スイスの視点を10言語で

スイスのインク製造業SICPA 外国での贈賄罪で罰金命令

Sicpa
SICPAは1927年、ローザンヌで設立された。国内外で複数の汚職調査の対象となっている Keystone / Martial Trezzini

スイス連邦検察庁は27日、インク製造業のSICPA(シクパ、本社・ローザンヌ)に対し、複数国での贈賄の罪で8100万フラン(約120億円)の罰金支払いを命じた。同社の元営業部長には170日の執行猶予付き懲役刑を言い渡した。

検察庁の声明外部リンクによると、必要かつ合理的な組織的予防策を講じず「SICPA社員が外国の公務員に賄賂を贈ることを許した」として「刑事責任」を負った。

検察は同社に100万フランの罰金と8000万フランの損害賠償請求を言い渡した。理由としてコーポレート・ガバナンス(企業統治)原則やリスク管理、コンプライアンスの脆弱性など「組織的欠陥が特定された」ことを挙げた。

SICPAと元社員は命令に対し異議申し立てをしないと宣言しているという。一方で検察庁は、同社の主要株主でもあるCEOに対する起訴を取り下げた。ただCEOは裁判費用の一部を負担する義務がある。

横領・資金洗浄は立証できず

SICPAは紙幣や機密文書などに使われるセキュリティーインクの製造を得意とする。検察庁は2015年、外国からの司法共助要請を受け、SICPAに対する汚職捜査を始めた。

調査はブラジルやベネズエラ、コロンビアなどさまざまな国での贈賄に関するものだった。声明によると、懲役刑を受けた元営業部長は2009~11年にかけ、コロンビアとベネズエラで政府高官に賄賂を贈っていた。だが横領とマネーロンダリング(資金洗浄)の疑いは立証できなかった。

2021年には、同社CEOも捜査の対象になった。

同社は国外でもいくつかの汚職調査の対象となっている。2021年夏にはブラジル当局に和解金1億 3500万フランを支払い、同国での事業を継続させた。

搾乳グリースから紙幣まで

SICPAは1927年、モーリス・アモンがローザンヌに設立。当初は搾乳する酪農家向けに手の塗り薬を製造していた。

やがて印刷用インクの開発に軸足を移し、最終的には紙幣用のインクや偽造品と戦うためのトレース(追跡)技術を開発することで、世界市場を席巻した。

SICPAは家族経営で非上場。外部投資家もいない。

≫SICPAに関する特集記事はこちら☟

おすすめの記事
金塊

おすすめの記事

SICPA 信頼の裏の謎多きビジネス

このコンテンツが公開されたのは、 世界的な存在感にもかかわらず、スイスのファミリー企業SICPAとそのインクの秘密を知る人は少ない。同社には各国で国際汚職疑惑が浮上し、スイス当局の捜査下にある。

もっと読む SICPA 信頼の裏の謎多きビジネス 外部リンク

英語からの翻訳:ムートゥ朋子

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

兵士

おすすめの記事

スイス製狙撃弾60万発以上がウクライナに

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの弾薬製造会社Pディフェンスの狙撃用弾薬が昨年7月、ポーランドの会社経由でウクライナに届いていた。スイス公共放送が報じた。

もっと読む スイス製狙撃弾60万発以上がウクライナに
ジョン・レノンとオノ・ヨーコさん

おすすめの記事

ジョン・レノンの盗まれた腕時計、所有権はオノさん スイス最高裁が認定

このコンテンツが公開されたのは、 ビートルズのジョン・レノンさんが殺害される2カ月前にオノ・ヨーコさんから贈られ、その後盗まれた腕時計について、スイスの連邦最高裁判所はオノさんに時計の完全な所有権があるとの判決を出した。

もっと読む ジョン・レノンの盗まれた腕時計、所有権はオノさん スイス最高裁が認定
スイス証券取引所を運営するSIX本社

おすすめの記事

スイス証取、英プロバイダーを買収 MTF参入へ

このコンテンツが公開されたのは、 スイス証券取引所を運営するSIXグループは11日、英国の証券取引サービスプロバイダー、アクイス・エクスチェンジを買収すると発表した。今後、多角的取引システム(MTF)に参入する方針だ。

もっと読む スイス証取、英プロバイダーを買収 MTF参入へ
野菜

おすすめの記事

2022年の可処分所得は約95万円 スイス統計局

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦統計局は12日、2022年の1世帯平均の可処分所得はひと月6902フラン(当時レートで約95万円)だったと発表した。前年からほぼ横ばいだった。

もっと読む 2022年の可処分所得は約95万円 スイス統計局
研究所の外観

おすすめの記事

CERNとロシアの研究協力協定、11月末に期限迎える

このコンテンツが公開されたのは、 今月30日、ロシアの研究機関とジュネーブに拠点を置く欧州原子核研究機構(CERN)との協力協定が終了する。研究者はCERNのプロジェクトに影響を及ぼすと警告している。

もっと読む CERNとロシアの研究協力協定、11月末に期限迎える
クラスの風景

おすすめの記事

女子優位のクラスを出た女性は高収入の傾向 スイス調査

このコンテンツが公開されたのは、 スイス・バーゼル大と英ダラム大が1989年から2002年の間にスウェーデンで初等教育を修了した75万人以上の生徒のデータを用いて行った調査で、女子生徒の方が多いクラスを出た女性はより多くの収入を得る傾向があることが分かった。

もっと読む 女子優位のクラスを出た女性は高収入の傾向 スイス調査
雪山で写真を撮る観光客

おすすめの記事

11月のスイスアルプス、季節外れの暖かさ

このコンテンツが公開されたのは、 スイスアルプスで、季節外れの暖かさが続いている。スイスで最も標高の高い地点にあるユングフラウヨッホでは観測史上最高を記録した。

もっと読む 11月のスイスアルプス、季節外れの暖かさ
巨大な豆腐を切る人

おすすめの記事

スイスでベジタリアン・ビーガン増加 若者・高学歴に多く

このコンテンツが公開されたのは、 スイスで肉食をやめる人が増えている。植物性食品を推進するスイスベジ協会(Swissveg)は30日、スイスのベジタリアンやビーガンの数は過去5年間で約40%増加したと発表した。

もっと読む スイスでベジタリアン・ビーガン増加 若者・高学歴に多く
草原のツルの群れ

おすすめの記事

スイスを縦断するツルが過去最多

このコンテンツが公開されたのは、 スイス鳥類研究所によると、スイスでは今季、はやくも過去最多のツルが観察されている。なかには約800羽の大規模な群れもみられた。

もっと読む スイスを縦断するツルが過去最多

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部