【南極海調査ブログ③】暴風雨「ガブリエル」と日の出とアデリーペンギン
私たちが今行っているような極地遠征では、計画の変更はよくあることだ。徹底的に練り上げた実施計画でも天候などの外的要因で予定が狂うことはある。南大洋の天気は変化が激しく、次々と来る低気圧のおかげで計画通りに進まないことは何度もあった。
砕氷船(さいひょうせん)ポーラーシュテルン号では、気象学専門の乗組員が低気圧にメンバーの名前を付けるのが恒例で、皆の楽しみとなっている。私の名前「ガブリエル」を冠した暴風雨はこれまでで最も強いものの1つとなった。風速は時速150キロメートルに達し、外洋の波の高さは14メートルかそれ以上と推定される大型のもので、ビューフォート風力階級(目視による風速換算法)ではハリケーン級の最大階級12を記録した。
南極大陸から2MBの調査記録
1日わずか2MB(メガバイト)!?これは本連載の極地ブログ筆者が1日に使えるデータ上限量だ。この春、バーゼル大学のガブリエル・エルニ・カッソーラさん(右)とケヴィン・ロイエンベルガーさん(左)は、ドイツの砕氷船(さいひょうせん)「ポーラーシュテルン号」に乗り南極海に出た。マイクロプラスチックが南極大陸の動物や細菌にどう影響しているかを明らかにしたいと言う。このブログ連載では、この2人がその仕事内容と極地遠征隊の生活をレポートする。
このような悪天候下では、甲板や実験室での作業はもちろんのこと、研究基地間の航行もかなりの困難が予想された。そこで暴風雨をしのげる場所を見つけて嵐が通り過ぎるのを待つのが一番の選択だと判断した。「ウェザリング」と呼ばれる航海術の1つだ。
暴風雨「ガブリエル」が来た時、私たちは高さ70メートルの巨大な氷山の陰に約2日間隠れていた。その地点に留まるために4つのエンジン全てを動かし続けなければならなかった。しかし遠征の期間は厳密に決められていて、サンプル採取の予定は変更できても遠征の最終日は動かせない。最悪の場合、失った時間を埋め合わせるためにどの基地にも寄れないこともあり得る。そうなると採取できるはずだったデータの一部が運悪く入手できなくなる。
暴風雨や業務の傍ら、素晴らしい環境に驚嘆する時間も十分にある。美しい日の出、氷山、高層ビルほどの大きさの棚氷(たなごおり)、毎日違う表情を見せる海氷など。そしてもちろん、ユニークで美しい南極の動物たち。私たちは海底観察・水深測量システム(OFOBS)(深海生息地調査のための高解像度の引航式カメラ・ソナーシステム)を使った調査で、海綿、サンゴ礁、コケムシ、魚類、タコ、ヒトデ、ナマコなどの他、様々な生き物を観察し、海底にすむ生物がいかに多様性に富んでいるかを目の当たりにした。それに様々な鳥類や哺乳類など、特殊な機器を使わなくても普通に見かけるこの地に生息する動物たちも印象的だ。
南極大陸に向けて南下中だった時の私たちの船には度々ミナミセミクジラやザトウクジラが訪れた。停泊中の船に近づいて来ることもよくあった。これらの荘厳な生き物たちに出会う度、それは忘れ難い体験となった。船が大陸に近付き、海面のほとんどが海氷で覆われた地点に来ると、ミンククジラやオットセイ、ペンギンを頻繁に見るようになった。ミンククジラは海氷が密集する海域にまで移動し、呼吸のために氷のない海面に浮上する時にその姿を目にすることができる。オットセイは流氷に乗って漂い、船が近寄っても往々にして特別何か感じる様子を見せず、眠っているように見えることが多い。
しかしなんといっても一番可愛らしい生き物といえば、航路上で出くわしたたくさんのアデリーペンギンたちだ。15羽ほどの集団で氷の上で休んでいるのが見えた。オットセイと違って船に注目しているようだ。最初に周りをキョロキョロと見回し、近づいて来る巨大な物体が何者かを理解しようとしている様子だったが、やがて数羽が駆け出し、続けて突然、集団全体が逃げ出した。だがペンギンは走るのは得意ではない。よちよちと逃げる様子を見て私たちは笑った。と同時に、もっと機敏に動ける海の中になぜ飛び込まないのだろうとも思った。本当に、このような環境で仕事ができるのは光栄なことだと思う。
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(英語からの翻訳・佐藤寛子)
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