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スイスもやや右傾化へ 総選挙あす投開票

「緑の波」が起き環境政党が大勝した前回選挙から4年。22日のスイス連邦総選挙では、連邦議事堂(写真)の議場が再び右寄りに回帰しそうだ Keystone / Thomas Hodel

スイス有権者は22日、新連邦議会議員を選出する。保守右派が議席を増やし、緑の党が大敗すると予想される。欧州全体で進む右傾化の波に、スイスも無縁ではいられないようだ。

異常気象を実感させる残暑を記録した10月だったが、スイスの環境政党にとっては追い風にはならなかった。各種世論調査はいずれも緑の党(GPS/Les Verts)の惨敗を示している。2019年の前回選挙で躍進した同党の予想得票率は10%を割り込み、現在の議席占有率を3.5ポイント失う見込みだ。もう1つの環境政党、自由緑の党(GPL/PVL)も失速が目立つ。

予想通りになれば、緑の党は7つある閣僚ポストの1つを奪取するという目標を諦めざるを得ない。同党は選挙結果次第で、年末で辞任するアラン・ベルセ内務相(社会民主党=SP/PS)の後釜を狙うつもりだった。

2019年に起きた「緑の波」が過去の遺物になったのは明らかだ。こうした傾向は欧州連合(EU)全体で見られる。緑の党は前回の欧州議会選挙で大勝したが、直近ではEU内でも苦戦を強いられている。フランスとドイツでは支持率が右肩下がりで、他の加盟国でも連敗中だ。

国民党のリベンジ

スイスでは4年前の敗者、保守・右派政党が今回リベンジを果たしそうだ。世論調査会社ソトモによると、下院第1党の国民党(SVP/UDC)の予想得票率は28%と、同党史上2番目の高さを達成する勢いだ。

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欧州全体でも保守・右派政党が勢力を盛り返している。イタリアでは昨年9月の総選挙で、ジョルジア・メローニ首相率いる極右政党「イタリアの同胞(FDI)」が権力を握った。スウェーデンでも右派・極右連合が前回の選挙で勝利した。直近では今年4月、ポピュリスト(大衆迎合主義)の「フィンランド人党」が連立政権に加わった。

第3党争い

ただスイス連邦議会はわずかに右寄りにシフトするに留まるとみられる。緑の党が失った票の大部分が左派・社会民主党に流れ、議席占有率を1.5ポイント増やす見込みだからだ。また急進民主党(FDP/PLR)が1ポイント減り、ブルジョア陣営の急拡大に歯止めをかける。

ソトモの政治学者は、2019年選挙で負けた政党が今回の勝者となると分析する。4年前は小政党が優勢だったが、今回は大政党がリードしそうだ。例外は急進民主党で、2回連続の敗北が予想されている。

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上位4党が連邦内閣を構成するスイスに「与党」「野党」の概念はなく、政権交代は起こりえない。だが世論調査で接戦を繰り広げる急進民主党と中央党(Die Mitte/Le Centre)の第3党争いは、総選挙で最も注目される点の1つだ。中央党が急進民主党から第3党の座を奪うとなれば、歴史的な激変となる。合議制を採る連邦内閣の7ポストは上位3政党に2ポストずつ、第4党に1ポスト配分される不文律がある。このため2党の接戦の行方は内閣の構成、ひいては政府の意思決定に大きな影響を与えることになる。

精彩欠く選挙戦

選挙戦は総じて盛り上がりを欠いた。各党は対立候補の縄張りに敢えて足を踏み入れることはなく、自党の得意分野に集中した。9月26日に強制加入の民間医療保険料の大幅値上げが発表されると、医療負担に関する議論が再燃した。各種世論調査によると、医療保険は22日の総選挙に最も大きな影響を与えそうだ。家計の購買力に焦点を当てて選挙戦略を立てた社会民主党にとっては追い風が吹いた格好だ。

また欧州各国に押し寄せる難民の問題は、長年移民を主要課題に掲げてきた国民党を利した。世論調査が示すように移民はスイス国民の最大の関心事の1つであり、有権者が投票先を決めるうえで重要な要素でもある。

一方で、異常気象が頻発し地球温暖化が関心事の上位に挙がるものの、緑の党はそれを味方につけることができなかった。ソトモのミヒャエル・ヘルマン代表は「人々はもはやこの問題に太刀打ちできない、スイスには解決能力がないと考えているのかもしれない」と分析する。

過去最多の立候補者

国民議会(下院)200議席への立候補者は5909人と過去最多を記録した。うち女性が41%を占め、在外居住者は43人となった。各州2人ずつ(準州は1人ずつ)選出される全州議会(上院)46議席の大半も過去最多の立候補者が集まった。

対照的に、投票率は低いと予想されている。前回選挙の投票率は45.1%にとどまったが、「今年はさらに低下する」(ヘルマン氏)見込みだ。予想投票率は世論調査で「選挙は国の将来にとって非常に重要だ」と考える人の割合から算出するが、直近調査でこの数字が低下したためだ。

下院議員は比例代表制で選出され、公式結果は22日深夜(スイス時間)に明らかになる。上院議員はほぼすべての州で最多得票党が全議席を総取りする多数決方式で選出される。候補者が絶対過半数(投票数の50%以上)を獲得すれば、22日に当選者が決まる。そうでなければ11月に決戦投票が実施される。

その例外として、ヌーシャテル州とジュラ州は決選投票をせずに比例代表制で当選者を決める。アッペンツェル・インナーローデン準州は8月のランツゲマインデ(青空議会)で代表者(1議席)を選出済み。オプヴァルデン準州は現職に対立候補が現れず、無投票再当選が決まっている。

仏語からの翻訳:ムートゥ朋子

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