内紛続く「テゾス」 スイス財団代表の解任へ圧力
昨年、新たな仮想通貨の形として脚光を浴びながらも、創設者らの内紛によって揺れる「テゾス(Tezos)」。一向に収束の気配が見えない様相に開発者や投資家が気をもんでいる。仮想通貨技術を使った資金調達「イニシャル・コイン・オファリング(ICO)」で集めた総額10億ドル(約1120億円)超の資金はスイス・ツーク州のテゾス財団にあるが、それが還元されないことに批判が高まっている。
テゾスは昨年7月、新規通貨を上場前に売り出し投資を募るICOで2億3200万ドルの資金を調達。だがその後、テゾス創設者のキャスリーン、アーサー・ブライトマン夫妻と、テゾス財団のヨハン・ゲーヴァース代表の間で内紛が起こり、プロジェクトの成否が危ぶまれる事態に陥った。昨年12月4日には「テゾスコミュニティー」を名乗るグループがゲーヴァース氏の解任を求める署名活動外部リンクを始め、これまでに1400人以上が署名している。
同グループの立ち位置は明らかにブライトマン夫妻寄りだが、広報担当のジョナス・レーミス氏は夫妻や夫妻の会社「ダイナミック・レッジャー・ソリューションズ(DLS)」社とは何のつながりもないと強調する。解任要求に踏み切ったのは、ゲーヴァース氏の報酬を巡る問題、それ以上にICOで集めた資金が昨夏、ツークの財団に移されてから何の進展もないためだった。
解任要求に署名したマイク・モノハン氏は「マイクリプトデリゲート(MyCryptoDelegate)」と呼ばれるプロトコルを開発している。これはテゾストークンの採掘権を第三者へ委譲できるようにするもの。同氏は、財団に支援や出資を求めようとしたが徒労に終わった。
モノハン氏は「私自身、テゾスコミュニティーでは非常にアクティブなメンバーだが、財団は何ら有意義な活動を行っていない。今の財団がテゾスの発展、健全なコミュニティーの育成を真剣に考えていると信じられなくなったのはそのためだ」と言い、「財団が本来の目的に立ち返るには、組織のトップが変わらねばならない」と訴える。
「あぜんとする鈍重ぶり」
署名には、仮想通貨取引を専門とする米ヘッジファンド「ポリチェーン・キャピタル」創設者で、テゾスに巨額の資金を投じたオラフ・カールソン・ウィー氏も署名を連ねた。カールソン・ウィー氏は、空席となった基金の理事ポストに立候補する意向を示す外部リンク。同氏はスイスインフォの電話取材に対し、日進月歩のブロックチェーン業界においては資本の迅速な分配が不可欠だと述べた。
「最も大きな問題は、テゾスのインフラ発展にあたり、財団がこれまで資源や資本を効率的に配分できなかったこと。個人的には、資本分散の遅さにあぜんとした。これは何カ月も前に済ませておくべきだった」
昨年8月、財団は「テゾス・プラットフォームに参画する企業に総額5千万ドルを出資することを約束する。このエコシステムの技術革新と成長を財団の最優先目標とする」という声明を出した。
9月に入り、財団は目標達成への措置を発表したが、内紛が表面化するや否や宙に浮いてしまった。スイスインフォは財団に対し、その後の状況および関連プロジェクトに対する実際の出資額を繰り返し問い合わせたが、返答はない。
一方、アーサー・ブライトマン氏は精力的に各地を回り、財団が休眠状態にあってもテゾスの開発者たちは仕事を続けていると訴えている。
シュミッツ・クルマッハー理事の辞任
先日、事態は新しい展開を見せた。ギド・シュミッツ・クルマッハー氏がテゾス財団理事を辞任、さらに、ゲーヴァース氏が立ち上げたブロックチェーン決済サービスのモネタス(Monetas)社が破綻したのだ。テゾスコミュニティーではこれを受け、対ゲーヴァース氏キャンペーンを拡大。同氏を取り巻く疑惑の監査報告を公表するよう求めた。
シュミッツ・クルマッハー氏は理事辞任以来、ソーシャルメディアに盛んに登場。財団の内紛で銀行が動揺し、開発者へ資金を解放する動きに遅れが生じていると示唆する。ただ、ネット上やテゾスのコミュニティーにおける同氏への風当たりは強い。
テゾスコミュニティーは最新の声明外部リンクで、匿名のモネタス元社員によるゲーヴァース氏への不満を紹介している。
スイスインフォが複数のモネタス元社員や投資家に取材したところ、ゲーヴァース氏に同情する人はほぼ皆無だ。
「これがもしモネタス社だけの問題であれば私が表に出る必要はなかった」。あるモネタスの元幹部は言った。「だが、テゾス財団の状況を聞き、恐ろしい既視感に襲われた。ミダス(ギリシャ神話の王。触るものをすべて黄金に変えた)の手とは逆に、ヨハンはその手でこのエコシステム全体を毒してしまうのではないだろうか」
ゲーヴァース氏からは現時点で回答が得られなかった。
(英語からの翻訳:フュレマン直美)
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