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スイスで農業ほど強く政治に働きかけている職業は他にないだろう。しかも働きかけが実を結んでいる。農産物の輸入規制や国の補助金支給などを始め、農業セクターはスイスで手厚く保護されており、その他の産業に比べ多くの優遇措置を受けている。
農家は一般消費者に比べて、ガソリンやディーゼル(軽油)を1リットル当たり0.6フラン安く購入できる。燃料にかかる鉱油税や付加税の払戻しも受けられる。連邦税関事務局によれば、2015年、農家に対し計6500万フランが返金された。経営規模に応じて、一定量の燃料を割引価格で購入することも可能。
家族手当は通常、雇用主から給料の一部として支払われるが、農家は国と自治体から手当金を受け取る。経営者だけではなく、共に働く家族にも収入に関係なく家族手当が支払われる。2015年の、国の家族手当の総額は9700万フラン(連邦内務省者社会保険局調べ)。農業経営者は、家族ではない従業員に対してのみ社会保険料などの積立金を支払う義務がある。
農業を断念した場合は、経営者や配偶者が別の職業に就くための職業訓練費用を国が半額負担する。
農業経営者には、土地の推定賃貸価格をベースにした低い税率が適用される。一般家庭に比べると、農家の住居費はおよそ半分。農家で直売される食肉やジャガイモ、パン、卵などにかかる付加価値税(VAT)を収める必要はない。
農業用の緑色のナンバープレートを付けた農業機械は、大型特殊自動車税を免除されている。また、他の大型自動車と違って日曜日や夜間の走行も禁止されていない。
大気汚染対策として、建設機械には微粒子フィルターの取り付けが義務付けられている一方で、農業、林業機械はその必要がない。
農業経営者は家屋、家畜小屋、直売店などの設備投資に無利子で融資が受けることができる。2015年の融資額は総額3億フラン。土壌改良や農業施設の整備、また地域社会に有益な工事などに必要な費用には助成金が出る。
また、農業経営者に過失や責任がなく経営難に陥いった場合には、無利子融資を受けることができる。
優遇措置ではない
このように農業分野に関しては様々な特別制度が設けられているが、スイス農業者連盟は他の産業に比べ農業が優遇されているとは考えていない。2006年にべルン州ツォリコフェンの農業・林業・食料学高等専門機関(HAFL)が発表した、「産業の主要分野における各規制にはほとんど差異がない。農業分野に限られた例外措置があるのは事実だが、それは農業活動の範囲を超えるものではない」とする調査結果を引き合いに出している。
(仏語からの翻訳・由比かおり)
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