ロシアで開催中のサッカー・ワールドカップで、スイス代表は22日のセルビア戦で2対1の逆転勝利を決めた。華麗なる逆転劇に沸く一方で、ゴールを決めた2選手が政治的なパフォーマンスをしたとされる問題も浮上し、スイス主要紙は称賛と批判の狭間に揺らいだ。
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「ジェルダン・シャキリがスイスを震撼させる」。ジュネーブ州の日刊紙トリビューン・ド・ジュネーブ1面にはこんな見出しが躍った。代表チームの中心選手であるシャキリが、後半45分の試合終了間際に速攻で決めたゴールで2対1の勝利に導いたことを持ち上げた。
同紙はこのゴールだけでなく、スイス代表の全体的なプレーの質を高く評価。加えてシャキリには10点満点中8点をつけ、どの選手よりも優れていると評した。シャキリは国際サッカー連盟(FIFA)からもマン・オブ・ザ・マッチ(MOM)を受賞した。
ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーは「精神的な試練」に合格したと位置づけた。世界の強豪ブラジルを相手に引き分けに持ち込んだ初戦に続き、強いプレッシャーに打ち勝った。
政治的パフォーマンス
だがこの試合で注目を集めたのはそのドラマチックな逆転劇だけではない。シャキリのほか、後半7分でゴールを決めたグラニット・シャカが得点後、胸の前で手を交差するジェスチャーを見せたことも話題をさらった。これはユーゴスラビア紛争が起きた1990年代以降、国旗に描かれる双頭のワシを象り愛国心を示すジェスチャーとして使われている。シャキリはアルバニア系コソボ生まれ、シャカは両親がアルバニア人。ジェスチャーはセルビア系への挑発と受け止められ、政治的なパフォーマンスを禁じるFIFAの規則に違反すると物議を醸している。
ターゲス・アンツァイガーは勝利に祝意を示す一方で、この「愚かな」行為はあたかも「オウンゴール」のようだと批判した。この一件が「スイス代表に『スイス人』は何人いるのか」「なぜスイス代表はスイス国家を歌わないのか」といった代表チームに対するからの議論・疑問が蒸し返される可能性があると予言した。
独語圏の日刊紙NZZは、両選手の才能と「政治的な感度の低さ」のギャップを嘆いた。彼らは「手」ではなく「足」でモノを言うべきだと論じ、燃え尽くしたと思われた議論に再び油を注いだと指摘した。
大衆紙ブリックはさらに手厳しく、両選手を「華麗な愚か者」と糾弾。論説で「政治的な敵対者をワールドカップという舞台で挑発することは、不必要で愚かなこととしか言いようがない」とコメントした。
ジェスチャーについて、シャキリは「ただの感情だ」、シャカは「いつも私を支えてくれた人のためであって、対戦相手に向けられたものではない」と説明。2人の戦績への称賛は高いが、スイスメディアの多くは今後数日間「ワシ問題」を引きずるとみられる。
ドイツ語圏の日刊紙アールガウアー・ツァイトゥングは「素晴らしい功績がワシ問題の影に消えないことを祈ろう」と呼びかけた。
スイスのギー・パルムラン・スポーツ相とイグナツィオ・カシス外相はNZZの日曜版のインタビューで両選手を擁護した。パルムラン氏は「熱気に包まれた試合を見れば、スイス代表の功績は高く評価されるし、選手が感情を爆発させてしまうのは理解できる」と語った。同氏はカリニングラードのスタジアムで試合を観戦した。
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