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スイスに好機 革新的なソーシャルファイナンス

インドの地方部にある学校
UBSのオプティムス基金は、インドの田舎に住む女子の就学と教育の質の向上を目的としたデベロップメント・インパクト・ボンドに投資した swissinfo.ch

世界の恵まれない人々を困窮から救うための資金が枯渇する一方で、利率ゼロという経済状況の中で民間投資家は新たな投資対象を追い求めている。この両者の橋渡しをする上で、スイスはリーダー的役割を十分に果たすのにふさわしい立ち位置にある。

 1月18日、午前9時。金融の町チューリヒの中心地パラーデプラッツから100メートルほど離れた場所にある満員の会議場。開発支援団体や大学などから100人を超える代表者と、一握りの民間投資家が集まっている。彼らが待っているのはスイス最大手銀行UBSのセルジオ・エルモッティ最高経営責任者(CEO)と、連邦経済省経済事務局(SECO)のマリー・ガブリエル・インアイヒェン・フライシュ局長だ。ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の意義や課題について議論するSECO主催の「インパクト・ボンド・カンファレンス外部リンク」が始まろうとしていた。

ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)は金融商品の一つで、受刑者の再犯予防や失業者の就労支援など、アウトカム(成果)が測定可能な社会事業のために、民間投資家がサービス提供者(通常は非政府組織〈NGO〉や政府系機関)に資金を提供する。投資家には支払者(通常は行政や基金)から、事業のアウトカムに応じた配当が割り振られる。投資家は成果が達成されるか目標を上回った場合には利益を得るが、そうでない場合は資金を失うリスクも負う。

支払者が行政である場合はソーシャル・インパクト・ボンド、それ以外はディベロップメント・インパクト・ボンド(DIB)と呼ばれる。投資家に支払われる利息は通常7~15%で、リスクの高さと非営利性のバランスをとったものとなっている。

 「現在の経済情勢の中で一つ明確に言えるのは、従来の資金調達手法が厳しい圧力を受けているということだ」。UBSのエルモッティCEOは、貧困や飢え、医療の欠如などの世界的な課題に取り組むための開発支援が不足していると言及しながらこう述べた。

 国連は2030年までに持続可能な開発目標(SDGs)外部リンクを達成するためにはさらに年間2.5兆ドルが必要になると見積もっており、その穴埋めを民間資金の投資に期待する声も聞かれる。

 スイスの貿易協定交渉を担当するインアイヒェン・フライシュ事務局長は、「西欧諸国ではこれまでにない低金利が続いており、投資家は新たな投資分野を熱望している」と言う。そして「経済的利益だけではなく環境・社会的利益を重視する裕福な人たちの世代が現れつつある」と続けた。

 開発投資におけるインパクト・ボンドの優位性は、これまでは活動内容やインプットにあったが、次第にアウトカム(成果)へと焦点を移しつつある。投資家のリターンはもっぱら実現したアウトカムに連動する。

 貿易協定でスイス政府の大使、代理人を務めるレイモンド・フラー氏は「インパクト投資が増えていることで、サービス提供者は革新的な事業に手を出しやすくなっている。同時に、成果を出さなければ資金手当てが少なくなるため、彼らはリスクも負っている」と語った。

スイスのリーダーシップ

 今回の会議で基調演説を行ったソーシャル・ファイナンスUK外部リンクのトビー・エクルズ氏は、今では世界で107案件、総計3億7800万ドル(約405億円)規模で70万人を支援するSIBの生みの親とも呼ばれる。ちなみにSIBの多くは英国や米国で実施されている。

 だが、最も支援を必要とする開発途上国の厳しい条件下で支援プロジェクトを開始することに関しては、スイスはパイオニアでもある。中所得国で初めて組成されたSIB、DIBでは、アルプスの国スイスが立役者となった。SECOは、コロンビアで500人以上の社会的弱者の就労支援をするSIBの最終支払人になっている。支援事業が成功すれば最大約400万フラン(約4億5700万円)を投資家に支払う。

 UBSの慈善部門であるオプティムス基金外部リンクは、インドの教育を支援する世界初のDIBに27万7千ドル、ヘルスケア支援に350万ドルを投資した。女子の就学支援と、私立病院の幼児死亡率を削減するのが目的だ。

 もう一人のパイオニアとして、スイスに本部を置く赤十字国際委員会(ICRC)が挙げられる。紛争で分裂したアフリカ諸国にリハビリテーションセンターを建設するために世界で初めて「ヒューマニタリアン・インパクト・ボンド(HIB)」外部リンクに着手した。民間投資家から2600万フランを調達し、達成された成果に応じて最大1千万フランが連邦外務省の開発支援担当局から支払われる予定だ。

 スイスの全てのインパクト・ボンドが海外支援目的というわけではない。例えばベルン州は難民を労働市場に取り入れるためのSIBを組成した。成果連動型支払契約を活用してこうした社会事業を積極的に立ち上げるスイス公共部門の姿勢は、評価されてしかるべきだろう。金融やフィンテックに強みを持ち、たくさんの開発・人道支援組織が拠点を置くスイスは、インパクト・ボンドにおける世界のハブになる素地を備えている。

 UBSオプティムス基金のフィリス・コスタンツァCEOは、「スイスは世界でも堅固な金融構造を持つ国の一つ。より多くのより良い資金を集めるために、革新的な考えを持つスイス政府と、スイスの金融セクターを引き合わせることは理にかなっている」と述べた。

特効薬とは言えないソーシャル・インパクト・ボンド

ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)は全ての事業に適しているわけではない。1月18日に開かれた会議の出席者たちはSIBの難点と課題について意見交換した。

「SIBは、革新や外部資本、新たな協力や提携が求められるような、明確なアウトカムが設定されている複雑な問題に対処するためには有用だ。だが資金を投入しさえすれば成果が出ることが明白な事業や、外的要因への介入で成果が得られたと評価しにくいケースには適していない」(ソーシャル・ファイナンスUK、トビー・エクルズ氏)

「SIBを成功させるために費やした時間と努力は、我々の利益をむしばんだ。サービス提供者は思ったほど優秀ではなかったので、さらに能力を構築する必要がある」(コロンビアのフンダシオン・ボリヴァール・ダヴィヴィエンダ外部リンク、フェルナンド・コルテ氏)

「SIBは行政のリスクを削減する目的で推進されていても、行政が結局巨額の支払いをすることになれば実際にはリスクは増大すると言っていい」(ソーシャル・ファイナンスUK、トビー・エクルズ氏)

「私たちはデータに乏しい中で活動していた。実際に誰かを就労させるのにいくらかかるのか誰にも分かっていない」(コロンビアの非営利組織インスティグリオ外部リンク、アヴニッシュ・ガンガドードス氏)

「最大の制約は行政から長年にわたって予算を獲得することだと思う。成果を出すのに1年は短すぎる」(多数国間投資基金〈MIF〉、クリスティーン・テーネント氏)

「英国では、契約終了後に継続されたSIBは一つもなかった」(ソーシャル・ファイナンスUK、トビー・エクルズ氏)

「ほとんどの場合、これらの事業ではパフォーマンスを管理するキャパシティーを構築するのに必要な時間を短く見積もりすぎている。フィードバックをしたり修正したりするためにはテクノロジーが絶対に不可欠だ」(米州開発銀行〈IDB〉外部リンク、ジュリー・キャッツマン執行副社長)

(英語からの翻訳・由比かおり)

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