民主的な通貨制度への改革を訴え憲法の改正を求める「ソブリンマネー・イニシアチブ」と呼ばれる国民発議を、発案者の一人であるシモン・ゼンリッヒ氏(27)が20日、東京で紹介した。この改正案は来年、スイスの国民投票にかけられる。
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横浜市出身。1999年からスイス在住。ジュネーブの大学院で国際関係論の修士号を取得。2001年から2016年まで、国連欧州本部にある朝日新聞ジュネーブ支局で、国際機関やスイスのニュースを担当。2016年からswissinfo.chの日本語編集部編集長。
「銀行が発行するお金は、銀行の通帳に記載されている。でも、このお金は法的に守られていないのだ」と経済学者であるゼンリッヒ氏は説明する。「お金というものは、借金をして、利息を払うことを条件に、銀行がお金を融通することで生まれる」。しかし、この通貨制度は「終わりのない借金のループになっている」と話す。
「銀行の国」として知られるスイスだが、この国民発議は、民間の銀行が破綻するリスクも想定し、預金者の資金の安全を確保したいとし、国の金融システムの中核機関である中央銀行だけが資金を融通すべきだと考える。そして、お金の貸付や預金に金利を付ける商業銀行などの金融機関を通さず、貨幣を市民に直接分配することで、民主的で、経済が効率的になるとみる。発議を起こすため、2015年に憲法改正に必要な10万人以上の署名を集めた。議案を可決するには、州と投票者の両方の過半数が必要になる。
俳優の伊勢谷友介が代表を務めるリバースプロジェクトが主催した20日のイベントには、約50人が集まった。このプロジェクトは、持続可能な社会の未来を見つめ、「おまかせ民主主義」ではなく「参加型で対話型の民主主義」についてみんなで考える。スイスインフォでは、今回のイベントをFacebook Liveでも配信した。
イベント終了後、スイスインフォの取材に対してゼンリッヒ氏は、「参加者からどのように実用できるのかなどの質問が多くあり、お金の仕組みの改革の必要性に興味をもってくれて嬉しい」と話した。また、「たまたまネットで見て知り、このイベントに参加した」という土岐(とき)直美さんは、「これから時代が変わっていく中で、物事の仕組みが変わらないといけないと感じているので、お金の仕組みや日本の状況、周りのみんながどういう考えなのかを知り、すごく勉強になった」と感想を述べた。
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