たばこ広告規制可決、動物実験禁止は大差否決 スイス国民投票
スイスで13日、メディア助成金、たばこ広告、印紙税、動物実験に関する国民投票が行われた。たばこ広告規制案は56.6%の賛成で可決された。動物・人体実験の禁止案、メディア支援関連法案、発行税廃止案はいずれも否決された。
メディア支援関連法案は否決
投票前から世論が割れ、投票の行方が注目されていた連邦政府・議会提案のメディア支援関連法案は、有権者の54.6%が反対し否決された。
グーグルやメタ(旧フェイスブック)など、巨大IT企業の台頭により既存メディアが揺らぐ中、政府と議会は、新聞、ラジオ、テレビ、オンラインメディアの品質と多様性を確保するため、年間1億5千万フラン(約190億円)の助成金拡充を盛り込んだ支援関連法案を提案。しかしメディアの独立性が損なわれることを危惧した右派政治家や出版社が、法律施行に反対するレファレンダムを提起した。反対派は特に、資金が最も潤沢な出版社や上場企業も恩恵を受ける点を問題視していた。
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たばこ広告規制案は可決
たばこ広告の規制案を盛り込んだ「子供と青少年をたばこ広告から守るために」イニシアチブは、賛成56.6%で可決された。中央及び東スイスの州では反対票が上回ったが、その他の州では賛成票が過半数を超えた。
スイスは喫煙やたばこ販売の規制が欧州諸国の中で最も甘い。それを問題視した医療・青少年関係組織がこのイニシアチブを立ち上げた。同イニシアチブでは、連邦憲法41条が定める連邦・州が達成すべき社会目標に、「青少年の健康促進」という項目を加え、さらに「青少年がアクセスできる、あらゆる形式のたばこ製品広告を禁止」することを求めている。
イニシアチブの目的は、未成年者の喫煙抑制を目指すことにある。反対派は、イニシアチブが求める広告の禁止範囲にしてしまうと、青少年の目に触れないわずかな場所やメディアでしか宣伝できなくなり、それは行き過ぎだと主張していた。
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印紙税は存続
企業が有価証券(株式やその他の経営参加権)を発行して資金調達を行う場合に課される印紙税の一種「発行税」の廃止案は、62.7%の反対で否決された。賛成票が反対票を上回ったのは、多国籍企業が集まるツーク州のみだった。
2020年に議会が発行税廃止案を可決したが、左派政党(社会党、緑の党、労働党)と労働組合は、これに反対しレファレンダムを提起。レファレンダム委員会によると、印紙税廃止で恩恵を受けるのは最終的には多国籍企業や保険会社、銀行など約50社に過ぎず、中小企業やその従業員にはなんのメリットもないと主張していた。
経済界及び議会多数派である右派・中道派の政党は印紙税廃止を支持。こうした税は世界でもほとんど例がなく、企業立地としてスイスが競争上不利になると訴えた。
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動物実験は今後も可能に
国内の動物・人体実験を全面的に禁止するイニシアチブ(国民発議)「動物実験と人体実験の禁止に賛成―安全と進歩をもたらす研究手法に賛成」は反対79.1%という圧倒的大差で否決された。全ての州で反対が過半数を獲得した。動物実験に関して有権者の是非が問われるのは、スイス史上4度目だった。
同イニシアチブはあらゆる動物実験と人体実験のほか、このような実験を経て開発された新製品の輸入も禁止するよう求めたもので、イニシアチブ発起人は、動物実験を行うことは犯罪に等しく、倫理的だけでなく経済的にも問題があると訴えていた。その一方で反対派は、新しい治療法の研究や物質・成分の発見には動物実験が不可欠で、現在取り扱える代替手段では生体の複雑さを正確に再現することはできず、スイスにおける科学・医学研究の発展を大きく妨げると主張していた。
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低い投票率
4件とも投票率は44%台外部リンク。政治学者のルーカス・ゴルダー氏はドイツ語圏スイス公共放送(SRF)の投票特別番組外部リンクで「投票率は驚くほど低いが、長期スパンで見れば平均的だ」と語った。また、昨年は新型コロナウイルス関連案件が投票率を押し上げたが、今回の投票率の低さは「パンデミックの終わりを告げるちょっとしたサインなのかもしれない」とも話した。
(独語からの翻訳・編集 大野瑠衣子)
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