在日スイス人、日本の入国規制緩和に安堵
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ水際対策をめぐり、9月1日から日本は在留資格を持つ全ての外国人について入国制限を緩和した。複雑な思いと安堵の間で揺れながら、在日スイス人たちはまだ確かな安心感を得られないでいる。
「やるせない思いです!」。ティチーノ州ルガーノ出身のエレナ・ラギさん(29)はそう話す。2018年1月に日本語を学ぶために東京へ行き、そこでフランス人のボーイフレンド、ジャックさんに出会った。
だがロマンスはそう長く続かなかった。20年1月にエレナさんがスイスに帰国することになったからだ。学生ビザが切れてしまったのだという。プライベートでも仕事でも、一刻も早く日本に戻りたいと思っていたエレナさんに朗報が舞い込んだ。スイスに帰国してすぐに日本のゲーム制作会社から連絡があり、「数回の面接後に、デジタルコミュニケーション・マーケティングの責任者として就職が決まりました。3月からの予定でした」と話す。
エレナさんとジャックさんが再会の日を心待ちにしていた矢先、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった。日本は3月から厳しい入国制限を始めた。
連邦外務省のホームページには、「4月2日までに再入国許可を持って日本を出国した『永住者』『日本人の配偶者または子供』『永住者の配偶者または子供』『定住者』は、原則として『特段の事情』を持つ者として扱われる。ただし、4月3日以降に出国した外国人はその限りではない。これらの者に対し日本政府は入国禁止を維持する」と書かれている。
学生であり、採用決定後に新たなビザを取得できていなかったエレナさんは、ルガーノの実家に足止めされた。
エレナさんのように人生プランがひっくり返った在留外国人が何千人もいる。入国制限のために、家族に会えなかったりキャリアを妨げられたりする人、何カ月も大学の講義を受けられない留学生たちがいる。日本国外で足止めされた外国人の中には、国外の滞在費を負担しながら日本で税金や住居費を払い続けるために、借金を抱えた人もいる。
批判の高まりを受けて日本政府は、まず8月5日に入国制限を緩和し、永住許可を持つ外国人や日本人の家族の入国を認め、次いで8月28日には、8月31日までに再入国許可(みなし再入国許可を含む)をもって出国した在留資格保持者で所定の手続を経た人に対し、出国日に拘わらず、9月1日以降の再入国を認めると決定した。
日本で囚われの身に
厳しい入国制限による別の影響もある。在留外国人は日本を出国すると再入国できない可能性があるため、日本から出られなくなるケースだ。
エレナさんのボーイフレンドがそうだった。ジャックさんは在留資格を持ち、ロボットエンジニアとして働いていたが、日本を離れることができずに7カ月間自宅にこもって仕事をした。
孤独から抜け出し、ガールフレンドに会うため、祖母の病気を理由に日本を出国した。「人道的な理由」は外国人に再入国を認める例外的措置の一つだ。祖母の診断書、親戚であることを証明する出生証明書、そして事情を説明する雇用主からの手紙を提出し、ジャックさんは8月初めにヨーロッパに戻り、家族やエレナさんに再会した。
観光客と同待遇の永住者
オプヴァルデン準州出身のシモン・ミングさんは、人道支援団体「国境なき医師団」でバングラデシュ、カンボジア、パキスタン、フィリピン、パプアニューギニアの広報を担当している。2018年10月から日本を拠点に活動しており、永住権を持っている。
日本の水際措置が発表されるとすぐに、ミングさんは雇用主の許可を得てパートナーの住むオランダに渡った。観光ビザしか取れないパートナーが、日本に入国できなくなくなったからだ。「私の担当する国とはほぼパソコン越しにやり取りをしていたので、最終的にはオランダにいても日本にいても仕事にはあまり影響はなかった」
「だが、私は日本で税金を払っているし、アパートもあれば社会的な付き合いもある。だから単なる外国人観光客よりも永住者に配慮がないのは腹立たしいことだ」という。実際、日本政府の国境閉鎖措置には永住外国人と観光客の区別がなかった。この「隠れた差別」があることによってミングさんは、「日常生活でさえも自分が歓迎されていない」ようにと感じるという。
数年前から日本は、国際的企業や才能ある人たちにとって魅力的な目的地になってきた。だがコロナ禍における在留外国人の待遇の仕方で、そのメッセージが弱まり、国際社会からの信頼を揺るがした。
また、企業がますます外国人労働者に頼るようになる中で、この入国制限は多くの日本・外国企業の円滑な事業運営を妨げた。もしも外国人労働者が個人的な理由で日本を出国しなければならず、再入国ができなくなった場合、企業は彼らを解雇せざるをえなかったり、最悪の場合は破産に追い込まれる状況になったりしかねない。
9月1日、日本はこれまでの外国人に対する厳しい入国制限を緩和した。
日本の在留資格を持つ約260万人の外国人が、ビザの種類や出国日に関係なく再入国を許可される。教授、学生、有資格労働者や永住者、日本人の配偶者なども含まれる。
だが日本人とは異なり、在留外国人は再入国前に一定の手続きが求められる。
8月31日までに出国した人は、滞在国の日本大使館、総領事館、常時事務所で「再入国関連書類提出確認書」の発給を受けなければならない。申請には有効な旅券、在留カード、交付申請書を提出する必要があり、発給までに数日を要する。
9月1日以降に日本を出国する在留外国人は、出国前に出入国在留管理庁から「再入国予定の申出の受理書(以下『受理書』という)」の交付を受けなければならない。
日本への再入国予定日が決まったら、滞在先の国・地域を出国する前72時間以内に医療機関でCOVID-19(新型コロナウイルス)に関する検査を受け、医師が署名した「陰性」であることを証明する検査証明(以下『検査証明』という)を取得しなければならない。
外務省では再入国関連必要書類提出確認書の交付申請書と、検査証明書の所定のフォーマット(印刷可)を提供している。
日本の空港に到着した在留資格を持つ外国人は、陰性であることを確認するため検疫所で新型コロナウイルス感染症の検査を受け、入国審査で検査証明と受理書を提出する。入国した次の日から数えて14日間は自主隔離を行う。移動に公共交通機関は使用できない。
必要書類が欠けている場合や、出国前の検査で陽性が判明したにもかかわらず搭乗し、日本に到着した場合には入国を拒否される。その場合、出発国に送還されるまでの間、空港内に留め置かれる。費用は自己負担となる可能性がある。
滞在国出発前の検査で陰性だったものの、日本到着時に陽性が判明した場合は入国を拒否されず、日本人と同じ条件で隔離される。
観光客をはじめとした在留許可を持たない外国人は、現時点では日本に入国できない。
出典:Japan Today、日本外務省外部リンク
仏語からの翻訳・由比かおり
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。