世界経済フォーラム、社会の不平等に取り組む真剣度は?
世界のビジネスリーダーや大物政治家が集まり、社会の諸問題について議論する世界経済フォーラム(WEF)主催のダボス会議が、21日からスイス・ダボスで開催される。同会議に参加経験のある人権擁護者のレスリー・アン・ナイト氏は、ダボスですべてが解決するわけではないと指摘する。
今年の開催期間は今月21日から24日まで。参加団体には国際NGOのオックスファム、アムネスティー・インターナショナル、世界自然保護基金(WWF)なども出席する。
カトリック系国際NGOカリタスの事務局長だったナイト氏は、これまでダボス会議に4回参加。現在は、故ネルソン・マンデラ元南ア大統領が設立した人権擁護団体エルダーズの最高責任者を務める。
swissinfo.ch: 市民団体はWEFに何を期待できますか。
レスリー・アン・ナイト: この質問には毎年悩まされてきた。ダボス会議にいまだ参加している人も「行くべきなのだろうか?」と自問しているはずだ。「どうすればこれに関わらなくて済むか?」と考える一方、「どうしたら注目を最大限に集められるか?」ということも考えているのではないだろうか。
ダボス会議は、影響力の強い経済人や政治家、市民団体が接触できる数少ない機会だ。この三つのグループ(経済界、政界、市民団体)が協力することが近年、多くなってきている。我々は皆互いにつながっており、社会問題の解決の一端を担っているからだ。
巨額の資産を持つ参加者が集まるダボス会議は、果たして社会の不平等や貧困を話し合う場として最適なのだろうか?答えはイエスだ。ここは、こうした話し合いを行わなければならない場なのだ。
swissinfo.ch: 経済界のリーダーたちは(ダボス会議では)うなずいてまっとうなことを公言していますが、言ったことをその後もきちんと守っているのでしょうか。
ナイト: 紛争で崩壊した国に投資する際、市民社会と緊密に連携をとらなければ目標は達成できないことを、彼らは理解している。(ビジネス環境を整えることは)人が成長するためにベストな環境を見つけることと類似している。ビジネスを営みつつ、社会に貢献することは可能だ。
ダボスにもこうした考えが浸透していると思う。市民社会が言おうとすることに、参加者は熱心に耳を傾けている。ビジネスリーダーや財界人たちが企業の社会的責任について語るのは、世間からの評判を気にしているからというわけではない。彼らは開発・人道支援分野で多大な支援をしているのだ。
swissinfo.ch: では、これまでのダボス会議の結果、どのような変化がありましたか。
ナイト: それに関しては、主催者は今よりも丁寧に説明しなくてはならないだろう。我々は冷笑的になって、こう問うてみることもできる。「45年間続いてきたダボス会議がもたらした重要な変化とは何だろうか?」。だがその答えを見つけることはとても難しい。
(しかし、ダボス会議の利点は)自身の所属団体に利益をもたらす人と知り合いになるチャンスがあることだ。それが最も多く行われるのは、パネル討議終了後の廊下だ。これに関してダボスは便利だ。だが、そのメリットが参加コストに釣り合うかどうかは、議論の余地がある。
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swissinfo.ch: 参加コスト以外に、WEFにはどのような問題がありますか?
ナイト: ダボス会議への批判には、その閉鎖的な点が挙げられている。私はその指摘は的を射ていると思う。巨額の予算を持つ国際NGOすら、WEFの作業進行を行う中心グループの隅に置かれている。
我々は、いかなるレベルでも社会的に除外されないよう身を守っていかなければならない。どこを見渡しても、富を握る人の数は、そうではない人に比べ少なくなっている。だが、この点でダボス会議に何かができるとは思えない。
ダボス会議に2回参加した後、「もう一度これに参加する必要があるか?」と自問したのを覚えている。だが、何かを逃してしまうかもしれないというかすかな恐れから、今後も行くべきなのだろうと考えていた。今は確信をもって言うことができる。「逃してしまうものなど何もない。私が出席しているところを他人に見せるためにそこにいる必要はないのだ」と。
正直言えば、市民グループからみたら(ダボス会議は)多少ごちゃごちゃしている。自分に役立ちそうなものにはなかなか近づけず、人と対話しにくい。また、パネル討論では発言内容に厳しい規制がかかっている。
swissinfo.ch: では、今年は参加されないのですね?
ナイト: 今はダボスからの招待状を待ってはいない。私は、所属団体のメッセージ、つまり我々の立場や価値観を様々な方法で世間に伝えられると思う。私の影響力を広げたり、人脈づくりをしたりするためにダボスに頼ることはしていない。そんな必要はないからだ。
非常に価値のあるフォーラムは他にもある。ミュンヘン安全保障会議、国連気候サミット、世界社会フォーラムなどがその例だ。
ITやソーシャルメディアを通していつでも互いに連絡が取れる現在、このように高コストで厳重な警備のいるフォーラムに参加する必要性は薄れている。最近では参加する会議を選ぶことがかなり増えた。
WEFに参加する人は、なぜ会議に招待されたのか、またそこで何がしたいのかを考えた方がいい。そうでないと、雪の中の素敵なパーティーに参加しているとの批判を受けることになる。今の時代、そんな余裕は我々にはない。我々は、目標達成にこれまで以上に集中しているのだ。
2015年世界経済フォーラム(WEF)ダボス会議
第45回ダボス会議はダボスで21~24日まで開催。題は「新グローバル・コンテクスト」。
経済、政治、市民社会、文化、宗教、科学の分野から、過去最高となる約2500人が参加。オランド仏大統領やメルケル独首相、中国の李首相など40カ国からトップ政治家も出席する。
パネル討論では10の主題(環境・資源問題、職業スキルと人材資源、男女平等、インフラや開発などの長期投資、食糧確保と農業、国際トレードと投資、インターネットの未来、国際犯罪と反汚職、社会的包摂、今後の金融制度)について話し合われる。
金曜日のパネル討論では、仏新聞社襲撃事件に続く暴力や宗教過激派の撲滅に関して話し合いが行われる予定。人権擁護者のレスリー・アン・ナイト氏などの有識者は、最近の暴力事件は社会的不平等および排除を訴えるために引き起こされたものとみている。
WEFはスイス人クラウス・シュワブ氏が1971年に設立。当初の名称は「欧州マネジメント・シンポジウム」。欧州と米国のビジネスリーダーたちが連携を強め、問題解決により一層取り組めるようにすることが目的だった。現在の名称に変更されたのは87年。国際問題の解決策を探る議論の場として、会議の意義が広げられた。
(英語からの翻訳・編集 鹿島田芙美)
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