スイスのコロナ感染追跡アプリ、25日本格運用
スイスでは25日、新型コロナウイルス感染者との濃厚接触者を追跡するアプリの一般向けダウンロードが可能になる。コロナ流行第2波を防止するアプリを多くの人に使ってもらうため、ユーザーのプライバシーを最優先に開発した。
新アプリ「SwissCovid」は800万人以上がスマートフォンにダウンロードできる体制を整えた。6月25日からAppleとGoogleのアプリストアで入手可能になり、市民による「最終試験」を受けることになる。
5月25日からの実験段階には1万5000人以上が参加した。今後の最大の課題は、ウイルス封じ込めツールをできるだけ多くの市民に使ってもらうことだ。それが唯一、このツールの有効性を納得してもらう手段だ、とアプリ開発に携わった連邦保健庁と連邦工科大学チューリヒ・ローザンヌ両校はみる。
保健庁のデジタルトランスオーメーション部長キム・サンギル氏はswissinfo.chに、「情報を一カ所に集めず、Bluetooth技術を使ったおかげで、最大限のデータ保護とプライバシーが保証される」と胸を張った。
プライバシーを中心に
SwissCovidはユーザーのプライバシーを重んじ個人情報の悪用を防ぐため、分散型のデータ記録システムを使っている。潜在的な感染を検出するための接触分析などプライバシーにかかわる操作はすべて、集中型アプリのように中央のサーバーではなく携帯電話の端末上で直接行われる。
これにより、アプリが集めたデータは最大14日間、端末内に保存される。検査で感染が確認された場合に限り、匿名で暗号化されたユーザーのデータが連邦の中央サーバーに転送されるが、それもユーザーの任意だ。この操作には州当局から受け取るコードが必要だ。
今回初めて、何百万人が使うソリューションが、最初からプライバシーを中心に据えて設計された。
カルメラ・トロンコソ、DP-3T開発リーダー
SwissCovidはユーザーがデバイスから個人データを直接コントロールできるようにするグーグルとアップルのプログラミングインターフェースを採用した。これにより、アンドロイドとiOSデバイス間の相互運用が欧州で初めて可能になった。基礎的な暗号化技術と低消費電力Bluetooth(BLE)を使用して、スマホ2台の間隔が1.5メートル以下の状態が15分以上続くと、「濃厚接触」と認定する。
DP-3Tプロジェクト(分散型近接追跡)の責任者であるカルメラ・トロンコソ氏は、このシステムはマステクノロジーの考え方や開発方法に大きな転換点をもたらしたと話す。「今回初めて、何百万人が使うソリューションが、最初からプライバシーを中心に据えて設計された。こんなことは初めてだ」と彼女はswissinfo.chに語った。
デジタルトラッキングの重要性
試験運用により、匿名性とデータ保護の観点からシステムの頑丈さが確認できた。だがいくつかの重要な問題があり、効果的な追跡ができない可能性が残る。
1つ目は、偽陽性と偽陰性を生み出すリスクだ。濃厚接触を確認するために使われているBluetooth技術は、他にも様々な要因の影響を受ける。例えば、2台のスマホの間に壁や人、物などの障害物があると、検知精度に影響を与える可能性がある。2つ目の大きな課題は、スイスと他の国のアプリとの相互運用性だ。
また、アップルやグーグルが将来的に利害関係を理由として規格を変更するリスクも軽視できない。オランダのデルフト工科大学で新興技術やデータ倫理を研究するマシュー・デニス氏とゲオルギー・イシュマエフ氏は次のように話す。「グーグルやアップルは、プライバシーへの干渉をできるだけ抑えたソリューションを提供した。だが例えば遠隔医療市場の支配という目標を達成するために、情報収集基準の改定やデータの悪用さえ正当化されるかもしれないとすれば、この善意に基づく決定が諸刃の剣ではないと誰が言えるだろうか?」
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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