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国際汚職 撲滅には長い道のり

石油採掘所
リビアの石油採掘場。国際的な汚職への関与が最も多いのは、原油を中心とした商品分野だ Philippe Roy / Aurimages

スイス連邦検察は過去5年間、外国公務員への贈賄で個人11人、企業7社に有罪判決を下した。決して多くはない数字だが、昔に比べれば増えている。経済協力開発機構(OECD)はスイスの取り組みを評価するが、専門家からはシステムの欠陥を指摘する声も上がっている。

7月初め、ベリンツォーナにある連邦刑事裁判所は、バーレーン出身の銀行員に150万ドル(約1億6千万円)の支払い命令を下した。銀行員の父親は2006~11年にリビアの国営石油会社、ナショナル・オイル・コーポレーションの会長を務め、リビアのカダフィ政権の幹部でもあった。銀行員は外国公務員への贈賄に受動的に加担したとして、連邦検察の告発を受けていた。

訴訟の争点となったのは、07年に銀行員の経営するオフショア企業のスイス口座に入金された150万ドルだ。検察は、リビアで工場建設を計画していたノルウェー拠点の多国籍企業ヤラとNOCの合弁事業を、銀行員が父親を通じて取り持った際に受け取った賄賂だとした。弁護側は無実を主張。銀行員は助言をしただけであり、またスイスにはこの件を起訴する領土管轄権がないと反論した。

有罪判決は外国公務員贈賄罪を新設した2000年の刑法改正以来、スイスで有罪判決を受けた数少ない例だ。今追数年、訴訟件数はやや増えているが、有罪判決に結びつく例は極めてまれだ。

汚職リスクの高いスイス

「スイスが主導的、時に支配的な地位を占める一定の経済セクターは、国内経済において重要な役割を担うだけでなく、外国での腐敗リスクがかなり高い」。OECDは18年、外国公務員贈賄防止条約の実施状況を調べたスイスのフェーズ4審査報告書外部リンクでこう指摘した。特にリスクの高いセクターの1つはコモディティーだ。原料取引に携わる企業は、汚職の多い国の役所や国営企業と深い関係を築いていることが背景にある。

国際的な汚職事件への関与で複数のスイスの銀行が繰り返し新聞を賑わしているように、金融セクターもリスクが高い。連邦のマネーロンダリング・テロ資金供与に関する省庁横断グループは19年にまとめた報告書外部リンクで、スイスは国際汚職に絡んだ資金洗浄のリスクが高いと結論付けた。リスク指標を根拠に、「スイスの金融センターが汚職、中でも国際汚職の前提犯罪(不法な収益を生み出し、その収益が資金洗浄の対象となる犯罪)の温床となる」リスクが極めて高いと明示した。

有罪判決はまれ

こうした指摘に反し、2000年以降、スイスで外国公務員贈賄罪の有罪判決を受けたのは20人に満たない。 国際NGO「トランスペアランシー・インターナショナル」スイス支部のマルティン・ヒルティ代表は、「実際にははるかに多くの汚職事件が起きているなかで、これは深刻な問題だ」と話す。同氏によると、それには複数の原因がある。「汚職は隠れた慣行で見つけるのが難しい。検察が捜査に着手する端緒となる容疑が見つからない。さらに、特に司法共助が必要な国際訴訟の場合、汚職があったことの立証は容易ではないことが多い。(汚職に)関わった国の多くでは司法共助の仕組みが機能しない」

これまで有罪判決を受けたのはスイスや外国企業の幹部、ブローカー、企業弁護士、金融事業者、石油トレーダーで、最も関与が多いのは原油を中心としたコモディティー関連だ。

スイス検察は個人だけでなく、汚職を防げなかった企業に対する訴追も強化している。2011年にAlstom Network Schweiz社が有罪判決を受けたのを皮切りに、Nitrochem、Odebrecht、Dredging Environmental and Marine Engineering、KBA Notasys、Gunvor、Andrade Gutierrezなどが有罪を言い渡された。他にも銀行やグレンコア、Sicpa、SBM Offshoreなどの多国籍企業が関与する捜査が進行中だ。

OECDの高評価

これまでの有罪判決のうち、過去5年以内に下されたのは11件。OECDが昨年まとめたフェーズ4審査のフォローアップ報告書外部リンクでは、有罪判決の数に「満足している」とし、前回に比べて前向きな進展があったと強調した。ただ、進行中や終了した捜査に比べて着手された捜査が多いことも指摘。OECDの作業部会は「間断のない連邦検察の活動」を評価する一方で、「国際汚職事件の処罰に向け一層努力する」ようスイスに求めた。

OECD汚職防止課のパティック・ムーレット課長は、swissinfo.chに「OECDは、国をまたぐ汚職に対するスイスの取り組みを繰り返し評価してきた。連邦検察の努力により、スイスはこの分野で最も活発な国の1つだ」と話した。ただスイスは一層努力も必要で、作業部会の勧告を実現すべきだともくぎを刺した。特に内部告発者を守る法的枠組みの強化が急務だとした。

薄い抑止効果

OECDは、外国公務員への贈賄事件に対し個人に制裁を与えても、「効果的、比例的で抑止力があるかどうかは疑問がある」とみる。NGOパブリック・アイのダフィット・ミュールマン氏も「有罪判決が出たとしても、基本的に罰則は弱く抑止効果はほとんどない」と指摘する。法律上、外国公務員贈賄罪は最大5年の禁固刑だ。ただし実刑判決を受ける被告人はほとんどなく、大半は執行猶予や罰金刑で済む。

ジュネーブ大学のカティア・ヴィラール教授は、「金融犯罪の初犯でよくみられる慣行だ。また外国公務員贈賄罪の有罪判決は検察による略式命令の形で決まり、審理無しで下される。そのため量刑が限られる」と解説する。

長すぎる捜査

資金洗浄や汚職の捜査審理は難しく、膨大な時間がかかる。ヒルティ氏は、それには連邦検察内部にも問題があると指摘する。「複雑な手続きを行うには明らかにリソースが不足している。近年は経験豊富な検察官が自発的または強制的に退職したことで、ノウハウが大幅に失われたという組織的な問題もある」。

つまり汚職事件は複雑で、追及には何年もの時を要するということだ。冒頭のバーレーンの銀行員の事件は、犯行がなされたのは2007年、捜査が始まったのは2012年だった。また被告人が控訴を繰り返すことも時間がかかる要因だ。合法的な手段ではあるが、弁護人が時間稼ぎのためだけに行使する場合が多く、これも問題になっている。

(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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