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世界で最も高額の1千フラン札、もし交換期限がなくなったら?

1000フラン紙幣
スイスの1千フラン紙幣 Keystone/Martin Ruetschi

世界で最も高額な紙幣、スイスの1千フラン札(約11万5千円)を含む全てのスイスフラン紙幣で、旧紙幣の20年間の交換期限を撤廃するという政府の法改正案が、左派政党など一部の批判を呼んでいる。犯罪などに悪用されるという指摘もある。

 スイスフランの紙幣は10、20、50、100、200、1千フラン紙幣がある。紙幣は15~20年ごとに新調され、旧紙幣はスイス国立銀行(スイス中銀)によって回収される。旧紙幣は通貨としての価値を失うが、流通停止から20年以内であれば同価値の紙幣と交換してもらえる。現在は第8次紙幣から第9次紙幣の移行期。2016年から50、20、10フラン札が新調され、残りの紙幣も2019年末までに順次切り替わる。2000年5月1日に回収された旧紙幣の交換期限は2020年4月30日までだ。

 ところがウエリ・マウラー財務相が、この20年間の交換期限を撤廃し、他の先進国と同様、使用年数に関係なく新紙幣と交換できるようにする計画を提案した。

 連邦政府は8月、通貨に関する法改正案を提出。1976~79年に発行された全ての紙幣が20年の流通期限から「解放」されることになる。

 先月行われた法改正の協議では、スイスの中道右派政党、国民党と急進民主党はこれを歓迎。紙幣の交換に制限時間を設けるのは支持できないという意見からだ。

犯罪者にとっての「通貨の選択」

 しかし左派政党はこの提案に反発している。

 社会民主党は、1千フラン札は高額なため、交換期限を撤廃すればマネーロンダリングや脱税、経済テロをもくろむ犯罪者の利益になってしまうと訴える。

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 シンガポールは2014年、当時世界最高額だった1万シンガポールドル紙幣(現在の為替レートで約85万円)の発行を取りやめた。欧州中央銀行(ECB)も18年末から500ユーロ紙幣(同約6万6千円)の発行を中止すると発表。犯罪者の「通貨の選択肢」になりかねないという懸念からだ。

 汚職撲滅に取り組む非政府組織「トランスペアレンシー・インターナショナル・スイス」も「私たちの見解では(紙幣の交換期限を撤廃すると)汚職や脱税、違法な資金源の保持、組織的犯罪などを助長する」と今回の政府の提案に懸念を示す。

消える紙幣

 同組織は、全紙幣の交換期限を撤廃するために、1千フラン紙幣の普及率の高さが利用されていると強調する。実際、2016年に国内で流通した720億フランのうち、62%が1千フラン紙幣だった。

 紫色の1千フラン紙幣は国外でも流通している。同組織は「現金なら足跡が残らない。このため国外に拠点を置く個人や団体が、税務署や検察庁に対して資金隠しを行う目的でスイスフラン紙幣を使う」と指摘する。

 国民党と急進民主党がかろうじて過半数を占める政府が、こうした議論を受け入れるのかは定かではない。ただ時に悪評を生む1千フラン紙幣をめぐり、今回の政府提案が承認される日はそう遠くないとみられる。

(英語からの翻訳・宇田薫)

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