作曲家セルゲイ・ラフマニノフは、1933年にスイスのフィアヴァルトシュテッテ湖(ルツェルン湖)のほとりに家屋敷を購入し、5年間暮らした。ルツェルン州が今月、この家屋敷の購入を決めた。
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「私は家の中を歩き回り、億万長者のように感じている」。ロシアの偉大な作曲家、セルゲイ・ラフマニノフはルツェルン湖畔の町ヘルテンシュタインに建てた別荘「ヴィラ・セナール」についてこう描写した。
今、ルツェルン州はこの屋敷を数百万フランで買い取り、ラフマニノフの子孫を億万長者にしようとしている。少し奇妙なのは、州自身もラフマニノフの遺言で指名されていたのに、それでも多額の購入費を投じようとしていることだ。
「そうすれば物議を醸すことなくヴィラ・セナールを買い取り、文化・歴史的資産として一般公開できる」。マルセル・シュヴェルツマン州参事はこう説明する。
2万平方メートルの庭園内に佇む邸宅は湖岸に面し、直線とシンプルな設計は風格とモダンさを併せ持つ。90年前に建てられた物だとすぐに分かる人はいないだろう。当時前進的だったバウハウスの作風で建てられ、3年前に国の文化財として保護の対象となった。
漠然とした遺言
ヴィラ・セナールは現在、民間の財団が管理している。本来は、この財団がラフマニノフの子孫にお金を払って相続権を放棄させ、その後ヴィラを文化遺産として管理することになっていた。だが資金不足に陥ったため、ラフマニノフの遺言にのっとってルツェルン州が次の相続人に浮上した。
それに待ったをかけたのは州政府だった。遺言の書きぶりがあやふやで、ラフマニノフの子孫との遺産争いに発展するのを懸念したためだ。州は単純に買い取る道を選び、購入費800万フラン(約9億8千万円)、税金や修繕、保守費用に700万フランを投じることで法定相続人と合意した。
州議会は今月6日、総額1500万フランのヴィラ・セナール購入案を可決した。シュヴェンディマン氏は「ヴィラは早急に改修が必要だ。速やかに解決しなければならない」と話す。改修後はヴィラを文化の拠点とし、展覧会やコンサート会場としても使えるようにする。
夫婦の名を愛称に
ロシアの作曲家、指揮者、ピアニストのセルゲイ・ラフマニノフは、生前から有名なピアノ奏者だった。ヴィラ・ゼナールは、1930年代初頭にルツェルンの2人の建築家が建設した。「セナール(Senar)」という愛称は、セルゲイ(Sergej)と妻のナタリア(Natalja)の名を組み合わせた。
ラフマニノフ家は1934年にこの家に移り住んだが、5年後、第二次世界大戦が勃発する少し前に米国に移住した。ラフマニノフは1943年に逝去。ヴィラ・セナールには孫の1人が住み、2012年の死後は財団の手に渡った。かつてはロシア連邦もこの物件の買い取りに興味を示していたことがある。
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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