイスと米国の中央銀行 目的は同じでも異なる手法
ジョー・バイデン米大統領がジェローム・パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の再任を発表した。この決断を下すまでにバイデン氏は多くの年月を費やした。スイスでは考えられないことだ。
米国の中央銀行制度の最高機関であるFRBは、3年以上理事ポストに空席が出たまま。バイデン氏はこれを是正せず、批判を呼んでいる外部リンク。
スイス国立銀行(中央銀行、SNB)執行部の欠員が何年も続くようなことは考えられない。それは、全く異なる方法で組織されているからだ。
スイスと米国の中央銀行の主な違いはどこにあるのか。
SNBは、監督機関の銀行評議会が指名した3人による政策理事会が統括する。3人は経済、科学、政治の代表者だ。米国では議会が理事を承認するが、スイスでは連邦内閣がその役割を担う。SNBの管理構造はより単純といえる。
一見すると、スイスの政治がSNBに与える影響は小さい。それに比べ、FRBの統治構造ははるかに複雑で、政治的プロセスと絡み合う。金融政策の方針を決める米連邦公開市場委員会(FOMC)は、連邦準備理事会の理事7人と地区連銀総裁の5人が投票権を持つ。
ニューヨーク地区連銀総裁は常任だが、ほか4人は輪番制で任期は1年だ。
FRB理事の選出は極めて政治色が強い。指名するのは米大統領で、上院が承認する。ただ上院では、過半数の賛成を得られない時もある。
スイスは、内閣が政策理事会の理事3人のうち誰を議長にするかを選ぶため、スイスの政治家もまた、SNBに影響を与えることができる。議長人事を巡り、政府が金融政策をある程度動かせるというわけだ。
ただ議長は、政策理事会での政策決定において何ら強大な権限は持たない。しかし、他の2人の理事が結託して議長に抗えば、議長が辞任するリスクが生じる。このようなリスクを取りたくないという自然な気持ちから、議長が長期間にわたり、SNBの金融政策の方向性を大きく形作ることができる、と言える。これにより、SNBの方針はある程度予測が可能になるが、停滞のリスクも生まれる。
FRBは、この種のリスクが少ない。FOMCは大人数で構成されるため、意見の多様性が高まる。「マエストロ(巨匠)」と称されたアラン・グリーンスパン元FRB議長でさえ、1987~2006年の在任中、FOMCの多数派の意見に屈しなければならない時外部リンクがあった。
しかし、そのような大規模な意思決定機関も不利な点がある。スイスでは、金融政策の責任を負うのはSNB総裁(現在はトーマス・ジョルダン)で、これは誰の目にも明らかだ。対照的に、FOMCメンバーは多数決を隠れみのにできる。
政府となると話は逆で、米国は大統領が政府の決定に対して単独で責任を負うが、スイスは内閣が多数決で決めた意見に連帯責任を負う。SNBがFRBのような組織形態だったなら、ジョルダン総裁は多様な意思決定機関を説得することなくして自身の方針は貫けなくなるだろう。スイス内閣と同じように。
ファビオ・カネッジ外部リンク氏はベルン大学・仏トゥールーズ経済学院で金融政策の博士号を取得。現在ヌーシャテル大学で教鞭を執る。
またフリーランスジャーナリストとしてswissinfo.chやスイスのウェブマガジン「レプブリーク」に執筆。swissinfo.chドイツ語版では金融政策に関するポッドキャスト外部リンクを配信している。
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