国境外の領空攻撃も「防衛」 スイスが概念を拡大
スイス軍が自国の防衛概念を広げようとしている。軍は「国境外での攻撃行動も防衛活動の一部とする」ことを目指し、ヴィオラ・アムヘルト国防相が根回しに奔走する。概念拡大の背景には北大西洋条約機構(NATO)に歩み寄る狙いがある。
スイス軍が提案した新しい概念の下では、紛争が発生した際にスイス軍は国境でただ待機し敵の侵入阻止に専念するのではなく、国境外でも戦闘に当たれるようにしなければならない。つまり戦闘機やドローン(無人偵察機)を使い、領空から国境外を狙う。
軍事用語で「航空阻止」と呼ばれる攻撃方法だ。旗振り役のアムヘルト国防相は「ミサイルが自分の家に当たるまで待つのでは防衛の必要がない。手遅れだからだ。ミサイルが標的に到達する前に阻止できるようにしなければ」と強調する。
ミサイル迎撃だけではない。防衛力強化の具体策をまとめたスイス軍の報告書『防衛力の強化』は空軍基地、レーダー施設、ドローン発射台、誘導ミサイル発射台も標的にすることを目指すとした。
今年8月に発表された同報告書は、今後スイス軍が備えるべき行動範囲について「敵国の地上部隊がスイスの防衛圏に到達する前に、スイスの長距離戦力で迎撃することも可能とする。軍隊の進路や指揮・兵站施設、兵力集中地への攻撃により、敵軍の戦闘力を弱める。敵軍の機動力を制限することも狙う。例えば、敵軍が兵器システムを連携して展開したり、部隊を投入したりするのを阻止できるようにする」と列挙した。
ただし同報告書はまだ政治的合意を得られていない。
再定義された防衛の概念
独語圏スイス公共放送(SRF)の調査報道チーム「SRF Investigativ」が2022年初めに公表した調査によれば、この「航空阻止」は、政府が2021年の新戦闘機調達に際して設けた4つの評価基準のうちの1つだった。入札業者は、自社戦闘機が国外での空爆に適していることを証明しなければならなかった。
当時、この「航空阻止」戦略はまだ機密扱いだった。今振り返れば、軍が防衛の概念を再定義・拡大するプロセスの最中で、航空阻止能力が既に軍の中心的な関心事だったのも不思議ではない。そして、米ロッキード・マーチン社のF-35という理想的な戦闘機に行き着いたのだ。
米戦闘機の採用は、他国軍との互換性を持たせるという、いわゆる相互運用性に向けた重要な一歩でもあった。トーマス・シュスリ軍総司令官は今後「より集中的な国際協力」、特に対NATO関係の強化を望む。その目的達成には、適切な材料が必要なのだ。
NATOへ接近
国際協力の強化やNATOへの接近は、スイスの中立性に抵触しないのか。アムヘルト氏の答えはノーだ。
「外国の軍事衝突に巻き込まれたり、口を出したりすることは望んでいないし、あってはならない。それらをしなければ、中立性は尊重されていることになる」と同氏は言う。「もう1つはっきりしているのは、他国との協力において、後に介入を強いられるような既成事実を平時に作り出してはならないということだ」
つまり、スイスがNATOに加盟しない限り、そしてそれに伴い憲法第5条の定める援助提供義務が生じない限り、問題はないと国防相は考えているのだろうか。一定の範囲内であれば、何でも可能だというのか?
アムヘルト氏は肯定する。「外国の軍事衝突に介入しない限り、あらゆることが可能だ。共同演習に加わることはできても、有事支援はできないと確言しなければならない」
独語からの翻訳:宇田薫
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