スイスの視点を10言語で

冷戦時のスイス軍秘密部隊P26、政府が機密文書を公開

軍の壕
P26が訓練や会議に使っていた地下施設。ベルン州で Keystone

冷戦時代、旧ソ連の侵攻に備えてスイスが作った軍の秘密部隊「P26」に関する政府の機密文書「コルニュ・レポート(Cornu Report)」が25日、30年の年月を経て公開された。ただ個人名などは伏せられた。

スイスの秘密部隊「P26」

1950年代、共産勢力の侵攻に備えてスイス軍の秘密組織として作られた。正式名称は「26作戦(Projekt26)」。民間人約400人が所属し軍事訓練を受けたほか、スイス全土に秘密の武器庫を保有していた。

1990年2月、議会の調査委員会によってP26の存在が明るみになり、戦後史最大のスキャンダルに発展。議会の調査委員会は、この部隊には法的根拠がなく、政府の監視下の外で運営されていたと批判した。また1991年には、議会の調査委員会とは別に、政府がヌーシャテル州の判事ピエール・コルニュ氏に調査を委託した報告書「コルニュ・レポート(Cornu Report)」が出された。P26と海外組織の関係にも踏み込んだ内容だったが、政府は2041年まで機密文書扱いとした。P26は90年に解散した。

 今回内容が明らかになったのは、コルニュ・レポートの「メディア公開用外部リンク」報告書。個人名などが黒く塗りつぶされ、当時は公開されなかったが、連邦政府が「個人情報保護の観点からも公開を阻害する理由がない」と判断した。全115ページに及ぶレポートの全容が解禁されるのは当初の予定通り、2041年以降になりそうだ。

 この報告書によると、スイス人男女400人が敵国での戦闘を想定し、定期的に訓練を受けていた。またP26と英国の諜報機関は緊密な関係にあり、自国の諜報員らを相手国の訓練に参加させていたという。

>>冷戦時のスイス軍秘密部隊P-26 極秘文書が「紛失」?

 冷戦期、西欧諸国の国々がこのような部隊を持つのは珍しいことではなかった。その中でもスイスのP26は、武装中立国であり北大西洋条約機構(NATO)の非加盟国だった事情を反映したものとみられる。

 不十分な「透明性」

 連邦政府は25日付の声明で「透明性を鑑みて」公開に踏み切ったとし「P26に関する歴史的、政治的考察の一助になれば」と述べた。コルニュ氏は26日朝に放送されたフランス語圏のスイス公共放送(RTS)のインタビューで「(公開は)良いことだと思う。この報告書に光が当たるべきだ」と述べた。

 一方、個人情報が一部伏せられた状態で公開されたことについて、コルニュ氏は「国民の不信感はぬぐえない。(全文が公開されても)偽の報告書だと思われるだろう」との懸念を示した。

 コルニュ・レポートを巡っては今年2月、国防省に保管されているはずの27の文書をとじたバインダーやファイルの行方が分からなくなったと報じられ、大きな問題になった。 

最も読まれた記事
在外スイス人

世界の読者と意見交換

ニュース

茶色い除湿器

おすすめの記事

ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)は10日、電気を使わない除湿器を開発したと発表した。壁や天井の建築材として、空気中の湿気を吸収し一時的に蓄えることができる。

もっと読む ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
Xマークの画面

おすすめの記事

スイスでX離れ進む

このコンテンツが公開されたのは、 スイスで「X」から撤退を表明する企業や著名人が相次いでいる。

もっと読む スイスでX離れ進む
ベルジエ報告

おすすめの記事

「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱

このコンテンツが公開されたのは、 スイス最大手のUBS銀行の資料室には、第二次世界大戦中の行動に関する秘密がまだ残されている可能性がある――。過去にスイスの銀行と独ナチス政権とのつながりを調査した歴史家、マルク・ペレノード氏は、再調査の必要性を強調する。

もっと読む 「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱
整備中の飛行機

おすすめの記事

スイス航空の緊急着陸 客室乗務員の死因は酸欠

このコンテンツが公開されたのは、 スイスインターナショナルエアラインズ(SWISS)のブカレスト発チューリヒ便が先月オーストリアのグラーツで緊急着陸した後、客室乗務員(23)が死亡した事件で、死因は酸欠だったことが分かった。複数のスイスメディアが報じた。

もっと読む スイス航空の緊急着陸 客室乗務員の死因は酸欠
署名の入った箱

おすすめの記事

国民投票に向けた署名がまたも偽造

このコンテンツが公開されたのは、 医療品の安定供給を求める国民投票に向けて集められた署名のうち、3600筆以上が無効な署名だったことが明らかになった。

もっと読む 国民投票に向けた署名がまたも偽造
エリック・ヘンニさん

おすすめの記事

スイスの柔道家エリック・ヘンニ、86歳で死去 東京五輪柔道銀メダリスト

このコンテンツが公開されたのは、 1964年東京オリンピックで銀メダルを勝ち取ったスイス人柔道家のエリック・ヘンニ(Eric Hänni)さんが25日、86歳で死亡した。スイス柔道・柔術協会が発表した。

もっと読む スイスの柔道家エリック・ヘンニ、86歳で死去 東京五輪柔道銀メダリスト

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部