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対ロ制裁でスイスの多国籍企業に試練

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ロシアはスイスの貿易相手国としては23番目で、輸出額の約1%を占める Keystone / Yuri Kochetkov

ロシアに対する経済制裁を受け、スイス企業はロシア企業と距離を置こうと努力する。だがロシア企業との関係を公開し、完全に断ち切るよう求める声が強い。

重機大手ABBは2日、ロシア、ウクライナ、ベラルーシとの取引を停止することを発表した。スイスの大企業としては第1号だ。swissinfo.chの取材に対し、「サプライチェーンの寸断やその他の運輸上の問題により、ABBはロシア、ウクライナ、ベラルーシを経由する貨物に関連する新規受注と全業務を一時的に停止する」とも表明した。

同社はロシアに2カ所の生産拠点を持ち、グループ収益の約1~2%を占める。ウクライナやベラルーシでの収益は微々たるものだ。

ABBなどスイス企業各社は域内の従業員の安全を確保しつつ、先行き不安や人道危機を乗り越えようとしている。ロシアを孤立させるための制裁に呼応し、同地域での事業の停止・抑制を発表する企業が相次ぐ。

世界最大のコンテナ船会社MSC(本社・ジュネーブ)のホームページによると、今月1日時点で「バルト諸国、黒海、極東ロシアなど全域でロシア発着の荷受けを一時的に停止」している。物流企業キューネ・ナーゲルも、医療・人道的供給を除くロシア向けの全ての貨物輸送を無期限停止中だ。

23番目の貿易相手

国際的な経済制裁で実際に影響を受けているスイス企業の数は不明だ。経済団体エコノミースイス外部リンクは、2月28日にスイス連邦政府が発表した制裁の輸出企業への影響は軽微だとみる。スイス政府はEUが制裁対象に指定したロシアの個人・企業の資産を凍結し、重要なテクノロジーへのアクセスを遮断し、国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除した。

スイスのロシアとの貿易額は47億フラン(約6千億円)で、23番目に大きい取引相手だ。輸出額の1%、輸入額の0.4%を占める。ウクライナ貿易はさらに小さい。

在ロシア・スイス商工会やモスクワのスイス大使館に登録されていたスイス企業200社以上(20年6月時点)。特に製薬や機械、時計、サービス分野が多い。

だが一部の企業は、市場やサプライチェーンに対する制裁により間接的な影響を受ける。機械・製造業の業界団体「Swissmem(スイスメム)」のマルティン・ヒルツェル会長は先月28日の年次記者会見で、今回の制裁を「事実上の禁輸措置」と位置付けて支持した。SWIFTからの排除で「銀行振り込みができなくなり、ロシアから購入代金や頭金の支払いが不可能になる」ためだ。一連の措置により同業界が被る損失は、昨年の輸出額に相当する9億フランと見積もる。

エコノミースイスの国際関係担当副責任者マリオ・ラモ氏は今月2日、swissinfo.chの取材に「多くの企業は制裁の発動を『待つ』ことはないだろう」と述べ、既に同地域でのリスクがどこにあるか抽出に当たっていると語った。

ソルウェイ・インベストメントグループ(本社・ツーク州)は3日、ロシアでの操業・投資プロジェクトを全て終了すると発表外部リンクした。同社広報部は、ロシア極東部での金採掘事業の閉鎖手続きに着手したと示唆した。同社はこれまでに複数の採掘・鉄鋼事業を営んできた。

同社がウクライナ東部ポプジスキーに持つフェロニッケルのプラントは同国唯一にして欧州最大の生産力を誇るが、ウクライナ戦争により稼働率は半減している。現場では1690人を雇用する。インドネシアなど各国からユジニー港に到着する同プラント向けの鉱石輸送は2月28日以降ストップし、輸出も止まっている。

ロシア・ウクライナに拠点のある他のスイス企業はswissinfo.chに対し、何よりも従業員の安全と福祉を懸念し、国際的制裁を順守し、状況を注視していると口をそろえた。

治験への懸念

この地域はスイスの製薬業界にとって重要だ。医薬品や新弾薬の供給・輸送は制裁の対象外で、ロシュの広報はswissinfo.chに「可能な範囲で供給・輸送体制を維持するためにあらゆる手を尽くしていると語った。

また同社は「刻々と変わる金融の状況を注視し、ロシアにいる患者が必要とする重要な医薬品や診断薬を引き続き受け取ることができるような形に落ち着くことを期待する」と話した。

製薬業界は、ウクライナとロシアでの臨床試験の先行きも懸念する。ロシュ広報は「現在ロシアとウクライナで臨床試験を受けている全ての患者が、引き続き治療を受けられるようにすることが最優先」と強調した。米食品医薬局(FDA)外部リンクによると、ウクライナで治験中の世界の医薬品・機器は251件にのぼる。そのうちロシュは26件と最多の臨床試験を実施しており、ロシアでも50件以上を進めている。

より厳しい対応を

既に制裁が発動されたものの、一段と厳しい姿勢を取るよう企業に圧力がかかる。BPやシェル、エクソン・モビルなど、ロシアの主要資産の売却や完全撤退を決める大企業が増えている。

バイオテクノロジーの企業代表や投資家400人超が2月27日、バイオ医薬業界全体に「ロシアの行動に対する嫌悪を明らかにする」行動を呼びかける公開書簡を発表した。ロシアの企業や投資から即時撤退するよう求めた。

国際法は、企業が人権侵害や虐待を「引き起こす」または「加担する」ことは想定していない。エセックス大学でビジネス・人権を教えるタラ・ヴァン・ホー氏は「ロシアによるウクライナ侵攻により、企業も重い人権侵害や戦争犯罪に『加担』してしまう可能性が広がっている」と指摘する。

こうした「加担」を避けるために、個々の企業が「特定の状況でどれだけ強く独立していられるか、被害を抑えるためにどんな措置を取るか、侵攻を止めるために対ロシア投資をテコにできるか」が重要になると話す。

個々の企業がどれだけロシアに投資しているかを示す統計はなく、その影響力は未知数だ。2018年に米国の制裁対象となったロシアの富豪ヴィクトル・ヴェクセルベルク氏は、複数のスイス企業の主要株主となっている。

スイスはロシアとウクライナの商品取引の重要な拠点であり、SRF外部リンクなどの報道によればロシアの主な資金源にもなっている。国際的な制裁は商品取引を対象にしているわけではないが、一部の大手商社はロシアの国営企業・プロジェクトに出資している。トラフィギュラは2日、ロシアへの投資を凍結し、ロシアの主要石油プロジェクトへの参画を見直していると発表した。

これを受け、商品業界の監視と説明責任の強化を求める声が高まった。スイスのNGOパブリック・アイは2日、商品業界は「大きな武力紛争で繰り返し重要な役割を果たしている」と非難し、監視当局に「透明性と注意力を向上させる」よう求めた。

(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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